01 俺のセンスである可能性
俺の名はアーサー。少なくともいまはそう名乗っている。この世界に転移してきて、「勇者アーサー」という役割を与えられた。
どうしてこんなことになったんだろう。『地の文』によれば――。
【勇者アーサーは、異世界から転移してきた存在だ。】
ん?
【転移前は変わり映えのない日常に退屈しており、英雄になることを夢見ていたごく普通の少年だった。】
いや別にそんな夢は見てなくて……そりゃ子供の頃はヒーローに憧れもしたし、そういうゲームはやるけど、それは「英雄になることを夢見てた」って感じとは違うじゃん……それにだいたい、少年ではなく……。
てか、何でいま、冒頭みたいなモノローグ? あ、剣を手に入れたことで新しい章になった感じか? ひとまず聞いてみるか。
【初めの頃こそ剣もろくに振れず、運と偶然で勝利していた彼だが、この世界で与えられたのは鍛えられた肉体だ。扱い方さえ理解すれば、いっぱしの剣士にまでなるのは容易だった。】
いや容易ではなかったよ、何も。
【この身体は彼の理想だ。「まあまあ見られる」程度の外見も含めて。】
かっこいいだろうが!!
――「アーサー」の外見は、俺がいろんなゲームで作ったプレイヤーキャラクターに近い。何て言うか、「極端な特徴はないけど、主人公っぽい」みたいな……。
俺はそういうのが好きなんだけど、『地の文』の趣味からすれば地味なのかもしれない。どうにも評価が低い。
ってことはこの外見や、もしかしたらやっぱり名前も、俺のセンスである可能性が高くなってきたな。
確かに、「アーサー」の顔立ちに覚えはあった。親しみのある髪型や配色だ。
自分ではないんだけど自分だ、みたいな奇妙な感覚は、アバターを使ってフレンドと会話したりするときに近いと思う。
操作キャラは自分じゃないが、自分。
俺の「アーサー」に対する感覚はそこに近い。
元々の俺とは性別からして違うが、俺は「アーサー」をやることにそんなに違和感がない。普段から男性キャラを選んでいたせいなんだろうか。
ゲームをプレイしている感覚と言うよりは、『地の文』のせいで小説感覚のほうが強い。でも小説の主人公を自分と同一視した経験はあんまりなくて……ああ、そうだ。やったことはないんだけど「ゲームブック」みたいな感じなのかもしれない。
主人公が自分の物語を読む。それのVR版、みたいな?
いずれ高性能のVRが当たり前になったら、こんな感覚なのかな。さすがにバトルの痛みとかは、手加減されるんだろうけど。
もちろん、アバターじゃなくて本当に男の身体になるといろいろ「不具合」もあって……「扱い方」に慣れるまでは少々かかったが、まあ、慣れた。ことにする。はじめの頃のパニックぶりは、思い出したくない。
こうして普段「私」ではなく「俺」と考えるのも、「アーサー」をやる手法のひとつだ。俺はアーサーであり、アーサーは自分だが、私はアーサーではない。このややこしい精神状態を切り分けるために編み出したやり方だ。
基本的には考えるときも「俺」で通してる。正直、その方がここでは楽だ。
―*―
【予言に謳われた「伝説の剣」である聖剣〈ワーストエンド〉をついに手にしたアーサー。しかし、村から持ち出すには少々の交渉が必要だった。】
村は実質、被害者みたいなもんだ。同意のないまま、村の宝とされてた「伝説の剣」を持っていくのは少々気が引けた。
客観的に見れば、「伝説の剣をエサに勇者をおびき出そうとする魔物の言いなりになった」村だ。もし俺が剣を抜けなければ殺されていたし、〈聖なる勇者〉の名に任せて徴集したって許される気がする。
ただ俺は、できれば穏当に行きたかった。
村長は「勇者様のお役に立つなら喜んで差し出します」と言ってくれたが、背後に「本当にこいつ『本物』なのか?」とか「村の宝を渡すなんて」みたいな不満顔があるのに気づいた、というのもある。
蔵に放置していても、急に現れた見知らぬ若造に持って行かれるとなれば惜しくなるだろう。そんなのスルーしたっていいんだが、ここは〈聖なる勇者〉の評判も落とさないでおきたい。
【そこでエレナが出した提案は、「伝説の剣」に思い入れのある村人たちをも納得させるものだった。】
うんうん。
【即ち、彼女はいままでアーサーが使っていた剣を「新たな伝説の剣」として提供したのだ。アーサーが今後魔王シュヴァルツを倒せば、「勇者が魔物を追い払って村を救ってくれた」「礼として渡した村の剣が魔王を倒した」そして「あの勇者が使っていた剣がいまこの村にある」、どれだけ喧伝しても嘘ではない。】
エレナの話運びが巧かったな。おかげで聖剣……ワーストエンド……まだ少々抵抗があるが、とにかく「伝説の剣」は俺の左腰に収まった訳だ。




