第6話 重い役目
断らない者のところに、面倒事は集まる。俺は、それを知っていた。知っていながら――その律儀な男に、次々と無理を押し付けてしまったのだ。
ちょうどその頃、ある大きな話が持ち上がっていた。落ちぶれた将軍家の血を引く、足利義昭という人を奉じて、京へ上る。そういう話だ。
将軍候補ともなれば、気位も高く、要求も多い。あれをせよ、これを整えよと、難しい注文が次々に降ってくる。その義昭方と織田方の間に立って、両方の顔を立てながら話を進める。これが、とんでもなく骨の折れる役目だった。
誰も、やりたがらなかった。板挟みになって、双方から文句を言われる。報われない。割に合わない。そんな役目だった。
俺は、誰に任せようかと考えた。そして――気づけば、光秀の顔を思い浮かべていた。あの男なら、教養がある。礼法も心得ている。将軍家のような気難しい相手にも、そつなく応じられるだろう。
何より。頼めば、断らない。
「明智。義昭さまとの取次。そなたに任せる」
「……承知、仕りました」
光秀は、いつものように深々と頭を下げた。その横顔に、一瞬よぎった影を。俺は、見て見ぬふりをした。
それから、光秀はすり減っていった。義昭方の気難しい要求と、織田方の都合と、その間で。あちらを立てれば、こちらが立たぬ。こちらを立てれば、あちらが怒る。板挟みの真ん中で、光秀は双方に頭を下げ続けた。夜遅くまで書状を認め、夜が明ければまた走り回る。日に日に、その顔はやつれていった。
それでも、決して弱音を吐かない。
「某に、お任せを」
そう言って、また無理を引き受ける。
俺は、それを見ていた。そして、思った。
――また、あの男に押し付けてしまった。
断らないから、つい頼ってしまう。頼れば、楽だから。任せておけば、間違いがないから。だが、その「断らなさ」が、あの男を追い詰めているのだ。
俺には、それが痛いほど分かった。なぜなら、俺自身も。断れずに、流されるまま、この天下の階段を上らされているのだから。
俺は、断れない。だから、岐阜と名づけられ、天下布武の印を捺し、京へ上らされる。光秀も、断れない。だから、誰もやりたがらぬ役目を、一身に背負わされる。
似た者同士だ。似た者同士で、片方がもう片方に重荷を押し付けている。
すまぬ、と思った。本当に、すまぬ、と。だが――ほかに、頼れる者がいなかった。
家中の者は、光秀の働きを無邪気に讃えた。
「明智どのは、何でもこなされる」
「さすが、殿に見込まれただけのことはある」
讃えられるほど、また役目が増える。できる男のところに、面倒が集まる。集まれば、またすり減る。
俺は、それを止められなかった。止め方を、知らなかった。
俺は、知っていた。あの律儀な男に、無理をさせていることを。断れぬ者に、面倒が集まることを。知っていながら、止められなかった。
なぜなら、俺もまた、断れずに――この、終わりの見えぬ階段を、一段、また一段と上らされていたのだから。
「断れぬ者に、面倒が集まる」――押し付けてしまう罪悪感と、止められない苦さに胸が痛んだら、【いいね】か【泣ける】を! すり減っていく縁の行方を、ブックマークで。




