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音のあと

朝の光は、昨日と同じように差し込んでいた。


けれど、通りの空気は少し違う。


音が少ない。


昨日のにぎやかさが、すっと引いたあとのような静けさ。


時計屋の石段で、ガブは目を開ける。

その隣で、ふわも目を開ける。


二匹は体を起こす。


ゆっくりと。


急ぐ理由がない朝。


風がひとつ通る。


軽い風。


どこか、すっきりしている。


ふわが耳を動かす。


音が少ない。


遠くの音が、よく聞こえる。


ガブはそのまま立ち上がる。


ふわも同時に立ち上がる。


石段を下りる。


並んで歩き出す。


朝の見回り。


八百屋の前で止まる。


昨日は箱がたくさん並んでいた場所。


今日は、きれいに片づいている。


木の箱は少しだけ端に寄せられている。


地面も、少しだけ濡れている。


水を流したあと。


匂いは薄い。


でも、昨日の名残が、ほんの少しだけある。


ふわはその場所を少しだけ長くかぐ。


ガブも同じ。


それから、歩き出す。


魚屋の前。


氷の音はない。


静かに並んだ台。


少しだけ水の跡。


昨日のにぎやかさが、ここにも残っている。


でも、もう音はない。


二匹は同時に座る。


少しだけ通りを見る。


静かな通り。


それから、また歩く。


パン屋の前。


今日はまだ閉まっている。


匂いも、ほんの少しだけ。


昨日の朝とは違う。


すべてが、少しだけ静かだ。


二匹はそのまま通りを一周する。


角を曲がり、細い道へ。


そこも、いつもより静か。


風の音が、よく聞こえる。


やがて、喫茶ひだまりの前に戻る。


まだ扉は閉まっている。


二匹は同時に止まる。


座る。


何も起こらない時間。


それが、そのまま続く。


ふわはゆっくり目を細める。


ガブも同じように目を細める。


昨日の音がない分、今の空気がよくわかる。


それだけ。


やがて、二匹は石段へ戻る。


上がる。


丸くなる。


距離は、いつも通り。


通りに、少しずつ人が戻ってくる。


でも、昨日ほどではない。


八百屋のおばさんが言う。


「静かだねえ」


魚屋の大将がうなずく。


「こういう日もいい」


それだけ。


喫茶ひだまりの扉が開く。


からん。


音が、ひとつ。


その音が、今日は少しだけよく響く。


おじいさんがやってくる。


ベンチに座る。


猫たちを見る。


静かに丸くなっている二匹。


少しだけ目を細める。


昨日とは違う空気。


でも、それもいい。


午後になっても、通りは穏やかなまま。


音は少なく、風がよく通る。


段ボールの家の中にも、やわらかな空気が流れる。


ふわが少しだけ入る。


すぐに出る。


ガブは石段の影にいる。


それぞれの場所。


それぞれの静けさ。


夕方になると、さらに静かになる。


昨日のにぎやかさが、遠くの出来事のように感じられる。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、静かな一日を過ごしただけだ。


その隣で、ふわも同じように過ごしている。


音が多い日も、少ない日もある。


でも、そのどちらも、この場所の中にある。


商店街は、それをそのまま受け入れて、やさしく時間を重ねていく。

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