第2話 金の天主
天主の中は、金でできていた。
壁も柱もふんだんに金箔で塗られ、南蛮渡りの絵や玻璃の品が、ところ狭しと飾られていた。
宣教師たちは、それを見て目を輝かせた。
「おお、信長公はなんと進んだお方か。遠い南蛮の文物を、これほど好んで取り入れるとは。まさに、新しい時代を見通す先進のお方だ」
家臣も、口を揃えた。
「殿は、古いものにとらわれぬ。鉄砲しかり、南蛮の品しかり。誰も思いつかぬ、新時代の天才であらせられる」
違う。
何もかも、違う。
南蛮の品を集めたのは、もとはといえば、南蛮胴が欲しかったからだ。あの、遠い異国の職人が鍛えた、銃弾すら通さないという鉄の胴。
暗殺者に鉄砲で狙われても、あれさえ着ていれば、命は助かるかもしれない。そう思って、宣教師を城に招き、酒を出し、笑顔で話を聞き、ついでに一着、都合してくれと頼み込んだ。すると、宣教師は喜んで、南蛮の絵だの、硝子の器だの、脚の高い椅子だのを、次から次へと運んでくるようになった。
一着の胴が欲しかっただけなのに、気づけば、天主は南蛮の品で埋まっていた。というだけのことだ。
新しもの好きなんかじゃない。ただ、少しでも丈夫な防具が欲しかっただけの、臆病者だ。刺されて死ぬのが、撃たれて死ぬのが、怖くて、怖くて、たまらないだけの男だ。
そして、なぜ、壁まで金で塗ったのか。豪奢を好んだからか。違う。これにも、ちゃんと、俺なりの理由がある。
金は、よく光を返す。蠟燭の明かりひとつでも、壁がぴかぴかと照り返して、部屋の隅々までが、昼のように明るくなる。
普通の板壁なら、灯りを何十も灯しても、隅には黒い影が残る。その影に、何かが潜んでいる気がして、俺は落ち着かない。だが、金の壁なら、光を跳ね返し合って、影という影を追い払ってくれる。
明るければ、暗がりに、刺客が潜めない。
夜、寝所の柱の陰に、誰かがひそんでいるかもしれない。そう思うだけで、俺は息が浅くなり、夜着の背が冷たい汗で貼りつく。だったら、暗がりそのものを、この城から消してしまえばいい。
つまり、あの金ぴかの天主は、南蛮趣味でも、天下人の贅沢でもなくて、「夜でも、どこにも暗がりを作りたくない」という、俺の、切実な怯えの結晶だった。
夜が怖い。背後が怖い。暗がりが、いちばん怖い。
だから、城ごと、まるごと明るくした。それだけのことだ。
けれど、それを口に出して言える相手など、どこにもいなかった。「儂は、暗いのが怖いのだ」などと言えば、天下がひっくり返る。だから、俺は今日も、うやうやしく金の間へ案内されては、宣教師や家臣の讃嘆を、こわばった顔で黙って聞いている。
世は、それを、革新と呼んだ。先進と呼び、天才と呼んだ。
俺は、ただ怖くて、夜通し灯りを絶やせなかっただけ、なのに。
金で塗ったのは「暗がりに刺客が潜めないから」――革新と讃えられた本音の落差にニヤけたら、【笑える】か【びっくり】を! 引きこもりの巣作りの続きを、ブックマークで見届けてください。




