08 必ず光を取り戻す、と
【ユウオには考えがある。】
お! くるか、ネタバレ! 読者としては嫌だけどいまは助かる! お前、ユウオは勇者一行とか言ってたじゃんか、そこどうなったのよ?
【彼は、とある考えに同調している。】
は?
【それはアーサーに敵対するものではない。しかしそれを言うことはできない、という複雑な構造で、ユウオの語彙ではとても説明できなかった。】
ほんと? 敵対しないの? てか、ユウオに説明やらせようとすんな、お前がやれよ!
【――ユウオは、人々を守る側にいる。それは、あの十日間、彼が真剣に魔物退治をしていたことからも伝わるはずだった。】
う。
確かに、いいのかなとは思ってた。魔王のスパイってことは魔物側だろうに、ガンガン魔物倒してていいのかって……外した結果なのかなとも思ったけど……。
一緒に戦ってたのは、潜り込むためと言うより、何か思想があってってことだったのか?
「アーサー?……『お告げ』かしら」
「あ、ああ、そうなんだ。どうやら、ユウオは敵じゃない、らしい」
「……神が仰るならそうなのね……」
レナは腑に落ちない顔をしながらも、神女として「お告げ」を受け入れた。神様の言葉じゃないので胸が痛い。間違いないという点では、その通りなんだけど。
「ただ、誰かに同調はしてそうだ。ラクエイなのかシノンなのか……最悪、シュヴァルツってことも考えとく必要はある」
「敵じゃないのに?」
「そこだよな」
まさかやっぱり、魔王いいヤツ説?
でも、人間の町を定期的に破壊しといて「実はいいヤツ」は無理だと思うよ、『地の文』。
「幽鬼だ、ということも気にかかるの」
「ん? それはどういう意味で?」
俺の知識はあんまりない。幽鬼、レイスだっけ? 死霊、みたいなイメージあるけど、ユウオは実体だよな。まあそこは設定次第だし。
「私たちが……主には神殿が、と言うことになるのだけれど、存在を把握できている魔族はそう多くない。でもそのなかで、幽鬼というのは上位種族だったはずなのよ。でもそれにしては、罵倒されていたという話や、ラクエイの態度が奇妙に感じて」
少し顔をしかめて、レナは説明してくれた。可愛い。
「あー、それについては、納得できる情報がある」
俺は頭をかいた。「人間の血を引く」ってのは相当、蔑まれることなんだろう。
ただ、言いづらい。個人的な事情を俺が勝手に話す訳にはいかないもんな。
「アーサーが理解できているなら、そこはかまわないわ」
もごもごしてる俺の様子をから察して、レナはすぐそう言ってくれた。女神。
「判らないことは、まだ多いけれど……」
【アーサーたちに真実は判らない。彼らにはまだ情報が開示されていないからだ。】
しろ。いますぐ。開示を。
してくれないよな、この流れじゃ。
俺は諦めて、レナとの話に戻った。
「いまのは、『ラクエイを守った』って取れる。どうやってか、死なせずに魔界に還したか、転送術を同時に作動させた」
音や臭いがしなかったのはそういうことだろう。
「でもラクエイと組んでるとは思えない。ユウオの助言がなければ、ジャレットも俺も影のことに気づかなかったか、もっと時間がかかった」
レナを攫われたと思った俺はきっとキレて、ラクエイが姿を見せた瞬間にあいつをぶっ倒してたかもしれない。
そうしたら、聖剣を消耗させてた訳だ。
「ジャレットを助けたことも作戦じゃないと思う。味方する気はあるんだ。後ろからは撃たれない」
「……だといいけれど」
レナは懐疑的だ。神が「敵ではない」と言っても、「敵に利した」ことは間違いない。
「敵じゃないが味方でもない。戦力に数えないだけなら、ここにくる前と同じだろ。最悪、戦うことになる場合……」
俺はちらりとジャレットを見た。ユウオと楽しげに喋ってる。ユウオが喋ってるのかは判らない。
「俺がやる」
ジャレットにユウオを撃てとは言えない。
「消滅させたくは……ないけどな」
『地の文』の気持ちも判る。関わった相手には情が湧くよ。
