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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第11話 『地の文』がネタバレをしない

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07 気遣い魔人め

 お許しが出たので俺は改めてワーストエンドを握った。柄にはめ込まれてる月光石がふんわりと光る。あれ? もしかして『地の文』くん、これの描写まだしてなくない?


【聖剣〈ワーストエンド〉の象徴たる月光石が淡く光る。勇者の意思を反映し、魔を祓わんと逸るかのように。】


 いいねいいね。てか、いいの? ラクエイ消滅させて。お前、気に入ってたみたいだけど。


【策を弄したことで、ラクエイはアーサーを怒らせた。彼が仲間を大事にすることを知っていたのに、繰り返し脅かしては貶めたのだ。】


 ……ん?

 あれ、何で? 確かに、仲間が大事なんだねえって最初から言ってきてた。なのにどうして、そこを狙ってきたんだ? ただ考えなしなだけ? ノリで?


【そこにはラクエイなりの考えがあった。彼もまた、魔王シュヴァルツに傾倒しているのだ。】


「あ」


 もしかして。

 『地の文』のほのめかしに、俺も気づいた。


 「シュヴァルツ様に献上するなら、本気の勇者がいいよなあ」。

 そうだ、こいつ、そう言ってた。

 つまり……わざと俺を怒らせてるのか? 本気を出させるために。


 でも、身を挺して? 消滅と引き換えに? そんなにシュヴァルツ大好きなの、お前も?


 ……判ったよ。


「――ユウオ、やってくれるか」

「うん」

「ええ!? 何でそこそうなったの!?」


 ラクエイが素っ頓狂な声を上げた。


「使いなよ、いい加減、本気を乗せた聖剣を!」


 ん?

 あれ? 消滅したくないから、聖剣を避けたかったんじゃないの?

 俺はさ、別にラクエイに情はないし、魔王は倒すべき相手だけど……大事に思ってる誰かのために自分ができることをしたいって気持ちには弱いからさ……。


 だから、ラクエイが「自分が消えるとしても本気の勇者を魔王様に届けたい」なんて考えたんだとしたら、消滅はさせないでやってもいいかなって……。


 でも、違うな?


「もしかしてお前、シュヴァルツに聖剣の力を見せたいのか」


 そんな気がしてきた。

 煽ってきたのも、剣を抜かせるためだったんじゃ?


「まさか、ガチで警戒してる? この剣が『シュヴァルツ様』を消しちまうことを」

「は、はは、やられる訳がないだろうが! うちのシュヴァルツ様が! でも万一ってあるからね! おいらの消滅が警告になるならそれもあり!」

「……何だよ」


 じゃあ、本当に身を挺して? 自分が消滅することで、こんなヤバい剣なんですよって魔王に警告を?


 やっぱりこいつも株上げてきたってことなんだろうか。『地の文』はこいつを倒させたくない、ってことでいいの?


「その忠誠心には敬意を表するから、消滅はさせないでやるよ。でもユウオに焼かれると復活が遅いってのは……」

「本当」


 シンプルなユウオの返事。


「え、まだ使わない気かよ、聖剣!」

「使ってるよ、ずっと」

「城きてからは一回も使ってないだろ! 何のためにおいらたちが順番に出てきてると思ってんだ、どいつもこいつも口先で追い払われやがって! 勇者に本気出させて聖剣の力を削ろうとしてるの、おいらだけかよ!」


 ……自白有難う。

 てか、順番に出てくる四天王もどきシステム、そういう意図だったのか。


 これまでの面白キャラめいた様子から、苛ついて愚痴を叫んでるみたいになったラクエイは、さすがに本音を吐き出してそうだった。


 そうか、こいつらの「戦力を削ぐ」は、レナやジャレットをどうこうというだけじゃなく、「聖剣の力を消費させる」なんだ。


「じゃ、やっぱユウオにやってもらおうかな」


 俺は結論を出した。俺自身が「聖剣の力の消費」をよく判ってないけど、消費しない方がいいんでしょ?


「焼く」


【ユウオはそれを指示と取ったか、光源として維持していた火球を】


 あっ、速い!


