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私は、週末になると東城先輩の配信準備を手伝うようになった。
化粧品の成分分析、新商品の情報収集、時には撮影のアングル調整まで。
最初はまごついていたけれど、次第に配信の世界が面白くなってきた。
「今日はアイシャドウパレットのレビューよ。新色が6色も出たから、全部試してみましょう」
東城先輩が新作のアイシャドウを次々と試している間、私はコメントをチェックして気になる質問をピックアップしていく。
『ブルベ冬にはどの色がおすすめですか?』
『一重でも使えますか?』
『持ちはどうですか? ラメ飛びはしませんか?』
視聴者からの質問は多岐にわたっていて、それぞれに丁寧に答える東城先輩の姿勢は本当に格好良かった。
配信が終わると、いつも二人でコメントを振り返る。
「今日は視聴者数が過去最高だったわね」
「そうですね。最近、AKIさんの配信、すごく人気ですよね」
「由梨のサポートのおかげよ。一人じゃここまで詳しい内容は無理だったもの」
そんな風にいってもらえると、私も配信活動に参加している実感が湧いてくる。
ある日、東城先輩は配信後に少し落ち込んでいるようだった。
「どうしたんですか?」
「今日のコメントで『最近説明が長くて退屈』って言われてね」
「そんなことないですよ。丁寧な説明だからこそ、AKIさんの配信は信頼されているんじゃないですか」
私が慰めると、東城先輩は少し笑顔を見せた。
「ありがとう。でも、エンターテイメント性と専門性のバランスって難しいのよね」
「だからこそその両方に深い造詣のあるAKIさんの配信が人気なんだと思いますよ」
配信者としての東城先輩の悩みを知ることで、私はこの人への理解がより深まっていった。
そして同時に、AKIとしての東城先輩と過ごす時間が、私にとってかけがえのないものになっていることにも気づいていた。
私が東城先輩の配信サポートを始めてから二ヶ月が経った頃、大きな変化が訪れた。
「由梨、実は来月、他の配信者とコラボすることになったの」
「コラボですか?」
「そう。ミカっていう子なんだけど、最近すごく人気が出てきてる美容系配信者よ」
東城先輩は少し興奮気味に話していた。
「どんな人なんですか?」
「二十代前半の子で、ファッションから美容まで手広くやっているの。フォロワー数もすごい勢いで伸びてるのよ」
スマホで見せてもらったミカの配信画面には、確かに華やかで美しい女性が映っていた。ウェーブのかかった髪に大きな瞳、整った顔立ち。いかにも今時のインフルエンサーという感じだ。
「この子と秋の新作コスメについて対談形式でやる予定よ」
「楽しみですね」
コラボ配信の日が近づくにつれて、一気に忙しくなっていった。
仕事の傍ら、コラボ配信で扱うコスメの選定を進める。
今回は、『AKI・ミカの選ぶ今年のベストコスメ』がテーマだった。
先輩が選ぶベストコスメの相談に乗ったり、紹介する予定のコスメの資料を読み込んだりして準備を進める。
「由梨、この資料なんだけど、いったん紹介するための内容に必要なものをピックアップしてまとめてくれる?」
「あ、はい、やっておきます!」
週末ごとに東城先輩の家に集まって、準備を進めていると、なんだか文化祭前みたいで楽しい。
そうして準備を進めて、配信当日を迎える。
コラボ動画の撮影当日、東城先輩のマンションには、ミカサイドのスタッフさんが朝から出入りしていた。照明機材やカメラの設置、音響チェックなど、いつもより本格的な準備が行われている。
「今日は気合いが入ってますね」
「そりゃそうよ。ミカちゃんも大手の動画配信者だから、スタッフもたくさんいるみたいだし」
東城先輩はいつも以上に念入りにメイクをしていた。
午後二時、ミカさんが到着した。今日の彼女は華やかなピンクのワンピースで、まさにインフルエンサーという装いだった。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。準備、できてる?」
「はい! 楽しみです」
配信開始三十分前、最終的な段取りを確認する。
「最初は軽く挨拶して、お互いの自己紹介、それから今年のベストコスメについて、ジャンルごとに紹介していく形はどう?」
「いいですね。私、特に新作のリップの発色がお気に入りなんです」
「私はアイシャドウパレット推しね。今年は本当にいいものが多かったわ」
私は画面の外で資料の準備をしていた。
「うわぁ、その資料、すごくわかりやすくていいですね!」
「でしょう? うちの手伝いをしてくれてる子なの」
ミカさんは思ったより気さくで話しやすい雰囲気の人だった。
私の準備している資料を覗き込んで、歓声を上げている。
「AKIさんの配信、いつも拝見してます。スタッフさんたった一人であのクオリティの動画を出してるなんて、すごい」
「元々は一人でやってたのよ。最近、由梨が手伝ってくれるようになってね」
午後三時、準備を終えて、私たちは動画撮影を開始することになった。
「こんにちはー! 今回は、最近人気急上昇中の美容系動画配信者のミカちゃんが来てくれてるわよ〜!」
「こんにちはー! 美容系インフルエンサーやらしてもらってます。ミカです! 今日はAKIさんと、今年のベストコスメについて語り合いたいと思いまーす!」
二人は流暢な話ぶりで、段取り通りに撮影を進めていく。
ミカさんの明るく華やかなキャラクターと、東城先輩の落ち着いた専門知識がいいバランスを作っていた。
「まずはベースメイク部門からいきましょうか」
「そうですね! 今年は本当に優秀なファンデーションがたくさん出ましたよね」
東城先輩が今年のお気に入りのファンデーションを手にとった時、何かの拍子でテーブルの端に腕をぶつけてしまった。
「あ、危ない」
咄嗟に出た声が、普通の男性の声だった。一瞬だけだったが、確実に東城先輩の地声が出てしまったのだ。
私はひやっとした。でも、撮影は続いている。
「大丈夫、大丈夫。不器用なのよね、私」
すぐにAKIの声に戻した東條先輩だったが、隣にいるミカさんが一瞬、キョトンとした表情を見せたのを私は見逃さなかった。
しかし、ミカさんは何事もなかったかのように撮影を続けてくれた。
「このファンデーション、本当に瑞々しくて、なのにカバー力がすごいですよね」
「そうそう! それでいて厚塗り感が全然ないの。薄膜仕上げよね」
その後も撮影は順調に進んだ。アイシャドウ、チーク、リップと、ジャンルごとに二人はおすすめのアイテムを紹介していく。
「ミカちゃんのリップの塗り方、すごく綺麗ね」
「ありがとうございます! AKIさんのアイシャドウの技術こそ、本当に勉強になります」
お互いを褒め合いながら進む撮影は、和気藹々とした雰囲気だった。
撮影の終盤、今後の予定について話していた。
「今度は季節のメイクについても一緒にやりたいですね」
「そうですね。冬のメイクとか、パーティーメイクとか、色々テーマはありそう」
東條先輩とミカさんが今後のコラボ予定について楽しそうに話し合っているのを見ると、少しモヤモヤしてしまう。
ミカさんはとても華やかな美人で、しかも若い女性なのだ。東條先輩を女性だと思っているだろうから、別に二人がどうこうとかは考えていないのだけれど……。
「今日はミカちゃんと撮影できて、すごく楽しかったわ」
「私も、AKIさんの知識の深さ、本当にすごいです。また一緒にやりましょう」
撮影終了後、機材を片付けながら、ミカさんは少し考え込んでいるような表情を見せていた。
「どうかした?」
「あ、いえ。すごく勉強になりました。ありがとうございました」
ミカさんは笑顔で答えたが、どこか上の空のようだった。




