02 実はいいヤツなのかも
「それで、ユウオ自身はどういう立場なんだ?」
俺の困惑など知るよしもなく、先頭を行くユウオにジャレットがまた問いかける。
あ、その問いかけってちょっとセンシティブな可能性が!
「ぼくは」
「い、言いたくなければ無理に」
「ゴミ、クズ、ゴミクズ、妖力馬鹿、ノーコン、役立たず」
俺の制止は間に合わなかったと言うか、ユウオがあまりにすらすら並べ立てたと言うか……レナとジャレットの理解が追いついてないのが判る。
「だ……駄目だぞ、そんなに自分を卑下したら!」
「そんなふうにいつも言われているの……?」
ガバエイムとは思ってるし俺も言ったけどそれは俺や森じゃなくて敵を焼いてほしいということで……い、いま羅列のなかに入ってなかったからセーフ?
「あー……悪かったな、俺もそんなことは言ったかも」
胸を痛めて言えば、三人揃って首を振ってくれた。
「アーサーはそこまで言ってないだろ」
「戦闘中の『よく狙え』は罵倒じゃなくて指示や助言でしょ」
「アーサーの言い方嫌ではない」
当人にまでフォローされた。す、すまん。
「俺の聞きたかったのは……シノンの部下とかなのかな……みたいなことで」
変なことを言わせてしまったと思うのか、ジャレットももごもごした。
「部下……判らない。シノンは、弟みたいって言う」
【事実、シノンだけは彼にきつく当たらなかった。昔、魔界で面倒を見ていた弟に似ているところがあると言って、ユウオがアーサーの元へ送られると聞いたときは反対したほどだった。】
何なの、ここにきてシノンの株を爆上げしてくのは!? 化け物みたいな描写しちゃったことへの詫び!?
それでも「魔王様の前でヤリましょう」みたいなキモ発言してきたり、何より「エレナ」を死なせるところだった過去は消えないからな!
【シノンは……オタクに優しいギャルのこの世界版みたいな……】
気をしっかり持て『地の文』。やりたいことをやっていくのと思いついたときに全部口走るのは別だ。たぶん。
「そうか……シノン、実はいいヤツなのかも……」
「ふうん、弟、ね」
ジャレットが簡単に手のひらを返しかけ、レナが不審そうに呟く。女性陣と男性陣で明確に分かれたな。
『地の文』が男性陣かは判らないけど少年漫画みたいなラブコメやらエロやらを書きたがるところからすると、たぶん男なんじゃないだろうか。まあ女の人でもそういうノリが好きなことはあるけど。
あっ、そもそも「アーサー」は女性陣に入れられない問題があった。くそう。
「たとえユウオを可愛がってたところで、シノンがシュヴァルツのために行動してることは変わらない」
俺は軌道修正を試みた。
「さっきは俺の口先で引っ込んでくれたが、万一にも俺が魔王を倒す可能性があると思ったら」
「おいおい、アーサーまで、ちょっと卑下しすぎじゃないか?」
ジャレットが心配そうに言った。俺は苦笑する。
「俺が思ってるんじゃなくて、シノンの方で『万一にもない』と思ってるだろうって話だよ」
正直なところを言うなら、姿を見ただけで身がすくんだようなあの魔王に勝てる気はしない。
俺はよく、『地の文』の支援がない状態で、逃げずにここまできたと思う。
でもいまは。
「任せろって。何しろ俺は、『夜』より出でし漆黒の魔王を聖剣〈ワーストエンド〉で倒す〈聖なる勇者〉だぞ?」
にやりとしてみせる。
「フラグ立てんな」
と、ジャレットの囁きがきた。うう、自信を見せればフラグにつながる、演出難しい!