【驚くべき速度で操り、ラクエイに移した。ラクエイは最後の足掻きをすることも、ほんの一言を言い残すことすらできぬまま、そのまま火球に包まれた。】


 うわ……えぐ……。


 ユウオの火が魔物を焼くのはあの十日間で何度も目にしたけど、言葉を交わした相手となると少し感覚が違う。

 いくら「いつか復活する」と言われても、いまは……死んだってことだもんな。


 俺は、ちょっとだけ、「自分でやるべきだったのかな」みたいな、変な感覚を抱いた。何だろう、罪悪感? それも変か……。


【幽鬼の炎に呑まれた亜鬼は、悲鳴もないまま、わずかな影を残して――消え去った。】


 あっけな……いやラクエイがあっけないと言うよりユウオの火力がヤバいんだけど……一撃? 中ボスキャラを? もしかして俺、要らない?


【沈黙が降りた。みなユウオの力を知っているが、塵ひとつ残らないほどの火力は衝撃的だった。レナがちらりとアーサーを見る。】


 ん?


「……やー、すげえなまじで!」


【重くなりかけた空気を吹き飛ばすようにジャレットが明るく声を出した。】


「それで? いまのでラクエイはどんぐらい復活できなくなるんだ?」

「……それは」

「案外すぐかもしれないわね」


 レナが肩をすくめた。ん?


「しぶといもの、ああいうタイプは」


 何でもないように言うけど、何か引っかかるな……あれ? もしかして。


 レナは、ラクエイがやられてないと思ってる? ユウオの炎に……え、あの速度に反応して、何か小細工なんてできる!?


「考えすぎかもしれないけれど」


 わざとだろう、レナはふんわりと話してる。俺に「気づけ」って言ってるみたいだ。……それってもしかして、そういうこと?


「もし戻ってきたら、次はジャレットに任せるよ」


 俺は「聖剣の力の消費は避ける」という返事に見せかけて……「ユウオじゃなくてジャレットに任せる」と言った。レナの疑いが――「ユウオがラクエイを逃したんじゃないか」という疑いが理解できたからだ。


 ……ええ?

 ユウオは、こっちについてくれたんじゃないの?


 そりゃ、何考えてるかさっぱりだけど……少なくともジュイムのことは嫌っててシノンのこと好いてるのは判るけど……ラクエイのことも好きだったとか……? ええ……?


「ケーハク、生きてる」

「え」


 俺がぽかんとしたのは、「ユウオやっぱり、と言うか、今度こそ上手にスパイ疑惑」がまたひっくり返されそうだからだ。

 だってこの場合、「スパイなら、倒したふりをする」だろ? 生きてることは隠したいはずじゃないか。

 ええ? どっちなの?


「ちゃんと焼けなかった」

「逃げた、ってことか?」

「え、あんなにしっかり火に包まれてたのにか!?」


 俺は警戒して尋ねたが、ジャレットは無邪気にかぶせてくる。


「そりゃ、いつものユウオの火にしては焼ける音とか臭いとかしないなとは思ったけど、熱は感じたし、確実に当たってたよな?」


 ……無自覚に詰めてるぞ、こいつ。

 でも言われてみればその通りだ。ユウオの火炎で瞬殺だったときだって、燃える音や焦げる臭いみたいなのはした。


「ああ、もしかして、さっきは明るさのほうを優先してたから、火球の威力が弱かったとかか?」

「そう」


 ジャレットー!! 助け舟出しちゃってるじゃん! もちろんジャレットは、純粋に訊いてる。いいヤツだから……。


「そっかー、でも少しはダメージ与えたよな?」

「すぐは戻ってこられない」

「ならいいことにするか! な、アーサー!」


 こーの気遣い魔人め。俺がユウオを責めないように、ユウオが気に病まないように、ささっと立ち回る。あの十日間の再現かよ。


 あのときと違って、ジャレットが味方確定なのだけが救いだ。


「――少しだけアーサーと話していいかしら」


 ジャレットの勢いに呑まれず、冷静にレナが切り出した。


「ふたりはそこにいてもらっても?」

「いる」

「おう、待ってるぞ」


 ユウオは無表情にうなずき、ジャレットは爽やかに親指を立てた。俺は曖昧な笑顔を浮かべてみせて、レナの手招く部屋の隅に寄る。


「……アーサーはどう思う?」

「正直、さっぱり判らん。本当に密偵ならもっと巧い立ち回りが……あるはずなのにできないのは、めちゃくちゃ『らしい』が……」


 「ユウオの考えてることが判らない」は、もう何度思ったことか。でもこれまでは「何か考えているのかすら判らない」だったのが、「何かを考えているようだが判らない」になった。


 ……『地の文』が何も言わないのも気になる。すぐネタバレしたがるのに。


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