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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第13話 『地の文』が強引にまとめていく

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05 補償してあげて

「目指すところは『襲撃が不要になる』段階。そうだなあ……災害とかで何とかならないか?」

「何と?」


 俺の提案に、シュヴァルツは眉根を寄せた。表情出すなって、ギャップ出るから。


「いや、思いつきなんだけどな。もちろん災害をわざと起こすんじゃなくて、自然に起きちゃうものってどうしてもあるだろ。防げればいいけど全部防ぐのはたぶん不可能だ」


 現代日本でも、自然災害には後手に回るしかないんだ。そもそも「発生を止めること」は無理じゃないかな。


「あとは事故も同じ。起きないように努力しても、ゼロにはならない。それで、起きたときの被害ってけっこうなもんだからさ……そこで発生する『負』を回収できない?」

「――面白い」


 うわ、すげえ真剣な顔になった。

 待って、その顔、すっごいイケメンに見える。これまでになく。杏里沙がちょっとキュンしちゃうからやめて。俺は少し目をそらした。


「もし自然災害や事故で帳尻が合うなら、襲撃なんて要らなくなるだろ。……可能か?」


 俺は考えてるふりで、いや実際考えてもいるんだけど、視線をうろつかせながら尋ねた。


「実に面白い。発生地点の特定に注力すればよさそうだ。――やりようがある。可能だろう」


 ほんと、面白がってそうなんだよな……。

 たぶんだけど、ほんとに優秀なんだよ、この人。いや、魔族。まじで実現してくれるんじゃないの? 俺の思いつき。


「あとなあ、賠償」

「何と?」

「ここ五年の大きな被害者には補償してあげて」


 「今後被害はありません」だとしても、発生した被害がなかったことにはならないもんな。まあ、俺が魔物を退治したときの被害者はド悪党だって言うから……いいことに……していいのかよく判んないけど……。


「その……ただ、亡くなった方とかは……」


 ここが悩ましいところだ。ご遺族の方とかは、「今後襲撃がないので大丈夫です」とか「金銭で補償します」とか言ったところで、気持ちがおさまるもんじゃないだろう。


「魔物の襲撃があれば、通常は癒やし手も総出で出向くものなのよ。あなたのときはあっという間だったから、通りかかった私だけだったけれど」


 レナが肩をすくめた。


「それじゃ」

「ええ。襲撃による死者は出ていないはず」

「まじで?」


 俺は口を開けた。

 意外だ。意外すぎる。「五年に渡る魔王の襲撃」「大きな被害があった」「魔王を倒す運命の〈聖なる勇者〉」みたいなコンボで、死人が出てないとは思わなかったよ。そりゃ家が壊れたとかは充分「大きな被害」だし、誰も亡くなってないのは本当によかったけどさ!


【シュヴァルツは優秀な魔王であったが、それでも人間の命にまで気遣った訳ではない。レナの言うように、癒やし手たちの働きがあってこそだった。】


 ほんとだよな。俺も身をもってよく知ってるよ、重傷レベルの負傷も祈りで治るんだからな。

 もちろんこれはレナが超優秀だからできることで、普通は複数名の神官が夜通し祈るとかが必要にはなるらしいけど。


「いや、本当によかった」


 もし「家族を亡くした人がいる」とかだったら、さすがに「賠償で何とかしよ」で押しづらかったよ。


「じゃあ一時的にでも『生活できない』状態になったような人に補償したい。どうだろう」

「判定基準はどうするんだ?」


 俺がふんわり言うと、遠慮がちにジャレットが手を上げた。


「補償が出るなんて判ったら、『実はうちも被害に遭ってた』って言ってくるヤツが大量に出るぞ」

「ええ……?」


 俺は引きそうになったが、でもまあ、有り得る話だよな。


「それに、金額はどうやって決める?」

「そ、そうか。そういう問題も」


 保険の知識とかないなあ、杏里沙には。


「よければ俺が判定しようか」

「へ?」


 そのままジャレットが言ってきて、俺は目をぱちぱちとさせてしまった。


「一応……少々経験がある」


 雄介の、と小さく口が動く。何? 雄介さんは損害保険会社勤めとかだったの?


「内容的に実際の被害数はそこまで多くないだろうし、家屋の一部損壊から全壊くらいなら調べられるだろう。素人よりはましって程度になるけどな」

「すげえ」


 俺は心から言った。経験者すごい。


「でも肝心の、金はどうするんだ?」


 ジャレット、それとも雄介が両腕を組んでちらりとシュヴァルツを見る。


「魔王……様は人間の金なんかお持ちじゃないんじゃ?」


 迷った末に敬語対応になったようだ。気持ちは判らないでもないけど、勇者の仲間がそれじゃかっこつかないんじゃない?


「ジュイムに出させればいいんじゃないか?」


 もっとも、敬語には特に触れず、俺はただ提案した。


「どうだ? シュヴァルツ」


 別にジャレットの「魔王様」呼びに対抗した訳じゃないけど、面と向かって俺が言うと、ジャレットが「おお……」みたいにこっちを見てくる。いいだろ、タメ口で。


「ふむ。おおよそ理解した。確かに我々に人間のような『資産』はない。ジュイムに頼るとしよう」


 「閣下」に頼られたらジュイム、嬉しすぎて倒れちゃうんじゃない?


「兄貴も、『僕の閣下』のためなら全財産吐き出しそうだな」


 弟の判定も同じだった。


「具体的な金額については悩ましいが……まあ、そこは兄貴と話してみるよ。『資産価値』についてはあいつの方が詳しいだろ」


 え、冷静に相談ができるの? 自分を殺そうとした兄貴と? そこがいちばんジャレットのすごいとこかもしれない。


【実際、ジュイムとジャレットはそこまで仲が悪い訳でもない。】


 は!? 無理がないかそれは!?


【ジュイムがジャレットを呪った石像には、対象を死なせるまでの力はなかったのだ。せいぜい、数日ほど意識不明になる程度であった。】


 は!? 何!? 殺すつもりはなかったってこと!? ジュイムの株も上げるというか、落とすのやめたの!?


【兄弟仲がよいとも言えないふたりだったが、これをきっかけに、交流するようになるかもしれない。】


 いや……どうなのかな……?『地の文』くんさあ、強引にまとめようとしてない?

 まあ、シノンもラクエイも株上げて、ジュイムだけ極悪非道キャラみたいだったのは気になってたから、いいっちゃいいけどさ……。


 俺は少しだけ納得いかないような、ジャレットのためにはよかったような、複雑な気持ちで『地の文』を受け入れた。


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