同じ歩幅
朝の光が、静かに通りへ落ちていた。
夏に近づいた空は、もうすっかり明るい。
けれど、商店街はまだゆっくりと眠っている。
時計屋の石段で、ガブは横になっている。
その隣で、ふわも体を丸めている。
風がひとつ通る。
やわらかい空気。
その中で、ほとんど同じタイミングで、二匹が目を開ける。
どちらが先でもない。
ほんのわずかな差もない。
同じように、体を起こす。
同じように、前足を伸ばす。
背中をゆるやかに反らす。
小さく、それぞれにあくびをひとつ。
ガブが立ち上がる。
ふわも同時に立ち上がる。
石段の下へ。
並んで下りる。
そのまま、通りへ歩き出す。
どちらが先でもない。
横に並んだまま。
ゆっくりとした歩幅で。
八百屋の前で、同時に止まる。
同じ場所で、同じように匂いをかぐ。
昨日の匂い。
土の匂い。
同じだけの時間。
顔を上げるタイミングも、ほとんど同じ。
そして、また歩き出す。
魚屋の前。
同じように止まる。
同じように座る。
通りを少しだけ見る。
何もない時間。
それも、同じように過ごす。
立ち上がる。
また同時。
パン屋の前でも同じ。
匂いをかぎ、少しだけ立ち止まり、また歩く。
歩幅も、速さも、自然とそろっている。
合わせようとしているわけではない。
ただ、そうなっている。
角を曲がる。
細い通りへ入る。
朝の静けさの中で、二つの足音が並ぶ。
軽い音。
同じ間隔。
やがて、喫茶ひだまりの前に来る。
まだ扉は閉まっている。
二匹は同時に止まる。
同時に座る。
空を見る。
朝の光。
少しずつ強くなる光。
その中で、二匹は並んでいる。
距離は近い。
でも、重なってはいない。
それが、今のちょうどいい形。
しばらくして、同時に立ち上がる。
来た道を戻る。
やっぱり並んだまま。
振り返ることもない。
でも、離れることもない。
時計屋の石段に戻る。
同時に上がる。
くるりと回る。
同じ場所に、同じように体を落ち着ける。
丸くなる。
距離も、呼吸も、同じ。
通りに、少しずつ人の気配が戻ってくる。
八百屋のおばさんが気づく。
「そろってるねえ」
小さく言う。
魚屋の大将も見る。
「そりゃあな」
それだけ。
喫茶ひだまりの扉が、やがて開く。
からん。
朝が始まる音。
でも、もう少し前に、二匹の朝は始まっていた。
野良猫ガブは、今日も何もしない。
ただ、いつもの道を歩いただけだ。
その隣で、ふわも同じように歩いた。
どちらが先でもなく、どちらが後でもない。
ただ、同じ歩幅で。
それだけで、商店街の朝は、少しだけきれいに整う。