「そうね、そのときは私がやればいいじゃない」
あっさりと神女様は仰った。
「万一のとき、アーサーは足止めだけして。私がやれば、ジャレットに撃たせず、消滅させず、聖剣を消耗させないことができるでしょ」
「レナ……」
俺の聖女様……キモくてもいい、心のなかだけにするから……。
「『万一』なんて、ないのがいちばんだけれどね」
「ああ、全くだ」
俺たちは「しばらく様子を見る」という、無難な落としどころしか見つけられなかった。
【アーサーは、ユウオに頼らない連携を確認し、それとなくジャレットに伝えることを考えた。】
まあ、そうだな。その提案には従うよ。ユウオがもしシュヴァルツに攻撃しないとしたら、作戦に入れるのはみんなの危険を招くもんな。
……いい感じの四人パーティーになったと思ったのになあ。
俺はため息を堪えて、ふたりのところに戻った。
「レナと『お告げ』の解釈を確認してた」
密談の理由をそんなふうに伝えた。
「ラクエイのことは念の為に警戒しておこう。ユウオの炎を喰らって無事とは思わないが」
嫌味にならないように、気をつけて発言した。
「本当にワーストエンドを消耗させたいなら、何かしてくるかも。……でもこの調子だとシュヴァルツも近いはずだから、あとは決戦、かもしれないけどな」
シノン、ジュイム、ユウオ、ラクエイ。これまでのネームドや、「どこかで使う」ってメモ書きの兄貴も出た。いまさら新キャラもないだろう。
まあ、『地の文』が「そう言えばこれまだ使ってなかったな、押し込むか」とか思う可能性はあるけど!
「ユウオ、魔王の居場所判るか?」
無邪気に雄介くんが尋ねてる。
いや、斜めに見るのはやめよう。むしろ無邪気なときはジャレットで、オタ知識出してくるのが雄介だ。
気遣い魔人モードはたぶんその混合で、善性とおっさんの経験値がいい感じに作用してるんだと思う。たぶん。知らんけど。
「向こう」
ユウオは素直に答える。ただ、その指さした方向はどことも取れて、明確な答えとは言えない。
「案内はしてもらえるのかしら」
レナも変に警戒を出さないよう、自然な調子で尋ねた。こくりとうなずく様子は、何だか無表情なりに可愛らしく見えはじめてるんだよなー。うーん。
ラクエイのいた部屋を出ると、城内はまた色を失った。見えるとは言え、気分が落ち込むな。色って……光って大事だなあ。
【〈聖なる勇者〉は神の光が届かない屋内に歯噛みした。必ず光を取り戻す、と――。】
いや別にそんな気持ちはないが? 魔王城の光量は魔物たちの好きにしていいんじゃない? 人の世界まで暗くしますと言われたら抵抗するけどさ。
……そうなんだよな、シュヴァルツってそこまでやってこないんだよな。征服もしない、進軍もしない、ときどき魔物を一体送って襲う、そんで暇してる……何なんだあいつ?
俺はちっとも漆黒じゃないシュヴァルツの容貌を思い出した。
死人みたいな肌に、色の薄い目や髪。その姿を思うとぞっとする。顔立ちだけなら2.5次元俳優並みにキラッキラに見えるのに、すげえ不気味なんだよな……。
俺はふるふると首を振った。これはあれだ、「気持ちで負けてる」ってヤツだ。記憶にあるイメージだけに気圧されるとか最悪だろ、勇者として。
「よし、行こう」
【勇者は簡潔に促した。頼もしい仲間たちと、魔王城の奥地へと進むのだ。】
一名、スタンスが判らないのもいるけどな。
【〈聖なる勇者〉アーサーが〈漆黒の魔王〉シュヴァルツを倒すときは、間近に迫っていた。】
……フラグじゃないよな?
[第12話「『地の文』が地の文らしい」へつづく]
ユウオへの疑惑はあの十日間と違い、アーサーのなかで「そうでなければいい」となっているようです。
魔王城編は続く!
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第12話「『地の文』が地の文らしい」もお楽しみに!




