05 気遣ってやる必要はない
「ユウオ! 炎を出したまま維持できるか!?」
「うん」
ぼわり、とユウオが手のひらにでかい火球を出す。すげえ。怖え。距離があってもちょっと熱い。
「レナ、ユウオの逆側へ!」
「――いいわね、やってみましょう!」
すぐに気づいてくれた。女神。
「ちょ、何……」
【ユウオの手から生まれた炎と、レナの聖杖が生み出す光が、ラクエイを挟んだ。】
「うえぇ……!?」
よし、目論見通り! ラクエイの足元の影がぐんと薄れた。完全に消すなら光源が三つ要るか? でも俺は自由に出せないんだよな、光のあれ。ルクス・アンチノミー。あれ、どういう基準で出るの?
ないものは仕方ないが、ただ、ユウオの炎がチラチラしちまうのは気になるな……。
「駄目だろ火炎は! こんなので影作られたら、不安定すぎて入れん!」
ラクエイがブチキレた。
「自白有難うな」
演技には見えない。じゃ、むしろこれでいいのか。
【ラクエイは所在なげにキョロキョロしている。隠れられる影を探しているのだ。】
させるか!
俺はワーストエンドを握り締め、ラクエイに向かって斬りかかろうとした。
ネームドだけどお前は新参だし、『地の文』も「実はいいヤツ」エピを入れてこないし、ちゃんと魔物だし、躊躇する理由はないよな!
「ままま待ったアーサーちゃん! 吐く、何でも吐くから許して!?」
うわ、この手のムーブ! 俺は躊躇しつつも、剣を止めることにした。
「命乞いのふりで時間を稼ごうってのか?」
「え、ええ~……? や、やだなあ勇者様ってば疑い深い~」
明らかに口調が変。声もうわずってる。「図星を指されました」を体現しやがって。
でも実際、どうしよう。
たたっ斬るのが自然ではある。せっかくジャレットが技を見抜いてレナとユウオが陣を作るという、完璧なチームワークで場が整ったんだし。
それにいい加減、「勇者アーサーの戦い」の読者もちゃんと勝利する勇者を見たいんじゃないか?
いや、俺が『地の文』のアクセス数を気遣ってやる必要はないし、あいつはどうせあとで勝手に変えるけど、ラクエイが残るか消えるかはけっこうストーリーに影響あるかも。
「――十秒以内で、俺たちに何を提供できるか簡潔に説明しろ。納得いかなければ叩き斬る」
この辺でどうかな。
……あれ、これ脅迫?〈聖なる勇者〉としてNG?
ちらりとレナを見る。小さくうなずいてた。許された。
「十秒!? そんな殺生なぁー」
「一、二……」
「わあー! え、ええとええと! おいら、知ってます、魔王城の抜け道!」
「五、六……」
容赦なく続ける。
城の抜け道はロマンだよな。でも俺たちがそれを使う状況にはならんだろ。最後に城が崩壊するみたいな展開になれば別だけど。
……有り得るか?『地の文』、そういうの好きかも?
「これだけじゃ駄目!? 強欲勇者!」
「八……」
少し話を聞こうかという気がなくなった。
「わぁー! 魔王様は嘘を見抜いて力にするから嘘ついちゃ駄目! これは!?」
「……面白い」
え、けっこう面白い設定じゃない?
ほんとならネタバレだけど。
「戦いのなかで勇者が気づいたら激アツのヤツだな。ネタバレだが」
ジャレットも同じことを思ったらしい。ですよねー。助かるけどさ。
「じゃ、じゃあおいら見逃してもらえる?」
【亜鬼は上目遣いで、まるで自分が可愛らしい子供であるかのような演技をした。】
「九……」
「強欲!!」
悲鳴が上がった。演技にちょっとイラッとしたのはある。
「冗談だよ、いい情報だ……抜け道のことも含めて。本当なら、だけどな」
一応、簡単に信じないぞ、というスタンスは見せておくが……実際どうなんだ? この話って。
仮にラクエイが出鱈目を言っているとしても、この情報で俺が困ることは別にないような気がする。そもそも、俺には嘘をつく必要がないもんな。
もし、たとえば「怖くない」とか「痛くない」みたいな強がりも嘘と判定されるとしたら、「怖え!」「痛え!」って叫び続ける勇者になる必要があるが……いや、叫ばなくてもいいのか。
「――信用ならないわ」
レナが横目でラクエイを見た。
「咄嗟に嘘をつく余裕なんてなかったと見せかけて……少しずらすようなことなら言えると思うの」
「ずらす? ってことは……」
「例えば逆。『本当のことを言うと魔王の力になる』だったら?」
「えぇ……」
ちらりとラクエイを見ると、目をぱちぱちとさせている。どういう反応だこれは?
「それとも、『嘘』と言うよりは『約束』『契約』といった、もっと大きな枠に関する話」
ラクエイは、そっぽを向いて鳴らない口笛を吹き始めた。あれ、どうやらこっちが当たりだぞ、レナ。
「聞いたことがあるの。魔族たちは決して『誠実』なんかではないけれど、契約によって縛られる力は人間の比ではない、と」
【もし魔族が「二度と人間を襲わない」と誓えば、その個体は決して人を襲うことはなくなる。「約束を守ろう」などと考えるのではない。理として、不可能になるのだ。】
へえっ、魔族も大変だな?
「だから、彼らは言葉をすり抜ける……もし『二度と勇者を襲わない』と約束をしても、他者に襲わせることはできる、というように」
「タチわる」
思わず俺は呟いた。
ルールにないからセーフ、みたいなヤツ、俺は好きじゃないな。
……まあ、俺も全くやったことがないとは言えないけど……少なくとも誰かの迷惑になるような形で決まりごとをすり抜けたりは……してないと思うけど……いや判んないな……。
「それを考えると、約束を『破ることができる』人間は、彼らからすると奇怪な存在になるでしょう。約束が破られたときの力はきっと、魔界にはないものよ」
レナが分析する間、俺はラクエイを観察してた。「何で言い当ててるんだこの神女やべえ」と顔に書いてある。ふふん、すごいだろう、レナは。
「もしそういうことなら、戦闘で有利不利になるというような話じゃないわね。『命』には足りない情報じゃないかしら」
神女様はずいぶん手厳しいことを言った。ラクエイは首をすくめる。
「約束を破っちゃならん、ってことか? アーサーは魔王を倒す約束をしてるよな」
ジャレットが両腕を組んだ。
「約束を破ると魔王が強化されるとして……魔王を倒せなかったら更に魔王が強化されるのか? 詰みでは?」
「倒せばいいんだろ」
俺はさらっと言ってみせた。た、倒せるかな、アレ……。
「さすがに『この世の全ての誓約』ではないでしょう。魔王と直接交わした約束になるんじゃないかしら」
レナが言うと、ラクエイは再びそっぽを向く。……この様子だと、合ってるのか。
つまり何? 魔王と約束したら、それを破ると魔王が強化されるの? いまいち意味判らないけど、レナの言う通り。少なくとも俺の現状には役立ちそうもない。
ラクエイのヤツ、それっぽいだけで役に立たない情報をぽんぽんと……。
「アーサー、魔王に『お前を一撃で倒す!』とか言わないようにな」
「言わんわ」
ぼそりとジャレットに言われて、俺は唇を歪めた。




