第1話 焼くな、と俺は言った
俺の生涯で、いちばん取り返しのつかないことをしてしまった話をする。
これから話すことは、笑い話にはならない。ずっと、話さずにおこうかと思っていた。何度も、口を開きかけては、やめた。思い出すだけで、息が苦しくなる。
それでも――これを話さなければ、俺がなぜ、最後にすべてを捨てて消えたのか、その本当の理由が伝わらない。俺の小さな願いが、どこから始まったのか。そのいちばん深いところに、この夜がある。
だから、話す。逃げずに、話す。
俺は、山を焼いた。
比叡山を。
千年のあいだ、仏を祀ってきた、あの山を。僧も、そうでない者も、その日、山にいた多くの命が失われた。
どれほどの数が失われたのか。それは、言い伝える者によってまちまちだ。少なかったと伝える者もいれば、おびただしかったと伝える者もいる。俺には、正確なところは分からない。数えることなど、できなかった。数えようとすることすら、許されないと思った。
ただ、一つだけ確かなのは。
戻らぬ命が、たくさんあった、ということだ。それを、俺がやった。
「第六天魔王、織田信長」。
世が俺を、そう呼ぶようになったのは、この日からだ。仏敵。神も恐れぬ、悪鬼。そう呼ばれるようになった。後の世まで語り継がれる、俺のいちばんおそろしい所業として。
その通りだ、と思う。弁解はしない。火を放ったのは、まぎれもなく、この俺の手だ。誰のせいにもできない。
だが――聞いてくれ。
俺は、焼きたくなんてなかった。仏が怖かった。罰が当たるのが怖かった。坊主が怖かった。人を殺すのが、何より怖かった。
俺はただ、争いごとを避けたかった。寺とは、事を構えたくなかった。できることなら、誰とも戦わずに済ませたかった。
そういう男だ。俺は。虫一匹、踏むのもためらうような。人を斬れば、必ず夜通し泣くような。そういう、情けない男だ。
なのに。
なぜ、あんなことになってしまったのか。それを、順を追って話さねばならない。
俺は、好きで山を焼いたのではない。俺は何度も、何度も、それを避けようとした。頼むから、戦わずに済ませてくれと、頭を下げ続けた。なのに、すべての道が塞がれて。最後の、最後に。俺の中のいちばんおそろしいものが、目を覚ましてしまった。
その、すべてを、これから話す。
思い出すだけで、胸が潰れそうになる。声が震える。
だが――俺はただ、穏便に済ませたかったのだ。
なのに。
「いちばん取り返しのつかないことをした。なのに、焼きたくなんて、なかった」――その重さに息を呑んだら、【いいね】か【泣ける】を! なぜそうなったのか、続きをブックマークで見届けてください。




