表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

そろっていること

朝の光は、すでに通りいっぱいに広がっていた。


夏に近づいた空は明るく、影もはっきりとしている。


商店街はまだ静かだ。


シャッターは閉まったまま。

風だけが、ゆっくりと通り抜ける。


喫茶ひだまりの前に、おじいさんが来る。


いつもより、ほんの少し早い。


ベンチに座る。


帽子を手に持つ。


扉はまだ閉まっている。


そのまま、通りを見る。


静かな朝。


その中に、ふたつの足音がある。


並んだ足音。


おじいさんは顔を上げる。


通りの向こうから、ガブとふわが歩いてくる。


並んでいる。


同じ速さで。


同じ歩幅で。


どちらが前でもなく、どちらが後でもない。


おじいさんは、少しだけ姿勢を変える。


前かがみになる。


よく見る。


二匹は八百屋の前で止まる。


同時に。


同じように匂いをかぐ。


同じだけの時間。


顔を上げるのも、同じくらい。


そして、また歩き出す。


魚屋の前でも、パン屋の前でも。


同じように止まり、同じように動く。


迷いがない。


無理もない。


ただ、そうなっている。


おじいさんは何も言わない。


ただ、見ている。


その目が、少しだけやわらかくなる。


二匹は通りを一周する。


角を曲がり、細い道を抜けて、また戻ってくる。


喫茶ひだまりの前で止まる。


おじいさんは、すぐそこにいる。


でも、二匹は驚かない。


同時に座る。


同じ方向を見る。


ほんの少しだけ、おじいさんの方を見る。


それから、また前を見る。


それだけ。


おじいさんは動かない。


声もかけない。


ただ、その場にいる。


三つの存在が、同じ朝の中にある。


風が通る。


やわらかい空気。


時間が、ゆっくり流れる。


やがて、二匹は同時に立ち上がる。


来た道を戻る。


やっぱり並んだまま。


振り返らない。


おじいさんはその背中を見る。


小さくなるまで見る。


見えなくなってからも、少しだけそのまま。


帽子を膝に置く。


小さく息を吐く。


それはため息ではない。


少しだけ、ほどけるような息。


からん。


やがて、扉が開く。


「おはようございます」


女性の声。


おじいさんは立ち上がる。


「おはよう」


店の中へ入る。


いつもの席。


いつものコーヒー。


窓の外を見る。


もう、二匹はいない。


でも、通りは少しだけ違って見える。


さっきまであった動きが、空気に残っている。


おじいさんはカップを持つ。


一口飲む。


その手が、ほんの少しだけゆっくり動く。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、いつもの道を歩いただけだ。


その隣で、ふわも同じように歩いた。


そして、それを見ていた人がいる。


言葉はない。


でも、もう十分だった。


商店街の朝は、静かに整っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