06 異なる点
「もう一度回収すればしばらくは充分そうだ。国王には『魔王は追い返した』とでも言っておけ」
「んな……」
本気? てかそもそも、事実?
これが本当なら、「実質、魔王による被害は問題ではなくなる」ということに……。
いや、いやいやいや。
これ、あと一件襲撃するけど目標は悪党だからいいよね、そのあと五百年は襲わないからもう帰りなさい、って言われてるんだよな? 待って、これ受けていいの? ちょっと考えていい?
まず。
「悪党ならいいじゃん」と「悪党でも駄目」は、俺のなかにどっちもあって、即座に答えが出せない。
でも、確実に出せる答えがひとつある。
「あのさ。あんた、自分で言ったじゃんか。ジュイムが糾弾されたらジュイムの雇い人もただじゃ済まないって。悪徳商人にもそれは言えるんじゃないの?」
悪いヤツに雇われてたんだから職を失おうと被害に遭おうと仕方ない、って論調もあるだろうけど。その是非はさておき。俺は魔王に公平性を説いた。
……魔王に公平性を説いた?
「ふむ。成程。言われてみればそうだな。雇われ人たちの多くは咎もなかろう」
……魔王に公平性が通じた。
「大きな商家ではなく個人で探すよう、ジュイムに指示してみるか」
「……それもどうなのかな」
悪党ならいい……いいのかなあ?
それにしても、何なんだこの状況は。『地の文』はどういう展開にしようとしてるんだ?
あのさ、シノンの株を上げようとしたことは、まだ判るよ? 何度もやり取りして、『地の文』が気に入っちゃったのは、共感しなくても理解できるよ? ラクエイについてもまあ、面白キャラになってきたし、やっぱり理解はできる。
でもさ、魔王はこれまで、俺の背後取っただけじゃん!
『地の文』は魔王のどこに思い入れを抱いて、退治しない方向にしようとしてるの!? 漆黒じゃないところ!?
【勇者は葛藤していた。五百年とまで行かずとも、数百年という期間が本当であるなら、「魔王を倒した」と報告をしてもそう問題はない。嘘に抵抗があるなら「停戦の契約を結んだ」でもいいだろう。しかし、数百年後になればジュイムもいない。「数値」が何であれ、それを「回収」するために数百年後の魔王が何をするかは、判らないのだ。】
そうだ! それだ! 数百年後には、効率的な計算してくれるジュイムは死んでる!
ほかに有能な人材を勧誘するかもしれないけど、一度の襲撃でまた数百年休み、なんてペースになる保証はないんだ。
「永遠に『五百年に一度』ならまあ、災害みたいなもんだと割り切れるかもしれないが。『五百年後からは毎日になります』と言われるかもしれない訳だろ」
【アーサーはシュヴァルツを睨みつけた。彼の闘志は消えていない。】
てかお前、どっちなの? 五百年とか言い出したのは魔王と戦わないように話を持ってこうとしてたんじゃないの? 気が変わってやらせようとしてる?
もしかして〈光の二律背反〉使いたい、とかあるのかなあ。でもシュヴァルツには効かなかったんだよね?
――俺の正直なところを言うなら。
戦わずに済むならその方がいい、という考えに変わりはない。レナも危ない目に遭わないってことだし。
「じゃ、王様には巧いこと言っときますね」とか言って、それでケリが着いたことになって俺も帰れるならそれでもいいんじゃね、って気持ちも正直、なくはない。
でもさ、五百年後の悲劇の可能性を――勇者が見過ごしちゃならんだろ。
「状況は理解できたよ。あんたには『人の世を破壊した』という実績みたいなもんが必要で、それで魔物を送ってた。人間を滅ぼす意図はもちろん、苦しめたい訳でもなくて、暇つぶしって訳でもない」
俺はゆっくりと話し、止めていた歩みを再開した。
近寄りたくねえ! これだけ話してても怖えのは怖えの! 月光石も効かない相手だよ!?
「五百年。人間の、個人としての感覚で言えば永遠みたいな時間だ。あんたらにはそうでもないんだろうが」
ユウオが七十歳だもんな。
「それでも、王国が続き……いや、国が続かなくても人間の営みが続いて、みんな何とか頑張って生きてる五百年後があるんだとしたら。それを守ろうって気概くらい、持ってたいよな」
後半はちょっともごもごした。恥ずかしくなってきて。
「かっこいいぞアーサー」
ジャレットの冷やかしが入る。いやたぶん本気で褒めてくれてるけど。振り返ると、レナも何だか嬉しそうに見てる。うう、恥ずかしい。
「実に面白い」
魔王の囁きボイスの音量は少し近寄っても変わらない。妖力で届いてるならそれはそう。
「あの男と同じような思想を持つ。これが『勇者』の資質という訳か」
「知らねえよ」
【勇者はぶっきらぼうに返した。戦い以外の道があるとは、アーサーには思えなかった。】
恥ずかしいのと、ほんとに「前の勇者のことは知らん」からってだけで、何もそんなバトルモードじゃないけど……倒して帰りたいんだからさあ! シュヴァルツくんも悪役らしく盛り上げてよ! でないと、俺がやらなくてもいいバトルやろうとしてる物分かり悪いヤツになるじゃんか。
「だが、異なる点も多い」
「そりゃそうだろ」
思わず俺は突っ込んだ。もしかしてシュヴァルツさん、人間の区別があまりついてないとかそういうこと?
「出生も――真実の姿も」
「……何?」
え?
「お前はどこからきた?――アリサ」
心臓が、飛び出すくらい跳ねた。
全身の毛が逆立つって、こういうことなんだって思った。
「え……」
「私には見える。あの男も、そしてお前も……本物の〈聖なる勇者〉とやらは、魔界よりも遠いところからやってくる。『遠い』と表すのも、正確ではないが」
なに……え?
【シュヴァルツの言葉はアーサー、それともアリサを酷く打った。】
え……なんで『地の文』まで……私の……名前を?
【〈聖なる勇者〉……シュヴァルツの言う「本物」とは異界からの転移者――アーサーに〈ワーストエンド〉を遺したかつての勇者もまた、異世界からやってきていたのだ!】
『地の文』が何か強烈な設定を暴露した気がする……でもちょっとそれどころじゃなくて……。




