04 学んでくれ
「念のために聞かせてほしい」
渋々と言うんじゃないけど、俺は「これを聞いて決めよう」と思った内容を質問することにした。
「もし俺があんたを倒したらどうなる?『有り得ない』はなしで」
「なしか」
シュヴァルツはふっと笑った。笑うな、耳元で。それも何だか嬉しそうに。
「オカもそんなことを言ったものだ」
もういいよオカさんのことは!……話したければあとで聞くから。
「そうだな、お前が私を倒したとする。先ほどの五百年の話は、私やジュイム、ラクエイの運営力を見込んだ上であり――」
運営力。ってか、ラクエイの!?
あいつおもしろ賑やかし枠じゃないの!?
「ラクエイはやっぱり無事なのね」
レナがそっと言った。
あっ、そうだった。倒してない疑惑あったんだよな。
「無論。あれが聖剣の消費を狙っていたことには気づいていたが、ユウオがお前たちに同行していたので任せられた」
魔王はこくりとうなずいた。
ちょっとユウオさん、魔王にめっちゃ信用されてるね?
ユウオの立場がよく判らないままだったけど、どうやらあいつは「勇者を通すためにラクエイを退場させる」「『運営』には必要だから聖剣で消滅はさせず、魔界に一時的に帰す」ってややこしいミッションをこなしてた訳だ。
言えよ!
立場的にもトークスキル的にも難しいのは判るけど!
もうちょっと言って!?
「私がいなくなれば、彼らも当然、この城から離れる。となれば保つのは長くて百年。この座を引き継ぐ者が均衡を気にかけない存在であれば、人の世から奪えるだけ奪うだろう。そうして人が衰退すれば自分たちの首を絞めることになるとも理解できずに」
……うん、そういう話になるよね。
シュヴァルツさんがやり手かつ効率厨のおかげで五百年保証があるって話だよね。
倒す理由がねえ!
共存だ共存!
俺はレナとジャレットを見る。
「……通じた?」
「理解はできたわ」
「まあ、そういうヤツか、とは判った」
ふたりとも「理屈と方向性は判りました、ただ、気持ちは追いついてません」という顔をしてる。ですよね。わかる。
「強いて言わせてもらうなら、ソースがない、が……」
ジャレットがもそもそと言った。魔王の発言に根拠求めちゃう? そりゃシュヴァルツが言ってるだけではあるけど、騙す理由はなくない? 向こうからすりゃ、俺たちぶっ飛ばせばいいだけなんだし。
「証拠が要る、と?」
シュヴァルツは少し面白そうにした。同じようなことを思ったのかも。
「何が欲しい? 私以外の魔族の証言か? いろいろ聞けるだろう。たとえば『幽鬼という高位の種族でありながら人の世界で無駄に時間を送っている』。或いは、『最低限の仕事はこなすので更迭もされない要領ばかり良い奴』というのはどうだ?」
「すごい。一発で立ち位置が判った」
シュヴァルツさん、いわゆる窓際的な魔族なんですか?
そういや『地の文』が「四魔王」とか意味判らんこと言い出してたよな。まさか、「四魔王のなかでは最弱」……?
【〈漆黒の魔王〉というのは難しい存在だった。人間の世界は魔族にとって「低俗」だ。高位の種族になればなるほど、行きたがる者はいない。】
失礼だな。
【しかし人間たちの「生産」を削らなくては魔界そのものが危うい。〈漆黒の魔王〉は、誰もが望まぬ場所に使命を負って赴く者だ――そう、まるで勇者のように。】
言った。それはもう俺が言った。
てか、まじか。
むしろ俺より使命負ってない?
【もちろん、誰でもいいということにはならない。四魔王に名を連ねるほどの強者でなくてはならなかった。】
出たな、四魔王!
【シュヴァルツが自ら名乗りを上げたのは、見知らぬ世界への興味のためもあったのだろう。彼は魔界でも、退屈していたからだ。】
有能すぎると退屈になるのかな?
