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星色Tickets  作者: 風戸輝斗
第五章

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最終話 夢の向こう側

 遠くからぱんぱん花火の鳴る音が聞こえてきて、あぁ、いよいよ夏本番なんだなぁ……なんて、感傷に浸ってしまう夏休み一週目の終盤。


 つまりは、演劇コンクール地区予選の二日後。


「んん~、おいしい~! 雛鳥ちゃん、おかわり!」

「はい、いっぱい用意したので心ゆくまで堪能してくださいね」

「演劇サークル部主要キャストの打ち上げにどうして本番当日雑用しかしていなかった演劇部部長が在籍してるのか不思議で不思議でしょがないんだけど、恭司、申し開きは?」


 花火を見ながらかき氷を食べたり、たまや~!って叫んだり。


 そんな『ザ・夏!』って感じのイベントが近くの公民館で行われているにもかかわらず、俺たち演劇サークル部はまるであぶれたのけ者のように冷房の効いた部屋に集まって、トルタ・アル・チョッコラータを頬張っている。

 イタリア圏だとガトーショコラはトルタ・アル・チョッコラータと呼ばれているようで、ガトーショコラって名称はフランス圏での呼称だとかなんとか……


「うん、うまい」

 ま、おいしいからなんでもいいや。


「無視するな」

「いっつ!? ……あのさ瑠奈、その指先フルパワーで踏む技封印しない? 普通に痛いよ?」

「無視された私の心の方が痛いんだけど?」

 なわけあるか。

 絶対、俺の方が物理的に痛いってば。


「約束したんだ。県大会からはあげはちゃんを本部員に昇格させて、俺と同じ演出として起用するって」

 と、しれっと県大会のことを話題に挙げていることからおおよそ察しがつくだろうけど、俺たちは見事県大会出場の権利を得ることができた。

 まぁ、地区予選の結果は優勝ではなく準優勝だったんだけど。


「つまり、演劇サークル部が地区予選で準優勝して県大会出場権を勝ち取ったから、あたしは演劇部部長を引退して演劇サークル部一本の本部員になったってわけです。改めてよろしくね、みんな!」

「なるほど。先人切って脱落する死にかけの蛾にどんな価値を見出してのは本部員昇格なのかはさっぱりだけれど、恭司が連れてくるのはどうしてこうも厄介なメスばかりなのかしらね」


「あはは、相変わらず藤沢さんあたしにあたり強すぎて草」

「いや、藤ちゃんも厄介なメスの一枠でしょうが……」

「こらこら、新生演劇サークル部発足早々に喧嘩しないの。困るよな、星」

 バチバチと火花を散らすあげはちゃんに苦笑いしている星に共感を求めれば、ぽかんと口を開けて俺を見つめてきた。


「どうした星? そんな『幽霊見ちゃった……』とでも言い出しそうな顔して?」

「おいやめろ怖いだろ帰るぞあたし」

「あ、あげはちゃんって幽霊とか苦手な性質なんだ」

「ふふっ、いいこと聞いたわ。私の作品にあなたをモチーフにしたキャラクターを登場させてお化け屋敷に放りこんでやる」


「いや、やり方が小物すぎるんよ藤ちゃん……。はいはい、今は雛ちゃんのターンだから厄介なふたりのメスさんはお口チャックね。それじゃ雛ちゃん、どぞどぞ」

「あ、いやその、呼び方が変わる瞬間ってこんな唐突に訪れるんだなぁって……」

 顔をほんのり赤くしたまま、星は、ケーキを小さく切り分けてぱくぱく頬張る。

 なんだか小動物の食事風景を見てるみたいで、のほほんとした気分になってくる。


「雛鳥が自分に自信を持てる日が来たら星って呼ぶって約束だったからな。地区予選での星を見て、そのラインは充分に満たしてると俺は判断した。だから雛鳥はこれから星だ」

「そ、そうなんだ。……あのさ、せんぱい」

「ん、どした?」

「そ、その……さ」

 フォークを皿の上に置き、星は、視線を膝頭の上に置かれた拳に落としたまま口を塞ぐ。


「……星?」

 それはまるで、夜の公園でスカウトしたあの日のようで。


「……わ、わたし、さ……」

 けど、あの日のような歯切れの悪さはない。


「……す、すき……なんだ」

 だって星はもう、ひとりでも立派に輝けるほしだから。


「せ、せんぱいのこと、すき、です……」

 気弱な雛鳥星は、もうどこにもいないから。


「「「え?」」」


 外野から三者一様の驚きが漏れる。


 彼女が必死に紡ぎ出した一世一代の告白に対し、俺がどう返事するかなんて最初から決まってる。


「俺も好きだよ」

「っ!? そ、それってつまり……」

 だってそうだろ?


「星だけじゃない。瑠奈も、すももも、あげはちゃんも、俺はみんなのことが大好きだよ」

 俺の夢のために必死になってくれたみんなを好きにならないなんて無理がある。


「「「「……」」」」


「真正直に言うのも気持ち悪いかな。けどこれが正真正銘、俺の本当の気持ちだからさ、その……俺がこんな風に思ってるってことを胸の片隅にでも畳んでくれたら嬉しいかな……なんて」

 どこぞのツンデレヒロインみたく、いまいち要領の得ない告白をする俺を、四人はいやに冷めた目で見つめてる。


 ……あ、あれ? 

 俺、なんかまずいことしたかな?


