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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第12話 『地の文』が地の文らしい

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04 情、とは

 レナとジャレットが困惑してる。俺もだけど。

 でもふたりは、ユウオに人間の血が流れてて魔界で迫害されてたのとか知らないから、俺より意味判らないよな。「お告げ」を共有するタイミングがなかったんだ、すまん。


「勇者は知るか。ユウオの出自を」


 「ゆう」と「ゆう」でノイズだな……『地の文』で見る分にはいいけど台詞は音で聞いてるからちょっと気になるよ。てか『地の文』も入力するとき気づかなかった? あとで直す系?


「……少しな」


 俺は『地の文』にツッコミながら外ヅラを作った。

 魔王と対話するつもりはなかったんだけど……てかこの段階で「世界の半分をお前にやろう」とか「自分に仕えるなら重用してやる」とか「人間は不浄、滅ぶべき」系以外の話になることあるんだ……。


「あれは人の血を引く。魔界ではとても考えられない出来事だ。お前たちの感覚で言うなら、猿の子を産むようなもの」


 レナとジャレットにもこの囁きボイスの内容はちゃんと届いてるようで、ふたりはどう反応していいか迷う様子だった。

 俺も困ってる。「人間を猿だと! 馬鹿にするな!」とか言い返すのが王道な気はするけど、そういう話じゃないじゃん。魔王はそう思ってないって感じだし。それに、人間の方が猿より優れてるってのも傲慢じゃん。


「だが魔族のなかにも、稀ながら存在する。人の子を慈しみ、守ろうとする者が」


 ……いや、待って? あなたはその枠に入るの無理よ? 街を何度も破壊してるからね?

 困惑のあまり思考が杏里沙になっちまう。


「ユウオはそれだ、と?」


【アーサーは慎重に問うた。】


 お前じゃなくてユウオの話だよな?


「さて、それはどうか」


【魔王はゆるりと手を振った。】


 「どうか」じゃねえよ、言えよ。

 『地の文』も、「ゆるり」じゃねえよ。


「ユウオが答えるだろう」


 ……それはそう。本人がいるんだからな。


 俺はユウオを振り返った。俺たちは馬鹿みたいに長い部屋の、だいたい真ん中まできていた。奥にシュヴァルツ、後ろにユウオ、みたいな布陣だ。まじで、攻撃されたら一網打尽……。

 いや、ユウオは焼かない。ジャレットを。俺は知らん。レナは守る。


「ジャレットたちは好き」


 シンプルな一言が返ってきた。ユウオくん!! レナも俺も入れてくれてる、んだよな?


「――シュヴァルツのことはどうなの?」


【静かに、しかし鋭く、神女の言葉が発される。】


 レナさん!! それ訊いちゃう!? でも訊くべき! 女神!


「好き」


 ああー……ですよねえ、「ゴミクズ」発言を即否定するくらいの仲だもんなあ。

 前に俺は「魔王を尊敬してるのか」って聞いた。それには「別に」と返ってきたが、あれも嘘じゃないんだろう。尊敬とかはしてなくても好意的に思ってるってことは普通にあるもんな。


「……お前、だからそこにいるのか?」


【ジャレットが尋ねた。彼は眉をひそめていたが、それは不快な感情によるものではなかった。】


「アーサーにも、シュヴァルツにも手を貸せなくて? だから距離をとってるのか?」


 えっ、やっぱりそういうこと? ユウオくん……。


「違う」


 違うんかーい。


「完全じゃなくても、幽鬼同士近い、人によくない」


【幽鬼の声は共鳴する――。魔王が妖力を通し、ユウオの能力が低くても、それらが合わされば、人の子にとってはさながら猛毒の霧だ。巻き込まれれば喉は焼け、肌はただれるだろう。】


 まじかよ、怖え。

 ……じゃ、やっぱ、俺たちのためってことか。何だよー、ユウオくーん。

 ……いかんいかん、キモい。俺はにこにこしそうになるのを堪えた。


 いや実際、ちょっと嬉しいんだよ。ユウオの立ち位置はまだはっきりしないけど、それでもいろんな形で俺たちのことを気にかけてくれてるんだろ。

 『地の文』がユウオは敵じゃないと言ってたからそこは判ってたけど、『地の文』が言ったからじゃなくて、ユウオが言ったから判った、っていうのが嬉しい。


「はは、ありがとな、ユウオ!」


 いつもの爽やかな礼がジャレットから飛ぶ。俺も軽く片手を上げた。有難うな。レナも会釈をしている。可愛い。


「ユウオの事情は判った」


 俺はシュヴァルツにまた向かった。

 判ってたけど。新しく判ったこともあるから嘘じゃない。


「それで? あんたはユウオに情があるみたいだけど。まさか同じように、人間にもあるって?」


【アーサーは煽るように言った。】


 煽りに聞こえる? 聞こえるか……煽りと言うよりは願いなんだけど……。


 言っとくけど、逆だ。魔王に情なんてないと言ってくれ。設定に矛盾が出るだろ。てか、そうじゃないと勇者が倒す意味なくなって、俺は帰れなくなるので。

 こっそり俺は、めちゃくちゃ利己的なことを思ってた。


「情、とは何か。勇者よ、どう思う?」


 待って、哲学みたいな話になる? てか、俺が〈聖なる勇者〉として何か小っ恥ずかしいこと言うターン?


「知るかよ。魔物にはない……と思ってたけど、どうやらありそうなのは判ったが」


 うう、雑な返し! でも知らないよ、そんなの!


【アーサーは戸惑いながらも返した。魔王は「悪」であるはずだ。戯れで人々のもとに魔物を送り、その蹂躙を慰みにする、人々の敵であるはず。】


 え、やめて、ひっくり返す準備みたいの。落としてから上げる流れに見えるんだけど!


【これまでアーサーが言葉を交わしたことのある魔族たち。彼らには確かに「情」があったと言える。】


 まあ、そこは、理解できる。


 シノンは、シュヴァルツが好き。ラクエイも。ユウオも。ジュイム……は人間だった。

 とにかく、これは「情」だよな。ユウオのさっきの発言がなくても、魔族に「気持ち」が存在することを俺は知ってた。


 え、これそういう話? 種族や価値観は違うけどみんな仲良くしましょう的な? 個人的には賛成だけど、実際には相当難しいよ? だいたい、何度も言うけど、魔王の被害に遭った人たちがいる以上、「誤解でした、明日から仲良くしましょう」って訳にいかないからね?


「時に強く突き動かし、時に動きを制するもの。私は嫌いではない」


 な、なに? ああ、「情」は何かって、シュヴァルツなりの答え? ねえ、俺たち本当に何を話してるの?


「情で動く魔王様ね。意外でもあり、らしくもあるのかな」


【アーサーは口の端を上げた。】


「暇つぶしに人間の町を破壊するのはきっと、あんたなりの『情』なんだろうな」


 やべ、これは煽りだな。ミスりました、言葉の選択を。


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