第6話 魔王の子だくさん
夫婦を演じていれば、いずれ、こういう話が出てくる。
世継ぎだ。
「御台をお迎えになって、はや幾月。そろそろ、お世継ぎの吉報を」と、家中の者が遠回しに、しかし執拗に、せっついてくる。家を継ぐ者が要る。それが、武家というものだ。
俺はこれが困った。子作りは求めぬ、というのが、帰蝶との契約だ。それ以前に、俺は自分の血を世に残すということが、どうにも怖い。
ある夜、俺は帰蝶に、その怖さを打ち明けた。
「俺はな……自分の子を持つのが、怖いのだ」
「ほう。なにゆえ」
「俺のような臆病者の血を引いた子が生まれてみろ。その子もまた、いつ殺されるかと、怯えて生きることになる。あの竹千代のように、人質に取られて、震えながら夜を数えることになるやもしれぬ。――そんな思いを、俺の子にさせたくない」
俺はうつむいた。
「それに、契約で結ばれた俺とお前の間に、無理に子を作るのも、お前への筋が通らぬ」
帰蝶はしばらく黙って、俺を見ていた。
それから、ふっと笑った。呆れたような、けれど、どこか温かい笑いだった。
「殿は、つくづく優しいお方じゃ」
「優しくなどない。ただ、臆病なだけだ」
「同じことよ」
帰蝶はそう言って、膝を進めた。
「ならば、こうなさいませ。世継ぎは――養子を、お取りなさい」
「養子……」
「身寄りのない子、縁ある家の子、引き取り手のない子。この乱世には、いくらでもおりましょう。そういう子らを引き取って、我が子として育てればよい。血のつながりなど、なくてよい。殿が、その子らを怯えずに生きられるよう守ってやれば、それで立派な親じゃ」
俺は目を見開いた。
そんなことが、許されるのか。
「それにな、殿」
帰蝶は悪戯っぽく目を細めた。蝮の娘の、本領が出る顔だ。
「子らをたんと取って、織田は子だくさん、と世に知らしめればよい。魔王の血筋は、いよいよ繁栄する――そう思わせておけば、誰も、織田を潰そうとは思わぬ。子が多いというのは、それだけで、家を守る盾になりまする」
なるほど、と俺は唸った。
引き取った子も、家を継ぐべく生まれた子も、すべて、ひとしく我が子として並べる。誰が血を分けた子で、誰がそうでないかなど、外には知らせぬ。ただ「織田には、頼もしい子らが大勢いる」とだけ、世に思わせる。
血の有無を、世間の目から、まるごと隠してしまう。それは、俺たちの契約結婚を、いちばん自然に守る道でもあった。
「お前は、本当に、知恵が回るな」
俺が心からそう言うと、帰蝶はつんと澄まして見せた。
「父譲りじゃ。蝮の娘を、侮りなさるな」
その夜から、俺の家族は、少しずつ、形になっていった。血ではなく、契約と、縁と、そして「守ってやりたい」という、ただそれだけの気持ちで結ばれた、奇妙な一家。
家中の者は、子らが増えていくのを見て、こう囁いた。
「魔王、一族郎党を従え、いよいよ盤石なり」と。
違う。
俺はただ、一人でも多くの怯える子を、夜の闇から、守ってやりたかっただけだ。
俺の家族は、血ではなく、縁で、結ばれていく。
それが、俺にはなによりも、しっくりきた。
「魔王の血筋を世に怖がらせればよい」と知恵を回す帰蝶の頼もしさに感心したら、【にこにこ】か【びっくり】を! 血でなく縁で結ばれる家族の行方を、ブックマークで。




