03 生産と消費による循環
「今度は何の効率?」
俺は素直に聞くことにした。聞けばちゃんと答えてくれる魔王だから、つい。
「無論、生産と消費による循環だ。消費力の増加が見込まれる」
「はい?」
え、なに? 何かの授業はじまった?
「人間界が生む力を魔界側で消費することで両世界が回ることは知っているな?」
「は、初耳だが」
なんて? 俺は目をぱちくりとさせた。レナとジャレットも似たような反応をしている。
「ふむ。オカはそんなことも次代に伝えなかったのか」
「言っとくけどマーリン浅岡とは面識ないからな」
芸人の名前みたいになっちまった。でも両方まとめるとこうなるんだから仕方ないだろ。俺はアーサー杏里沙?……マーリン浅岡のほうが語感いいくらいじゃん。
「ふたつの世界は表裏一体だが、長らくそこに繋がりはなかった。しかし人の世で過剰に生産された光が魔界に悪影響を及ぼしはじめ、やがて世界の壁を超えた者が人の世の生産力を削ることに成功した。――そちらからすれば『魔王の誕生』だな」
……えっと?
【この魔王城の様子からも判るように、人の世と同じ光は魔界に存在しない。だが人の生産する力が強くなるにつれ、魔物たちにとって危険な光が伝わりだした。彼らは、それを削る必要があった。】
あの、まさか、魔界を救うための勇者が魔王なんですよ、みたいな話してる?
「やがてその方法が確立され、光が漏れ出したら削る、ということを繰り返したが、あまり効率がよくない」
出た、効率!
「そこで目安となったのが数値――『資産』だ。これを一定数削ればしばらく持つ、ということが判明し、そのようにしてきた」
……頭では理解できるが気持ちが追いつかないな?
「しかしそれでも、お前たちが知っての通り、長くて百年程度だ」
シュヴァルツにとっての百年って俺たちの感覚でどれくらいだろう。
一年とか? さすがに盛りすぎ? 十年くらいかな? だとしても「戦のない時期」としちゃ長くはない。十年ごとに次の勇者を派遣するのは確かに効率面でいまいちかも。……あ、俺まで効率とか考え出しちまった。
「それが五百年になるって言うんだな。五倍はなかなかだが……それはジュイムの経験や知識があって出せた数字だろ?」
俺は改めてそこを指摘した。
「五百年後に、その何だ、消費力の増加? がなかったら? 上がってもそこまでじゃなくてやっぱり破壊が必要になれば? 五百年後にジュイムはいない」
どうしよう。「ジュイムを魔族にする」とか言われたら。できるのか知らないけど。ってか、もしできるなら本人的には幸せかもだけど。
「悲観的だな」
【最初から「できない」可能性を論じるアーサーにシュヴァルツは呆れたようだった。】
うっ、なんか立場が逆! 勇者こそ「できる」を言うスタンスであるはずだが!
「根拠なく『できる』って言えばいい感じになると思ったら大間違いなんだよ!」
能力がないのに「できます」って言うのは最悪だって、会社でよく聞きます! ただし、「できません」って言っても怒られるけどな……。
「成程、ジュイムは人の子。百年と経たずに死ぬ。それはお前たちの間では当たり前のことだろう。どうやって技術や知識を継承するのか?」
「どうって、そりゃ」
学校で教わったり、仕事で引き継いだり……。え、まさか。
「あの……まさかあれ、教室? ジュイムがいた部屋」
あの教室っぽい部屋、本当に教室だったってことある?
「……まさか兄貴、教えてるのか? 魔物に?『数値の出し方』とかを?」
さすがにジャレットも驚きのあまり口を出してきた。それは驚くよね。って言うか意味判んないよね。
え、教えてるの?
先生なの? 魔物の? 自分で言ったけど、意味判んない。
「いや、無理じゃないか?」
弟はあごに手を当てた。
「兄貴に人を教える能力が備わってるなら、俺は風術を伸ばそうなんて考えなかったかも」
「……教わったことが?」
つい、俺は尋ねた。ジャレットは肩をすくめる。
「判らない点を質問すると、即、人格否定がきて蔑まれた幼少期を思い出す……」
「お前、まっすぐ育ってよかったな」
俺は心から言った。「雄介」を思い出す前のことでしょ? ほんと闇落ちしなくてよかったよね。
「かつてはともかく、いまはいろいろ教え方を工夫しているようだ。『判りやすい』と評判もいい」
シュヴァルツはそう言うが、果たして本当にジュイムが教え方を学んだのか、魔物相手に横柄な態度を取ったら自分の命が危ないから抑えてるだけなのかは俺たちには判らない。
いや、「僕の閣下」のためにガチで努力した可能性もあるか。シュヴァルツに認められたい気持ち、ちょっとだけ判る気がするもんな。……俺は違うからな!?
【魔王と呼ばれ、災厄をもたらす者とされているシュヴァルツは、確かに人ならぬ存在だ。妖力の圧、同じ空間にいるだけで乱される心、時間感覚の違い――そうしたことからも、ひしひしと伝わってくる。だが同時に、「人間ではない『だけ』」なのだ、という気持ちもアーサーの内に芽生え出していた。】
勝手なこと言うな。と言いたいとこだが、当たらずとも遠からずなんだよなー。
杏里沙として見たり読んだりしてきたたくさんの物語でも、人外との共闘とか珍しくないし、好きだし……最終的に争い合うのはどうあっても向こうが力押しだったり、倒さないとこっちが滅びるみたいな、絶対的な利害の不一致とかのためで……。
シュヴァルツの話が本当なら、このまま放っておくのがいちばんましではありそうなんだよなー。
俺は勇者として何をどうすべきなのか。
頭も心もごちゃごちゃになりそうだ。
何とか少し、整理しないと。




