03 戦う気あるん?
「よ! きたな、勇者ちゃん」
部屋に入ると、聞き覚えのある軽い声がした。間違いない、あいつだ。
「やあやあ、お仲間も勢揃い! されば名乗ってしんぜよう。シュヴァルツ組のシテンノー、五本の指に入る切れ者たあ、このおいら、ラクエイ様のことよ!」
……キャラ全部乗せ自己紹介有難うな。
「これ」とやり取りしてる間に魔王が背後取ってきたときは、温度差で風邪ひくところだったよ。
室内は本当に明るい。窓とかはないし、燭台の炎みたいにちらちらしてないから、術による灯りとかなのかな?
広さはそんなでもない。ちょっと広めのリビングってとこか。俺たち四人と、少し距離を置いてラクエイがいる状態だと、狭く感じるくらいだ。
「アーサーちゃん、遅かったね? 何で指輪使わんの? 使い方も教えてあげたよね、おいら」
「魔王様から賜った」指輪には、ファストトラベル的な力があるらしい。べんり~。
「冗談じゃない、使ったら魔界に送り込まれるかもしれないような妖術にホイホイ乗れるかよ」
顔をしかめて俺は返した。
【本当に魔王城前まで跳べるとしても、そこで大軍に囲まれない保証もなかった。アーサーが安易に指輪に頼らなかったのは当然とも言える。】
ごめんな、『地の文』。せっかく便利アイテムくれたのに、言い訳させちまって。
いや、こいつは道中の描写を短縮したかっただけかもしれない。謝ることないか。
だいたいルーラもテレポもその他数あるファストトラベルも、一度は自分の足で行かなきゃ開放されないでしょ。アイテムでいきなりラスダンには行ける訳がない。
いや、そういうのもありか? 最初からラスダンとかラスボスに行けるゲームもあるもんな?
でも俺は一般プレイヤーなのでそんな無茶はしない。基本的に誘導された通りにプレイするタイプです!
「でもいまは便利に使ってんじゃね?」
「……まあな。いちいち細かい戦闘がないのは助かる」
ラクエイの指摘を俺は認めた。
指輪は「効果・魔王様の威光」って感じで、ランダムエンカウント避けにとてもべんり!
「んで、シノンと気障人間を口先で追い払って。アーサーちゃん、ほんとに勇者? シュヴァルツ様と戦う気あるん?」
「戦わずに済むならその方がいいだろうが」
魔物でも人型はあんまりやりたくないし……そもそもジュイムは人間だしさー。さっきまではシノンは仕方ないかもって思ってたけど、株爆上げされたからやりにくくなったよな……。
【余計な戦闘を避け、消耗を抑える。戦闘の基本とも言えた。】
いい感じに有難う。
「すごかったぜぇ? さっきの気障野郎。おいらのところにまで乗り込んできて、『あの淫売はどこだ!』だーってよ」
ラクエイは笑ったが、俺の顔はひきつる。レナも顔をしかめ、ジャレットが額を押さえた。普通に俺たちにも不快だが、特にジャレットはきついよな、身内が暴言吐いて回ってるとか……。
「まーそれでも仲間のオニーチャンだもんね? 戦いたくない訳だ」
「言っとくが、向こうが弟に情を持ってないなら、こっちがとっとく必要はないと俺は思ってる」
ジャレットの命を盾にしたことは普通に許せんからな。シノンについても、シノン自身が「エレナ」を呪った訳じゃないとは言え、笑って石像を落下させたことは一生許さんし。
どんだけシノンの株が上がっても、ちょっとだけギャップで可愛さが垣間見えようとも、たとえ「勇者アーサーの戦い」人気投票第一位になろうとも、そのことだけは許さん。
「あ、ありがとな、アーサー」
ジャレットが言った。
ん? いつもの爽やかな歯切れのいい礼と何か違わない?
振り返ると、ジャレットは変な顔をしてた。何?
【アーサーがジャレットのためにまっすぐな怒りを見せたことは、彼にとってどこかこそばゆいものだった。】
え、そうなの? 何でだろ。いつも通りじゃない? 別に、ジャレットに冷淡だった覚えはないけどな。
【彼は近頃、アーサーのことを気にしている。】
ん? どういう意味?
【何故かは判らない……恋というのは突然やってくるものだ。】
俺が吹き出すのをこらえたのは奇跡だと思う。
は!? 待って、何!?
いや、ちょっと判ったかも!
たぶんだけど……この爆弾発言には、ルートはふたつありそう。
ひとつ。「アーサー」が「杏里沙」になった姿を目にしたジャレットは、TSを半ば確信し、「アーサーの正体は女の子」だと思っている。合ってるけど……合ってるけど、でもいま俺はアーサーなんだよ!
もうひとつ。『地の文』は杏里沙事件を知らないはずだから……突然BL要素をぶっ込んでこようとしてる。やってみたかったの!? それも!? ちょっと意外!
どっちにしろややこしい! ラブコメは断ると言ってるだろう! ってかやめろジャレットまじで!!
「アーサーちゃんすごい顔してんね? そんなに大事なんだねえ、お仲間」
ラクエイが笑う。
すごい顔もするよ……そんな場合じゃなさすぎるだろ、『地の文』くんよ……。
「いいねえ、おいら好きだよそういう熱いの! やっぱ仲間を攻撃されると本気になる系統だろ。――シュヴァルツ様に献上するなら、本気の勇者がいいよなあ?」
【ラクエイの姿勢が低くなった。】
「レナ!」
「任せて」
いまのは「仲間を狙う」宣言だ。レナも察知して、全員に防御盾を展開してくれた。同時に、大雨みたいな音がした。バラバラバラ、と細かいものが壁に強く当たる音だ。
「へえ……」
ラクエイが面白がるような顔をしたので、俺はイラッとした。
【亜鬼の妖術が狙ったのは、アーサーでもレナでもジャレットでもなかった。】
「……ユウオはもうてめえらの仲間じゃない、と?」
【その狙いはユウオに向けられていた。ラクエイは、レナがユウオにまでは防御を与えないと考えたのだ。】
舐めんなよ! 俺の聖女を!
……キモいか? いまはいいことにする!
あと、亜鬼って言った? 亜人みたいなこと? ラクエイの種族かな。初出だと思うけど、それならもうちょっと説明してくれ、『地の文』。
【ユウオは目をぱちとさせていた。何があったか、どういう扱いを受けたか、理解しているのかどうか――その表情からは判別がつかない。】
そこはお前が描写してよ!
「……ケーハク。焼く」
ぽそっとユウオ。
ははっ、理解してた!