実際、たぶんシュヴァルツは有能だからあれこれ改善して、その結果として暇になってるんだよな。
四魔王のなかで最も効率厨? 効率上げて暇ができると評価が下がるの? 人間かよ。
「つまり、雑に人間界を破壊する方が魔界での評価は高いってことか?」
魔界の評価って何か判んないけど。シュヴァルツはうなずいた。
「大まかにはそういうことになる。しかし私は効率の悪い行動をし続けることが耐えられん」
「おかげでこちらの被害は少なめ。俺はけっこうな被害だと思ってたんだけど、世間的には『魔王? ああ、倒してもらえるなら助かります』くらいの温度なんだよな」
最近は「異変」のせいで、魔王を倒してくれという声も増えたけど、あれはシュヴァルツのせいではなさそうだし……。
「で……どうするんだ? 戦うのか? その、一応って言うか、試合みたいに」
手をこねくり回しながらジャレットが俺に尋ねてきた。
「試合」
ルールに則って勝敗を決める。スポーツみたいに。もちろん、命を賭けることはない、ってことだよな。
「……どう? やりたい? ジャレット。レナも」
「あー……俺は別にどっちでも……」
「私はアーサー次第よ」
うん、まあ、そうだよね。戦意がないと言えば聞こえはよくないけど、こいつを倒さなきゃ、みたいな感じはとっくになくなってるよな。有難うね、ふたりとも。
ただ、まだ何か引っかかる……五百年以上の平和はだいぶ保証されそうな感じになってきたけど……うん?
そうだ。五百年って、長いよな。
「あのさ。魔界の消費力が増加しても、人間側の生産も増えたら?」
俺はそこに気づいた。引っかかったのはこれかも。
何をして生産だの光だのと言ってるにせよ、五百年あったら人間の文明もかなり進歩するよ? 五百年前って、戦国時代くらいだよね? 現代、生産力、桁違いよ?
「五百年前は室町時代……世界的には大航海時代でもあるな」
ぼそりとジャレットが補足してくる。俺は助かるけどレナが困るから!
「ふむ。その考えはなかった。確かに人間の進歩は目覚ましい」
なかったのかよ! ナチュラルに人間舐めすぎでは!?
でも、五百年とか全然余裕で生きる種族からすると、「鼠対策しても、鼠も進歩するけどどうする?」って感じかもしれないよな。「そっかあ鼠も進歩するかあ……?」みたいな。
「んじゃ、それも人間に教わってくれ」
俺はひらひらと手を振った。
「何と?」
シュヴァルツは目をぱちくりとさせた。やめろ、可愛く見える。表情が出てくると「超越した人外」感が薄れて俳優ばりのイケメンに見えちまうんだよ。
「ジュイムが先生役やってて何とかなりそうなら、『下等な人間』に教わることに抵抗はないんだろ?」
「自分たちを下等などと卑下することはない」
うっ、そういうつもりじゃなくて、下等って思われてるだろうなって……これも一種の卑下ではあるのか。
「知識を得、使っていくことを好む種族もある。種族に関わらず、そうしたことを得意とする個体も。知っての通り、人間を軽んじて襲う者、襲って返り討ちに遭う者もいる。様々だ」
魔界は現代日本どころじゃない多様性がありそうだな。
「それならあんたが指揮して、学んでくれ。人間の進歩の速度と、どんな手段で『生産』していくかを。それに合わせて適切な『消費』で両世界を守ってくれ」
何て言ったっけな……そうだ、「同時同量」? 勉強系の動画で見たことがある。電力の消費と生産を釣り合わせるみたいなことに近そうだよな。
ちょっとニュアンスは違うかもだけど、雰囲気としては似てる気がする。たぶん。
「面白い。そうした提案は、オカからもなかった」
お、百年前の面白コンテンツ、浅岡マーリン編超え? 光栄です、閣下。




