二つの寝場所
夜の商店街は、昼とは別の場所みたいだった。
昼間は強い日差しが落ちていた石畳も、今は街灯の光を静かに受けている。
店の明かりは少しずつ消えていき、通りには夏の夜の音が広がっていた。
遠くで虫が鳴いている。
風鈴の音が、ときどき風に乗って聞こえる。
昼の暑さはまだ残っている。
でも、夜風は少しだけやさしい。
時計屋の石段で、ガブは丸くなっていた。
ここは、ずっと前からガブの場所だった。
朝も。
昼も。
夜も。
商店街を見渡せる場所。
人の気配もわかる。
風も通る。
ガブにとって、落ち着く場所だった。
そこへ、ふわがやってくる。
いつものように隣へ座る。
でも、今日は少し違った。
ふわはしばらく石段にいたあと、立ち上がった。
ガブが目を開ける。
ふわは通りの先を見る。
昼間に見つけた場所。
木の塀の近く。
小さな影が残っている場所。
ふわはゆっくり歩いていく。
ガブは少し見ていた。
それから、立ち上がる。
あとを追う。
木の塀の近くには、夜風が通っていた。
昼とはまた違う空気。
昼は涼しい場所だった。
夜は、風を感じる場所になっていた。
ふわはそこへ座る。
目を閉じる。
落ち着いている。
ガブも近くへ座る。
しばらく二匹は並んでいた。
でも、少しするとガブが立ち上がる。
ふわを見る。
それから、石段の方へ戻っていく。
いつもの場所。
ふわは少し迷った。
石段を見る。
木の塀を見る。
どちらも安心できる場所になっていた。
以前なら、ガブについて行っていた。
でも今日は違った。
ふわは自分で選べる。
少し考えるようにしてから、木の塀の影に戻った。
ガブは石段で丸くなる。
ふわは別の場所で丸くなる。
夜の商店街に、二匹の姿が少し離れて見えた。
でも、遠くはなかった。
子どもたちが翌朝やって来る。
「あれ?」
いつものように時計屋を見る。
ガブはいる。
でも、ふわがいない。
「あ、いた」
木の塀の近く。
ふわが眠っている。
「ふわ、ここで寝たんだ」
子どもたちは小さな声で話す。
起こさないように。
喫茶ひだまりの女性も気づく。
「新しいお気に入りができたのね」
八百屋のおばさんも笑う。
「自分の場所を見つけたんだねえ」
商店街の人たちは、少しずつ知っていく。
猫にも、それぞれ好きな場所があること。
ガブにはガブの場所。
ふわにはふわの場所。
でも、二匹の距離は変わらない。
夕方になると、ふわはまたガブのところへ向かう。
並んで歩く。
並んで休む。
寝る場所が別の日もある。
でも、一緒にいる時間は変わらない。
夜になる。
石段のガブ。
木の塀のふわ。
二つの場所。
二つの小さな影。
夏の夜風が商店街を通り抜ける。
野良猫ガブは、今日も何もしない。
ただ、いつもの場所で眠っていただけだ。
その隣ではなく、少し離れた場所で。
ふわも自分の夜を過ごしている。
でも、朝になればまた二匹は並んで歩く。
商店街の中に、ふたつの安心できる場所が増えていた。




