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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第11話 『地の文』がネタバレをしない

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04 お前ならできる

「おっと、ノーコンの馬鹿力の標的にされちゃあ敵わんなあ!」


【嘯(うそぶ)くとラクエイは手を振って――】


「え」


【消えた。】


「……逃げた? 転送術?」

「いやでも……違和感が」


 連中が転送術で去るのは何度も見てるけどどこか違う気がした。あれは何て言うか、いかにも「瞬間移動の演出」って感じで、ほんの一瞬だけ残像がある。

 でも、いまのは……。


【まるで映像を切り替えたかのように、かき消えた。もちろん、映像などではない。確かにラクエイはこの部屋にいた。】


「油断するな」


 俺は自分自身とみんなの両方に向けて言った。

 部屋の人数は……変わってない気がする。


「ケーハク、移る」

「え?」


 ユウオが情報持ってる! さすが!

 でも何? 伝染する、ではないよな? 軽薄が伝染するのはかなり嫌だぞ。


「移る。そこ……」


 何もないところ指してるように見える。俺はゆっくりと剣を抜いたが、ユウオが何を示してるのか判らない。ジャレットやレナも辺りを見回すが、何か気づいた様子はない。


「そこ!」

「アッハァー! やっば裏切りもんからやっとくべきだったかぁー!?」


【その瞬間、ラクエイが姿を見せた。レナの背後に。】


「つっ……」

「レナ!」

「癒やし手は先に落とさんとなあ?」


 させるか! 俺はレナを俺の近くへ引っ張ろうと手を伸ばし――。


【レナが消えた。ラクエイごと。】


「レ……レナ! レナ!!」


 消えた! レナを連れた!?

 ラクエイの野郎! くそっ、俺が油断したのか!


「レナ!!」

「落ち着けアーサー!」


 ジャレットが俺の肩を強く掴んだ。


「どこかに連れてかれた訳じゃない……ここにいる。お前にも判るだろ? 回復持ちなら」


【術士は術士の気配を感じ取る。王都で出会ってずっと一緒にいるレナの気配は、彼から離れていなかった。】


「み、見えなくなった? じゃあ透明化の術? いや何だそれ? レナが……レナを助けないと!」

「落ち着けって。レナのことになるとほんとお前……いつもの冷静さはどうした」


【ジャレットは苦笑いのようなものを浮かべた。アーサーはレナしか見ていないこと、彼もよく知っている。そう、最初から。】


「冷静でいられるか!――ユウオ! ラクエイの能力は!」

「ユウオに怒鳴るな」

「怒鳴ってない!」

「アーサー!」


 ジャレットが今度は俺の両肩を掴んで揺さぶった。


「落ち着け。お前ならできる。ラクエイを見つけて、レナを助け出せる」

「……悪い、有難う」


 息を吐いた。ジャレットの言う通りだ。俺の心臓は破裂しそうに音を立てて……あのとき、「エレナ」が突然意識を失ったときと同じか、もっと酷いことになっていたが、やっぱりあのときと同じ。

 俺がパニクっても、何にもならない!


「簡単に言う。いいかアーサー」


 ジャレットが辺りに目を配りながら囁いた。


「何だ?」


 俺も同じようにしながら返す。


「前世を思い出してから、俺はずっと思ってたんだ。兄貴の名前、変だなって」

「――は?」


 な、なに?


「変だと思わなかったか? ジュイムなんて名前」

「その話、いまで合ってるか?」


 全然そんな場合じゃなさすぎるんだが? まさか、俺に落ち着けとか言いながらジャレットのほうがよっぽど混乱を……?


「だから、俺はあいつに勝手に名前をつけてた。いや、名前って言うか……漢字を」

「は?」


 何なんだ、何の話……。そこで俺ははっとした。


「……呪? ジュイムのジュってまさか『呪い』か?」

「察しがいいな、それでこそ勇者だ」


 ジャレットはにやりとした。


「俺が兄貴の名前に当てはめてみた漢字は、『呪い』と『忌まわしい』。それで実際、ここにきて出てきた兄貴の『能力』は呪いだ」

「まさか……それじゃラクエイは……」

「ああ、俺もそう思う」


 俺たちは目を見交わした。


「ユウオ」

「……そこ」

「あんがとな!」


 ユウオは床を指した。俺は思い切り、机を蹴飛ばした。


【まるで勇者は乱心したかのようだった。神女を攫われ、取り乱し、苛立ちで乱暴な手段に出たかのように。――しかし、そうではなかった。】


「うひゃっ」


 ラクエイのふざけた声が聞こえた。と、そこに小鬼……亜鬼と、レナが現れた!


「レ」

「ちょっと! 放しなさい!」


 レナは聖杖を振り上げると、容赦なくラクエイの鳩尾に突き刺した。


「うごっ」


 ……お、おお。かっこいい。


「アーサー!」

「よかった、レナ!」


 今度こそ俺の手はレナに届いて、彼女を引き寄せることができた。

 よ、よかった……! レナがいる。よかった!


「はは、やったな。大正解だ、アーサー」

「ちっ……ユウオの指さしだけで理解したのか? せっかく明るくしてたのに、バレちまっちゃあ仕方ねえ」


 ジャレットは笑い、ラクエイはまた芝居がかった台詞を言う。


「は、成程な。この部屋だけ突然明るいのは……お前が逃げ込む影を作るため――だったんだな」


 俺は唇を歪めて指摘した。

 ジュイムが呪忌なら、ラクエイは……落影とでも書くのか? おい、『地の文』! 何で漢字だよ! ここは漢字圏じゃないだろうが!!


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