「と、とにかく。シノンが考えを変えればいつでも襲ってくる可能性があるってこと。ジュイムとやり合っててくれればいいんだが」
シノンは実際、魔王にも色気を振りまくんだろうか。だからジュイムが「あの女は閣下を汚す」とか言うんだろうな。シュヴァルツを巡る……口喧嘩になるのか取っ組み合いするのか知らないが、それで魔王様の無聊をお慰めしててくれ。こっちにはしばらくこないで。
「キザニンゲン、シノンを悪く言う」
ユウオの眉間にしわが寄った。いつも感情が全く伝わらないユウオの表情だと思うと、めちゃくちゃ気持ちが出てるってことになりそうだ。
「すまん……キザ男の弟として詫びる」
「ジャレット悪くない。シノンも言ってた。人がいい」
「……いい人、ってことだよな」
ジャレットは少々ひきつったような笑いを浮かべた。
俺が思うに「あの術士はお人好しにもユウオをかばおうとしているから、そのまま情を持たせておきなさい」みたいなニュアンスだったんじゃないかと……まあ、俺がわざわざ指摘することもないか。
結果的に、それがジャレットを救った。
ジャレットはあのとき、ユウオを「追放モノの主人公」と思ってて、それでユウオの離脱は俺たちの破滅を招くと考え、ユウオを引き留めてた。だから打算もなくはない。
でも、あのときならジャレットは、主人公と思ってたユウオに乗り換えればよかっただけなんだ。勇者をざまぁする側に回れば、それで。
なのにあいつは、まだ会ったばかりの俺とレナを助けようと、ユウオを引き留めた。ユウオが異世界からきたばかりでこの世界に慣れてないだけだと思って――魔界も異世界ではあるが――、親切にしてたことも本当だ。
うーん、考えれば考えるほど、善性持ちは俺よりジャレット。
ジャレットが助かって本当によかった。
「あと、アーサー」
「うん?」
「キザニンゲンの呪い、運ぶしてた。ごめんなさい」
「あー、やっぱ? まあ、いいよ、治ったし。ユウオの意思じゃなかったなら」
『地の文』の自前打ち切りのあとに俺の体調がおかしくなったのは、たぶん『地の文』が消えたせいで俺が動揺してたのが大きいと思う。でもストーリー的にはユウオを介したジュイムの呪いになった。『地の文』さんの必殺技、〈整合性〉だ。
でも実際、レナ特製の香油で調子がよくなったのもある。有難い。女神。
「あっさりしてるわね」
レナは少し呆れたようだった。と思ったけど、顔を見ると少し笑ってる。可愛い。もしかして、また俺のことを聖人とか思ってるのかな。そんなんじゃないけど……可愛い。
【「魔物のいない魔王城」は、不思議な暗さも相まって、まるで廃墟のようだ。それでもところどころにある燭台に灯された青白い炎や、ねじ曲がった花が飾られている花瓶の存在が、彼らと馴染みのない「生き物」がここに暮らしていることを静かに語る。】
お、『地の文』さんの描写。どんどんしちゃって。
【アーサーたちはその雰囲気に呑まれまいとばかりに話を続け、】
そんなつもりはなかったが……もしかして雰囲気壊してた? ごめん、全然普通に喋ってた。
【階段を昇った少し先で、ユウオの足が止まるのを見た。】
「ここ」
【目の前にあるのはこれまで通過してきた廊下にあった一枚扉に比べると、簡単ながらも少し装飾がされており、ただの倉庫などでないことは見て取れた。】
木目丸出しみたいなドアと違って、色なんかも塗られてるみたいだ。光がないせいで何色とかは判らんけど。
「この先に、あいつが」
魔王直属の精鋭を名乗り、ジュイムに「軽薄者」とか呼ばれるラクエイが……?
俺はユウオの次に立ち、必要とあらばレナたちを守れる布陣を取る。そっとユウオが戸を叩き――
「連れてきた」
【ユウオは躊躇なく取っ手をひねり、扉を開けた。】
待ってユウオさん!? タイミングってものが……えっ!?
【扉の先は、明るかった。アーサーたちの知る、魔王城の外と同じように。】
色がある! 目がちかちかしそうだ。




