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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第12話 『地の文』が地の文らしい

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02 でかい扉

【物音に続いて、くぐもった声が聞こえてきた。近くの部屋から壁越しに届いているらしい。】


 確かに、誰かが喋って……。


「――ノン! この淫魔が! 二度と僕の閣下に近づけないようにしてやる!」

「何が『僕の』よ、気持ち悪い。シュヴァルツ様が汚れるわ」

「何だと、閣下を汚してるのは貴様だろうが!」

「だいたいずっと気に入らなかったのよね、『人間にしてはできる』程度なのに目をかけられてると思い込んでて!」

「クソ女が! 売女! 淫売!」

「語彙少なぁい。そんなのでよく務まるわねえ」


 ……なに? こいつら。まじで喧嘩中なの? 務まるって何が? 中ボス役?

 てか、これで緊張感保つの、俺ら難しくない? さすがにレナもこめかみを押さえている。


「……ジャレット、耳ふさいでやろうか?」

「頼みたいけど少し遅かったよアーサー……」


 ジュイムの弟の顔には「情けない」と書いてあった。


「――シノン。足止め」

「え」


 ユウオの短すぎる説明は、たまにズバッと判りやすい。


「まじか。ジュイムを引きつけてくれてるって?」

「そう」


 シノンの株上げが止まらない。正直、有難い。そろそろ、数々のキモ発言を帳消しにしてもお釣りがきそう。

 ただし、笑って「エレナ」を死なせようとしたことだけは、たとえ世界を救っても許さんが。


「聞かせてあげる! アタシの〈真実の声〉!」


 あ、俺たちに出し損なった必殺技みたいなヤツをジュイムにやろうとしてる? そんなことして大丈夫?……いや、俺が何も心配することはないんですけど。ジュイムの無事も、魔王軍のパワーバランスも。


 そう言えば、「真実の声」って何だろうって思ったんだけど、やっぱアレか?

 ジュイムが呪忌、ラクエイが落影、として考えると……。


 何かが割れるような音がした。ガラス? 窓とか割れた? それじゃやっぱり、シノンの武器って実は「音」なのか?

 つまり、「死音」……ちょっと有り得そうで、俺は首を振った。


「こっち」


 罵倒と破壊音の続く部屋をやり過ごした俺たちは、その少し先で、ユウオがでかい扉を指差すのを見た。


【それはこれまでの通用口めいた簡素な扉と異なり、細かい装飾のついた大扉だった。ここからが奥地だと、アーサーは深く深呼吸をした。】


 かぶってる、深く深呼吸はかぶってるよ『地の文』! あとで直すにしたって、書く前に気づかん!?


 ……ま、よく言えば筆が乗ってる……それとも滑ってる……でも独り言やメモみたいなのは全く出てない。やる気はありそうだ。


 でもジュイムとシノン部分は無視なの?

 「勇者アーサーの戦い」的には、なかったことに?


【ユウオが取っ手に手をかけると、その大きさに不似合いながらも、扉はきしむ音ひとつ立てず開いた。手伝おうとしていたジャレットは、拍子抜けした顔をしている。】


 いいヤツ……。

 もしかしたらジャレットと言うか雄介には、俺やユウオが子供に見えてるのかもしれない。子供は言い過ぎでも、自分が大人で、フォローしてやらなきゃみたいな心理があったりするのかも。


 まあ、杏里沙はアーサーよりちょい上くらいだし、ユウオは七十超えてるけどな。雄介とジャレット足しても六十くらい? ユウオ先輩と呼ぶべきか?


 そんなことに気を逸らしていたのは、レナの指摘通り、油断だったんだろう。俺は扉の向こうの空間が何を意味するのかすぐには判らず、ただ足を踏み入れた。

 

 広い。奥行きが、ずいぶんある。

 どこかで、見たような。


【壁一面の窓も、瀟洒なステンドグラスも、趣味の悪い戯画のようだった。日の光も月の光も差し込むことのない、この玉座の間では。】


 ――玉座の間!


 俺の脳裏に、〈勇者〉の称号をもらったときの記憶が蘇った。そうだ、この馬鹿広い部屋、映え重視みたいな窓や柱。もちろんデザインは全然違うけど、この方向性は似てる!


 つまり……この奥には……。


【薄闇の奥、近寄れば見上げなければならないような大階段の上に、仰々しい椅子が――玉座があった。肘掛けに右肘を置き、気怠げにこちらを見ているのはもちろん――】


「魔王、シュヴァルツ!」


 決まった。いまの『地の文』とのコンボ、決まったよね!?


 馬鹿広い部屋の奥。ヤツとの距離はまだあるけど、目にするとぞっとする。突然背後を取られたあのときみたいに怖え。ヤバさを感じて、足が震えそう。


 でも、『地の文』がいれば、俺はあのときよりずっと強がれる!


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