04 お前ならできる
「おっと、ノーコンの馬鹿力の標的にされちゃあ敵わんなあ!」
【嘯くとラクエイは手を振って――】
「え」
【消えた。】
「……逃げた? 転送術?」
「いやでも……違和感が」
連中が転送術で去るのは何度も見てるけどどこか違う気がした。あれは何て言うか、いかにも「瞬間移動の演出」って感じで、ほんの一瞬だけ残像がある。
でも、いまのは……。
【まるで映像を切り替えたかのように、かき消えた。もちろん、映像などではない。確かにラクエイはこの部屋にいた。】
「油断するな」
俺は自分自身とみんなの両方に向けて言った。
部屋の人数は……変わってない気がする。
「ケーハク、移る」
「え?」
ユウオが情報持ってる! さすが!
でも何? 伝染する、ではないよな? 軽薄が伝染するのはかなり嫌だぞ。
「移る。そこ……」
何もないところ指してるように見える。俺はゆっくりと剣を抜いたが、ユウオが何を示してるのか判らない。ジャレットやレナも辺りを見回すが、何か気づいた様子はない。
「そこ!」
「アッハァー! やっば裏切りもんからやっとくべきだったかぁー!?」
【その瞬間、ラクエイが姿を見せた。レナの背後に。】
「つっ……」
「レナ!」
「癒やし手は先に落とさんとなあ?」
させるか! 俺はレナを俺の近くへ引っ張ろうと手を伸ばし――。
【レナが消えた。ラクエイごと。】
「レ……レナ! レナ!!」
消えた! レナを連れた!?
ラクエイの野郎! くそっ、俺が油断したのか!
「レナ!!」
「落ち着けアーサー!」
ジャレットが俺の肩を強く掴んだ。
「どこかに連れてかれた訳じゃない……ここにいる。お前にも判るだろ? 回復持ちなら」
【術士は術士の気配を感じ取る。王都で出会ってずっと一緒にいるレナの気配は、彼から離れていなかった。】
「み、見えなくなった? じゃあ透明化の術? いや何だそれ? レナが……レナを助けないと!」
「落ち着けって。レナのことになるとほんとお前……いつもの冷静さはどうした」
【ジャレットは苦笑いのようなものを浮かべた。アーサーはレナしか見ていないこと、彼もよく知っている。そう、最初から。】
「冷静でいられるか!――ユウオ! ラクエイの能力は!」
「ユウオに怒鳴るな」
「怒鳴ってない!」
「アーサー!」
ジャレットが今度は俺の両肩を掴んで揺さぶった。
「落ち着け。お前ならできる。ラクエイを見つけて、レナを助け出せる」
「……悪い、有難う」
息を吐いた。ジャレットの言う通りだ。俺の心臓は破裂しそうに音を立てて……あのとき、「エレナ」が突然意識を失ったときと同じか、もっと酷いことになっていたが、やっぱりあのときと同じ。
俺がパニクっても、何にもならない!
「簡単に言う。いいかアーサー」
ジャレットが辺りに目を配りながら囁いた。
「何だ?」
俺も同じようにしながら返す。
「前世を思い出してから、俺はずっと思ってたんだ。兄貴の名前、変だなって」
「――は?」
な、なに?
「変だと思わなかったか? ジュイムなんて名前」
「その話、いまで合ってるか?」
全然そんな場合じゃなさすぎるんだが? まさか、俺に落ち着けとか言いながらジャレットのほうがよっぽど混乱を……?
「だから、俺はあいつに勝手に名前をつけてた。いや、名前って言うか……漢字を」
「は?」
何なんだ、何の話……。そこで俺ははっとした。
「……呪? ジュイムのジュってまさか『呪い』か?」
「察しがいいな、それでこそ勇者だ」
ジャレットはにやりとした。
「俺が兄貴の名前に当てはめてみた漢字は、『呪い』と『忌まわしい』。それで実際、ここにきて出てきた兄貴の『能力』は呪いだ」
「まさか……それじゃラクエイは……」
「ああ、俺もそう思う」
俺たちは目を見交わした。
「ユウオ」
「……そこ」
「あんがとな!」
ユウオは床を指した。俺は思い切り、机を蹴飛ばした。
【まるで勇者は乱心したかのようだった。神女を攫われ、取り乱し、苛立ちで乱暴な手段に出たかのように。――しかし、そうではなかった。】
「うひゃっ」
ラクエイのふざけた声が聞こえた。と、そこに小鬼……亜鬼と、レナが現れた!
「レ」
「ちょっと! 放しなさい!」
レナは聖杖を振り上げると、容赦なくラクエイの鳩尾に突き刺した。
「うごっ」
……お、おお。かっこいい。
「アーサー!」
「よかった、レナ!」
今度こそ俺の手はレナに届いて、彼女を引き寄せることができた。
よ、よかった……! レナがいる。よかった!
「はは、やったな。大正解だ、アーサー」
「ちっ……ユウオの指さしだけで理解したのか? せっかく明るくしてたのに、バレちまっちゃあ仕方ねえ」
ジャレットは笑い、ラクエイはまた芝居がかった台詞を言う。
「は、成程な。この部屋だけ突然明るいのは……お前が逃げ込む影を作るため――だったんだな」
俺は唇を歪めて指摘した。
ジュイムが呪忌なら、ラクエイは……落影とでも書くのか? おい、『地の文』! 何で漢字だよ! ここは漢字圏じゃないだろうが!!




