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夏の夕暮れ、長くなる影

午後の商店街。


昼間の暑さは、まだ石畳に残っていた。


蝉の声が屋根の間を行ったり来たりしている。


八百屋の店先では、朝顔の葉が風に揺れていた。


けれど、太陽は少しずつ西へ傾き始めていた。


時計屋の石段で眠っていたガブが、ゆっくりと目を開ける。


ふわも、少し遅れて顔を上げた。


二匹はしばらく動かなかった。


暑い。


けれど、昼の暑さとは少し違う。


風がある。


ほんの少しだけ、涼しい。


ガブが立ち上がった。


ふわも続く。


いつものように商店街を歩き始める。


魚屋の前を通る。


大将が店先に水をまいていた。


しゃあ……。


水が石畳に広がる。


濡れたところだけ、夕方の光を映していた。


「もう夕方か。」


大将が空を見上げる。


「まだまだ暑いけどな。」


その足元を、ガブとふわが通り過ぎる。


二匹の影が、石畳の上に伸びていた。


昼間なら、体のすぐそばにあった影。


今は、ずっと遠くまで伸びている。


ふわが自分の影を見る。


一歩歩く。


影も一歩動く。


もう一歩。


また動く。


ふわは少し不思議そうに立ち止まった。


影も止まる。


ガブはそんなふわを少しだけ振り返る。


それから、何事もなかったように歩き出した。


ふわも追いかける。


喫茶ひだまりの前まで来ると、店先の椅子に座っていた子どもたちが二匹に気づいた。


「ガブ!」


「ふわ!」


子どもたちが立ち上がる。


その瞬間、子どもたちの影も長く伸びた。


「見て!」


「影が長い!」


ひとりが道路に自分の影を映して遊び始める。


腕を上げる。


影も腕を上げる。


ジャンプする。


影も跳ぶ。


子どもたちの笑い声が、夕方の商店街に響く。


喫茶ひだまりの女性が店先へ出てくる。


「もうすぐ夕方ね。」


そう言って空を見る。


昼間の青空は、少しずつ色を変え始めていた。


青から、淡い黄色へ。


その向こうには、薄い橙色が混ざっている。


時計屋のおじいさんも店の前へ出てきた。


石段に腰を下ろす。


ガブがその近くを通る。


ふわも隣を歩いている。


おじいさんは二匹を見る。


そして、二匹の長い影を見る。


「ずいぶん長くなったな。」


猫の影なのか。


夏の夕方だからなのか。


それとも、二匹が少し大きくなったからなのか。


そんなことを考えながら、おじいさんは笑った。


八百屋のおばさんも店先から声をかける。


「日が少し短くなってきたねえ。」


「そうだな。」


短い会話。


それだけ。


でも、商店街の人たちは季節が少しずつ進んでいることを感じていた。


夕方の風が吹く。


朝顔の葉が揺れる。


風鈴が鳴る。


ちりん。


その音に合わせるように、蝉の声が少し遠くなった。


ガブは喫茶ひだまりの前で立ち止まった。


ふわも止まる。


二匹の影が、長く石畳へ伸びている。


その影が少しずつ重なった。


ガブの影。


ふわの影。


一つの大きな影のようになる。


ふわがガブを見る。


ガブは何も気にしていない。


ただ、夕方の風を受けている。


ふわもその隣に座った。


二匹はしばらく動かなかった。


夕日が商店街を赤く染めていく。


店先の看板。


植木鉢。


石段。


全部が柔らかな色になっていく。


昼間は暑くて長く感じた一日も、夕方になると急に短く感じる。


商店街の人たちが、少しずつ店じまいを始める。


シャッターの音。


掃除をする音。


「また明日。」


そんな声があちこちから聞こえる。


そして、二匹の影も少しずつ薄くなっていく。


太陽が沈む。


空が青紫色へ変わっていく。


ガブが立ち上がる。


ふわも続く。


二匹は時計屋の石段へ向かって歩き出した。


後ろから、子どもの声が聞こえる。


「明日も来るからねー!」


ふわの耳が動く。


ガブは振り返らない。


でも、歩く速度がほんの少しだけゆっくりになった。


二匹の影は、もうほとんど見えない。


夜が近づいている。


それでも夏は、まだ終わらない。


明日になれば、また朝が来る。


朝顔が咲き。


蝉が鳴き。


商店街が目を覚ます。


そして、ガブとふわはまた歩き始める。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、長く伸びた自分の影と一緒に、夏の夕暮れを歩いただけだった。


その隣で、ふわも自分の影を追いかけるように歩いている。


二匹の後ろには、夕日の名残が静かに残っていた。

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