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少しあたたかい風

朝の空気が、少し変わっていた。


これまでの春のやわらかさに、ほんの少しだけ違うぬくもりが混ざっている。


風は同じように吹いているのに、どこか軽い。


商店街の上の空も、少しだけ高く見える。


時計屋の石段で、ガブは丸くなっている。


その隣で、ふわも丸くなっている。


二匹の距離は、もうぴったりだ。


触れているのが当たり前のように、自然に並んでいる。


日差しが、少しだけ強い。


石段も、昨日よりあたたかい。


ふわが先に目を開ける。


少しだけ体を伸ばす。


前足をぐっと伸ばして、背中をゆっくり反らす。


その動きにつられて、ガブも少しだけ目を開ける。


何も言わない。


でも、同じように体をゆるめる。


通りには、少しずつ人が増えてくる。


八百屋のおばさんが言う。


「今日はあったかいねえ」


魚屋の大将がうなずく。


「もうすぐだな」


「なにが?」


「夏だよ」


おばさんは笑う。


「まだ早いよ」


でも、どこか納得している。


風が通る。


その風は、春のものより少しだけ乾いている。


ふわは石段から下りる。


あの場所へ向かう。


待つ場所。


もう迷いはない。


座る。


ガブもその隣に座る。


日差しが少し強く、地面もあたたかい。


でも、まだ心地いい。


子どもたちがやってくる。


今日は少しだけ汗をかいている。


「暑いね」


「うん」


ランドセルをゆらしながら歩く。


猫たちを見る。


少しだけ笑う。


でも、何も置かない日もある。


今日はその日だ。


ただ、見て通り過ぎる。


それでも、何かが続いている。


喫茶ひだまりの前に、おじいさんが来る。


いつもの時間。


ベンチに座る。


帽子を持つ。


今日は紙袋はない。


ただ、座っている。


猫たちを見る。


その姿は、少しだけ変わっている。


距離が近い。


動きもそろっている。


おじいさんは、少しだけ長く見る。


からん。


扉が開く。


「おはようございます」


「おはよう」


店の中へ。


コーヒーの匂いが広がる。


窓の外では、ふわが少しだけ場所を移動する。


日差しが強いところから、少し影のあるところへ。


ガブもそのあとをついていく。


自然な動き。


並んだまま。


午後になると、風が少し強くなる。


暖かい風。


段ボールの家の屋根が、かさりと揺れる。


でも、しっかりしている。


子どもたちが直した形が、そのまま残っている。


ふわはその中をのぞく。


少し暑い。


すぐに出てくる。


ガブは石段の影に戻る。


そこが一番いい場所だと知っている。


夕方になる。


光が少しだけ強く、長くなる。


商店街の色も、少しだけ変わる。


春のやわらかい色から、少しだけはっきりした色へ。


二匹は石段で丸くなる。


でも、ぴったりくっつくというより、少しだけ余裕をあける。


暑さの分だけ、距離が変わる。


それでも、離れてはいない。


野良猫ガブは、今日も何もしない。


ただ、少しあたたかくなった石段で眠っていただけだ。


その隣で、ふわも眠っている。


季節はゆっくり変わる。


でも、この場所と、この距離は、ちゃんとそのまま続いていく。


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