↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
17/22

第十七話 薪割りの斧と魔導の芽生え

 レーベン村には、一つの決まり事があった。


 十三歳になった村の子供は、大人たちの仕事を手伝い、自らの「生業」を見定めなければならない。


 村の男子の多くは狩人か木こり、あるいは農業を継ぐ。女子は織物や家事、あるいは街へ出て奉公に行くのが一般的だった。


 村長の義理の娘である私には、当然ながら裕福な家柄の嫁ぎ先を探すか、村長職を継ぐ婿を取るという選択肢が用意されていた。バルトロ義父さんも、優しく温厚な義母のマーサさんも、それを望んでいた。


「エレナ、お前は本当に手が器用で賢い子だ。将来は隣街の豪商の息子さんにでも嫁げば、一生ひもじい思いをせずに済むだろう」


 囲炉裏のそばで煙草をくゆらせながら、義父バルトロはよくそう言って目を細めていた。


 私も当初は、それでもいいと思っていた。前世でデスマーチに追われ、精神をすり減らして死んだ身だ。この田舎町で、そこそこ裕福な家に嫁ぎ、適当に美味しいものを食べて、のんびり一生を終える。それこそが最高のリベンジ人生ではないか、と。


 だが、私の「中身」と「身体」は、それを許さなかった。


 きっかけは、十二歳の冬の直前。 ルーカスと一緒に村の裏手にある薪割り場へ行ったときのことだ。


「よいしょ……っ! ううん、やっぱり重いよぉ……」


 当時九歳のルーカスが、自分の身の丈ほどもある小さな薪割り斧を両手で構え、力いっぱい振り下ろしていた。しかし、太い薪はビクともせず、逆に斧の反動で手首を痛めそうになっている。


「無理しちゃダメよ、ルーカス。薪割りはもう少し身体が大きくなってからでいいの」


「でも! 僕、早く一人前になって、お姉ちゃんを守れる強い男になりたいんだもん! 村のガキ大将のライナスたちが、『エレナお姉ちゃんは綺麗だから、大人になったら俺の嫁にする』なんて言ってたし……絶対嫌だもん!」


 頬を膨らませて必死になるルーカスの姿に、私は思わず噴き出しそうになった。


(おいおい、九歳のガキが『嫁にする』だの『守る』だの、生意気言いやがって。……まあ、ライナスみたいな鼻たれ小僧に嫁ぐのはお断りだがな)


「はいはい、気持ちだけ受け取っておくわ。でもね、力任せに振っても木は割れないのよ。……こうするの」


 私は落ちていた手頃な斧を持ち上げた。


 前世の知識——物理の法則。どの角度で、どの位置に刃を当てれば最低限の力で木目を引き裂くことができるか。私はそれを頭の中で計算し、極めて合理的かつ無駄のない動作で斧を振り下ろした。


 カーンッ!


 快音とともに、太い薪が見事な真っ二つに割れて左右に転がった。


「す、すごい! お姉ちゃん、力なんて全然入れてないのに!」


「ふふん、これが『コツ』というものよ」


 得意気になって胸を張る私。……だが、私の違和感は、そこでは終わらなかった。


(……待てよ? 今の、いくら何でも軽すぎなかったか?)


 自分の手のひらを見つめる。 華奢で、白く、筋力などほとんどついているようには見えない少女の手。 前世の男の感覚から言っても、今の斧の振り下ろしには「人間としての筋力」以外の何かが作用していた。


 感覚を研ぎ澄ませてみる。 胸の奥、丹田のあたりに、温かい「何か」の奔流が渦巻いているのを感じた。 それは、息を吸うように、無意識のうちに腕へ、そして斧の刃先へと流れ込み、爆発的な運動エネルギーに変換されていたのだ。


(これ……まさか『魔力』か……!?)


 この世界には「魔法」が存在することは知っていた。 だが、レーベン村のような僻地では、魔法使いなど一生に一度出会えるかどうかという存在だ。たまに来る行商人や旅の冒険者が、生活魔法で火を点けたり、光を出したりするのを見る程度。村人にとって魔法とは「特別な血筋の人間が使う、遠い世界のおとぎ話」に過ぎなかったのだ。


 私はその日から、誰にも内緒で「自分の身体」の調査を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。