第十一話 再開する諸国漫遊
数日後。ルテティアの港。
快晴の空の下、大型の定期船が汽笛を鳴らしていた。
乗船口の前で、エレナは旅服姿に戻り、背中にリュックを背負って立っていた。
目の前には、リリィが見送りに来ている。
「本当に……行ってしまうのですね」
リリィの顔には寂しさが広がっていたが、その表情は晴れやかだった。
あの事件の後、水竜退治の手柄は「リリィとエレナの共同作業」として街に伝わり、リリィは魔法学園で一躍ヒーローとなった。男子生徒たちからの嫌がらせは完全に無くなり、彼女は自信を持って魔法の道を進み始めている。
「ええ。私には、まだ見ぬ世界を巡る旅がありますから」
エレナは優雅にお辞儀をした。
「リリィさん。あなたには素晴らしい才能と、強い心があります。自分を信じて、立派な魔法使いになってくださいね」
「はい! 私、もっともっと勉強して、強くなります! そして……いつか、エレナ様に追いついて、また一緒に旅をしてみせます!」
リリィは力強く宣言した。
(追いつかれたら私のインチキがバレるから、ほどほどにしてほしいけどな)
エレナは心の中で苦笑しながら、「楽しみにしていますわ」と微笑んだ。
出航を告げる鐘が鳴る。
「それでは、お元気で」
「さようなら、エレナ様! 私の……私の、永遠の憧れの人!」
リリィが大きく手を振る中、エレナは定期船のデッキへと歩を進めた。
船が港を離れ、青いルティナ湖の湖面を滑るように進んでいく。
エレナは船首の手すりに身を乗り出し、風に銀髪をなびかせながら、遠ざかるルテティアの街並みを眺めていた。
ポケットの中には、今回の件でリリィの父親(裕福な商人)から「娘を救ってくれたお礼」として贈られた、大量の金貨と高級な魔法触媒の宝石。
さらに、ルテティア市長からの「感謝状(これまた他国での身元保証書になる)」も手に入った。
「ふぅ……今回も美味しい想いをさせてもらったな」
エレナは誰も聞いていないことを確認し、低い男の声で呟いた。
水着姿を披露して目の保養をさせ(自分も含めて)、可愛い憧れの後輩を作り、手柄と名声を押し付けて自分は実利とコネだけをかっさらう。
(完璧だ。やっぱり人生はこうでなくっちゃな)
自認はどこまでも男。
恋愛も結婚も興味なし。
ただ、この恵まれた容姿と知恵を使い倒し、世界中を気ままに旅する。
「さて……次は西の大都市『アクアリア』か。美味しい酒と肉があるといいんだがな」
銀髪赤眼の美少女——その皮を被った男は、不敵で魅力的な悪魔の微笑みを浮かべ、まだ見ぬ次の街へと向かって、爽やかな湖風とともに進んでいくのだった。