「もうさ、一種の才能だと思うんだよね、モモさんは。だから雛ちゃん、そう落ち込まなくていいと思うよ?」

「がんばったのに……。やっぱりせんぱいは、ただの戯曲傾倒系ロリコン鈍感おばけです!」

「ただの戯曲傾倒系ロリコン鈍感おばけってなに!?」

 戯曲にロリコンに鈍感におばけって、要素ふんだんに詰め込みすぎだろ俺……


 ……って鈍感? 

 俺、自分では勘の鋭い方だと思ってるんだけど……


「ふぅ……」

「ふふ、命拾いしたね瑠奈ちゃん」

「名前呼びするな。これだから嫌なのよこの蛾は。恭司、ゴキ○リホイホイ貸して」

「そんなもん、常備してるわけないだろ」


「はは、ほんとかわいいなぁこの子は。大丈夫、ヒロインレースで落ちたとしても、骨はあたしが拾ってあげるからさ」

「こんなドSなご主人様に拾われるくらいなら息絶えたほうがマシよ。というか、同一レースに参加してるのにどうしてあなたは余裕綽々なのよ……」

 瑠奈の頬をつんつんしたりからったり。

 そんなやりたい放題なあげはちゃんに、何故だか瑠奈は反抗しない。


「ほらほら、言っちゃいなよ藤沢さん。雛鳥ちゃんに負けちゃうよ?」

「……」

「いいの? 大好きな恭司、逃しちゃうかもよ?」

「うっさいなぁ。……そんな勇気、私にはないって」


「はは、かぁいいなぁ。じゃあたしが告白しちゃうね?」

「っ! ま、待ちなさい!」

「確実に岸本をKOできるその瞬間が訪れたら、ね?」

「くっ、死にかけの蝶に愚弄されるなんてなんたる屈辱……!」


 なにやらこそこそ話してるけど、如何せん、距離が遠すぎるし、おまけにふたりの向かいでは星とすももが談笑してるしで、会話の内容は一切聞こえてこない。

 今の内容を聞き逃したとしても、鈍感って分類はされないよな?


「ところでみんな、念のため確認だけど、県大会には出場するってことでいいよな?」

「はいはーい、岸本部長」

「なにかな青海副部長」

「小波ちゃんに涙を流させて普通の女の子だって証明した。地区予選では優勝はできなかったけど、準優勝っていう限りなく近しい好成績を収めた。この先にはどうして進むんですか?」

「そりゃ準優勝は悔しいからだろ」

 答えは秒で返せた。


「あの優勝校、全国常連校らしいからな。つまり、あの高校をぶっ倒したら俺たちが最強だって、俺の仲間が最強だって証明できる。それが今の目標だ」

「そっか。……うん、目標が明確で良き良きです。もちろんモモさんはこの先もついていくよ」

 と、まずは一票。


「そもそも拒否権なんてないと思うんだ。けど、わたしは青春を先輩に預けたことをちっとも後悔してないよ。また大舞台で演劇できると思うとワクワクしちゃうなぁ」

 続けて二票目。


「恭司がやるって言うなら、従う以外に選択肢はないわよ。……全国大会の頂点か。修正するよりも新作を書いたほうが良さそうね」

「あたしはそもそも県大会に出場する意向を示してくれなきゃ置きものというかマスコットというか、そのお飾りのまま終わっちゃうんで、どうか皆様、これからも演劇を続けてくださいお願いします!」

 さらに三票、四票と入り、全会一致で県大会に出場する意思が示される。


「よし、決まりだな」

 立ち上がって、俺は強く握りしめた拳を掲げる。


「目指すは天下統一! 俺たちの名を全国に知らしめてやろうぜ!」

「気が早いよ岸本。まずは県大会で勝たなきゃ」

「水差さないでよあげはちゃん……」

 そこは否が応でも乗るところじゃんかよぅ……

 乗りがいいのがあげはちゃんの魅力じゃんかよぅ……


「初陣であの結果だったんだもの。修正したらもっといいものになるわ。期待して頂戴ね、部長さん」

「わたしももっとうまく演技できたと思う。もっともっとがんばるねせんぱい!」

「モモさんも、次はもっと熱の籠もった演技ができるようにがんばりまっせ!」


「みんな……」

 改めて思う。

 俺は、最高の仲間に恵まれてるなって。

 なににも代えがたい大切なものを既に手に入れてるんだなって。


「……あぁ、やってやろうぜ! ここから俺たちの新しい夢を叶える物語のはじまりだ!」


「うん! ここからもっと輝こう!」

 と、星が笑顔を弾けさせ。


「ま、私が脚本の時点で夢は叶ったも同然よ」

 と、瑠奈が勝ち気に笑って。


「ふふ、きーくんすっごく楽しそう」

 と、すももがにっこりと微笑んで。


「これがみんなを魅了する岸本のカリスマ性だよね。……この弟子、リーダーの素質ありすぎじゃんよ」

 と、あげはちゃんが満足げな笑みをたたえる。


 ぱんぱんと遠くから花火の弾ける音が聞こえてくる。

 その音に負けないくらい、俺たちははしゃいで、笑って、今という瞬間を楽しんでいる。


 花火も夏も、そしてこの楽しい時間も、いつかは終わりを迎える。

 だけどそれは、まだまだ先のお話だ。

 だから、感傷に浸るのはしばらくお預け。


 星空に手を伸ばして握ってみても、やはりほしは掴めない。

 けど、それでいいんだ。

 届かないから、いいんだ。


 だってそれなら、いつまでも夢を追い続けられるから。

 この最高の仲間たちと、いつまでも同じ時間に浸っていられるから。


 再び輝き出した、俺の新しい夢。

 その夢は少しの罪悪感も含まず、混じり気のない星色の輝きに満ちている。


                              ―FIN―

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