01 いつも違う
【魔王から与えられた指輪が、アーサーを『魔王城を通る権利のある者』にしている。】
そのおかげで雑魚戦がない訳だ。
俺は最初、これは『地の文』のサボりじゃないのかと思ったんだが、状況的にも自然っぽいな。雑魚戦で聖剣の威力が減ったら、その分シュヴァルツが楽しめないからってことだろ。
シノンがあっさり引っ込んだのも、それがあるのかも。もともとはラクエイと同じように聖剣の力を削るつもりだったけど、俺の口先に乗って引っ込んだと言うよりは、そこを考え直したのかもしれないな。
まだジュイムが戻ってくる気配はない。ちょっと意外ではある。ラクエイ戦の間に乱入してきてもおかしくなかったけど。
シュヴァルツの前を離れないようにした、とかは有り得るか? 俺たちからもシノンからも「閣下」を守れる……でもシュヴァルツが俺と戦いたいなら、そこは相容れなくない?
【一度だけ対峙した魔王は、怖ろしい存在だった。】
何だよ、突然。そりゃ迫力にびびったけどさ。
【果たして勇者アーサーは、魔王シュヴァルツと戦うことはできるのか。そもそも魔王は、勇者と戦おうとするのだろうか。】
へ?
……ん? あれ? もしかして魔王、俺と戦いたいとは別に一度も言ってないのか?
シュヴァルツが俺を「面白い」って言うのは「久しぶりに手応えがありそうな相手が現れた」的なことだと勝手に思ってたけど……もしかして「興味深い」じゃなくて「可笑しい」の方で評価されてる可能性ある?
だとしたら、ジュイムが「閣下を汚すな!」とか騒ぐのも暇つぶしで楽しんでたり? もし本当に魔王の前でジュイムが張ってたら……うわあ、またあれを前にするのちょっと嫌だな……。
【それでも、傍らには頼もしい仲間がおり、腰には聖なる剣。いまや勇者に怖いものはなかった。】
あるよ! また変な呪いとかされたら嫌だなとか、また文語調で喋られたら今度は吹き出しちまうかもとか!
てか、フラグみたいな書き方やめろ。
「こっち」
【ユウオにわずかな疑念を抱きながらも、彼らは半幽鬼の案内に従って進んだ。】
俺たちが疑念を持ってること判ってるの? なのに、さっきは「勇者一行」って言ったの? あとでそこ直しといた方がいいよ、『地の文』。
ユウオは迷う様子もなく進んでく。城内はまあまあ入り組んでて、やっぱ案内がないと厳しそうだ。
きた経路を戻るのはできるけど、別の部屋を通って入口に戻れとか言われたら、罠とかギミックとか一切なかったとしても、俺は無理かも。
さっきのシノン、まじで案内にきてくれた可能性もあるな。株上げる気はないんだけどさ!
「でかいな、城」
【ぽつりとジャレットが呟いた。その声は色のない壁にまるで吸い込まれるかのように薄く響いた。】
あれ、ジャレット、ちょっと雰囲気に呑まれそうになってる? 頑張れ、雄介部分。いやそれともおっさん部分の方が「城」って権威に弱いのかも。そしたら頑張れジャレット部分。
「魔物たちが単に隠れてるとかじゃなくて、いなさそうなのが気にかかるんだよな。魔界とそんな簡単に行き来できるのかね」
【術士は生き物の気配に敏感だ。レナもうなずき、魔物が「いない」ことに同意した。】
あっ、俺だけ判らない。回復持ちってことになったのに。
いや、探ってみれば判るのかな? てか、さっきジュイムが暗がりにいたとか、ユウオが背後にいたとか判ったってそれなのかも?
「いつもは違うって言ってたよな」
【ジャレットがユウオに水を向けた。ユウオはジャレットを見る。】
「違う」
「やっぱり――」
「いつも違う、いつもは違う違う、いつもと違う」
「何て?」
ユウオがバグったみたいになって、俺とジャレットは揃ってぽかんとした。何て?
「『いつもは魔物がいる』ではなく、『いつもいない訳ではない』ということかしら? いるときといないときがある、と」
「そう」
あれ理解できたの!? レナすごくない!? 俺とジャレットはまた揃って、レナに尊敬の視線を送る。
「いたりいなかったりするのか。何でだ?」
俺はユウオに尋ねると言うより、単に疑問を口にした。
「シュヴァルツが呼んだときだけ」
「へえー、何で呼ぶんだろうな」
俺は首を傾げてから違和感に気づいた。
こいつ、魔王を呼び捨てにした!? え!?
思わず俺はユウオを二度見していた。
い、一。単に敬称の存在を知らない。ユウオなら有り得る。
二。実は仲良し。魔王とタメ口の仲。いや、それにしちゃ周りの態度がおかしいか。もし本当にユウオがシュヴァルツと仲良しなら、魔王のために消滅も辞さなかったラクエイがユウオを罵倒するのは不自然だもんな。
ほかに考えられるのは……俺たちについたアピールとか。「もう『シュヴァルツ様』なんて呼んでませんよ」という……ユウオらしくはないが、もしシノンの入れ知恵があれば?
【ユウオは他の魔族たちと異なり、魔王に傾倒していない。それは彼に人間の血が流れているからだ。魔王の妖力に圧倒されにくいのである。】
……単に「凄さが判らなくて呼び捨て」みたいなこと? でも俺でもびびったけどな。魔王の、何だろ、妖気みたいなものに。
だいたい、むしろ、人間の方がびびるんじゃないの?
「魔王を呼び捨てかあ! やるな、ユウオ」
ジャレットも気づいて親指立てたりしてる。いいな、お前はシンプルで……。
「大げさなの、あの三体だけ、よく言われてる」
これには俺も吹き出してしまった。シノン、ジュイム、ラクエイだけが大げさ!
「兄貴が一体って数えられんの面白すぎる」
ジュイムの弟も違う視点で笑った。
「その『大げさ』な三体がもう出てこない保証もないわ。楽しそうなところ申し訳ないけれど、油断しないで」
「はい」
「すみません」
もっともすぎることを言われて俺たちは気を引き締めた。ラスダンを雑談しながら進むの、緊張感なさすぎるよな。俺とジャレットは配信でも見てる気分になりがちだが、レナはそうじゃない。そして、レナの感覚が圧倒的に正しい。
複雑な経路を通って角を曲がったときだ。突然大きな物音がした。
「何だ!?」
俺たちはそれぞれの武器を素早くかまえた。ユウオ以外。




