01 百年ぶりの面白コンテンツ
『地の文』のノリが突然おかしくなるのはいまにはじまったことじゃない。妹がどうとか微エロがどうとか、果ては自分で打ち切りまでやらかしたからな。
だから、突然「私どうなっちゃうのー!」的な予告定型文を出されても今更驚かない。
ただ現状、情報が錯綜しすぎなのは問題だ。
たぶんだけど、俺が送った長文感想に激しくやる気を出した『地の文』は、深夜テンションで続きを書き殴ってる。
何しろ俺に届くのは言うなれば「初稿」で、あいつが最初に勢いで書いた「読み返したり書き直したりする前の内容」だ、というのが推定できてる。だから投稿されるときには、さっきの予告なんかは消されるんだろう。
それでも、この世界に影響を与えるのはそのトンデモ初稿だ。
これもたぶんなんだが、シノンの「魔界の巫女」設定、ジュイムの登場、ラクエイの忠誠心、こういう「設定はあったけど出せてなかった」系も終盤に向けて全部出してしまえ!――というノリになっている。
おかげでいまは大渋滞。
魔王シュヴァルツには人間の街を破壊するノルマみたいなもんがあって、それを測る「数値」、つまり「資産」が極端に多い悪徳商人の蔵を狙ったことが巧く働き、当分――五百年――は破壊活動を行わない。
俺は、それって五百年後に破壊を再開する約束同然だから、やっぱ倒しとくべきなんじゃないかって考えた。自分で言うのも何だけど、勇者っぽくていいと思う。
そこから出てきた設定が特に多い。
前の勇者も実は転移者。聖剣を抜けるのは「この世界の人間じゃない」という特徴による。
前の勇者の本名というか、転移前の名は「アサオカ」で、魔王は「それを継いでアーサーなのだな」とかポンコツぶりを見せた。
その辺から馴れ合いがはじまりそうな空気になって。
アサオカ……浅岡としよう。シュヴァルツは浅岡と実は仲がよくて、「オカ」とか呼んじゃってる。はっきりとは言ってないけど前回は談合的なもので一時的に引っ込んだっぽい。魔族には百年くらい「一時的」ってことだ。
これだから人外はよー! まあ、数ヶ月とかで戻ってこられるより文句はないけどさ。
浅岡「先輩」のこっちでの名前はマーリン。何でだよ。アーサー王伝説繋がりはいいとしても、何で騎士とかじゃなくて魔法使いなんだよ。
って思ったけど、それも少し判った。
「オカ」に親しげで、その流れで俺のこともただ面白がってる魔王が、俺が剣を抜こうとすると「人間は野蛮」とか言い出したんだ。それは「戦うから」じゃなくて「剣というもともと認証鍵であるものを武器にして振り回すから」。
なんじゃそれ。
浅岡さんは魔界の技術を学んで、異世界人である自分にしか抜けない仕組みを聖剣に組み込んだ。
こういう職人と言うか技術者面が彼に「円卓の騎士」じゃなく「偉大なる魔法使い」として有名なマーリンを名乗らせたんじゃないかな。
――と、玉座の間にきてからの情報をまとめてみたが、頭が追いつかない。
多いよ!『地の文』!!
……ああ、そうだ。
まとめきれない出来事がひとつ。
それは、シュヴァルツが俺を――私をアリサと呼び、『地の文』もその名を使ったこと。
魔王は本当に「異世界」の何かを知ることができる、というのは、考えられることだ。それがこの世界の事実でも、『地の文』の設定でも、そんなに不自然なことじゃないとは思ってる。
この世界に「アーサー」としてやってきた俺は、「アーサーは自分だけどアバターみたいなものであって同一ではない」という感覚でいた。「杏里沙」は「アーサー」だけど、「アーサー」は「杏里沙」じゃない、というような。
だけど、名を呼ばれたことで、その境界が壊れた。
おかしな言い方になるかもしれないんだが、アーサーである俺が杏里沙と呼ばれたことによって、「アーサー」と「杏里沙」が完全にイコールになった気がする。
呼ばれた瞬間はそんな分析より恐怖の方が強かったけど――レナの癒やしで何とかしのぐことができた。仕組みがどうあれ、「ユーザー名を取得されたようなもの」として受け入れることにしたんだ。
ただし、『地の文』が「アリサ」と描写したことについては、判らない。
『地の文』が私の名前を知るはずがない。送ったメールはもちろん本名じゃないし、たとえ杏里沙を名乗ってたとしても、読者の名前を突然主人公につける作者もいないだろう。
『地の文』はあくまでも自分の小説「勇者アーサーの戦い」を書いてるだけで、この世界をのぞいてる訳じゃない。向こうの書いたことはこっちに影響するが、逆はない。
唯一の例外が俺で……俺の行動は『地の文』に反映される。
魔王もそうなのか? 魔王が俺の、アリサの名を読み取ったから、それが『地の文』にまで伝わった?
有り得る。
俺も魔王も「異界の存在」だ。この世界の理みたいなものの外にルーツがある。それが関係するのかも。
「何を考えている?」
シュヴァルツが囁く。含み笑いも聞こえた。
これ、さっきまでなら「強者の余裕」「自分に逆らう愚かな人間を面白がっている」と取ったんだけど、「オカ」呼びや「剣」について教えてきた様子からすると「オカのように面白いことを見せてほしい」を感じる。
シュヴァルツにとって俺は、百年ぶりの面白コンテンツ、「〈聖なる勇者〉続編」の可能性がある。
だとしたら――わりとハードル高えぞ?
「この、戦いにならなさそうな空気をどう処理するべきか考えてるんだ」
俺は正直な返事をした。レナとジャレットの目が「わかる」と言っているように見える。わりとやる気満々でここまできたんすよ、俺たち。フラグみたいの立てながらさ。
「戦いたいのであれば付き合おう。何本やりたい?」
「教官かよ」
「俺から一本取ってみろ」みたいなヤツじゃん。何で勇者が魔王に稽古つけてもらうのよ。
「だがお前には『魔王と戦った』という実績が必要なのだろう。オカもそうだった。完全な嘘はつけないと言って。おかしな男だった」
【魔王は口元に手を当てた。微かに笑ったようだった。】
完全じゃなくても嘘って言っちゃった! やっぱ談合かー。
てかほんと仲良しじゃん、オカさんとシュヴァルツ……完全に「友を懐かしんでる」ムーブだよ……。




