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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第10話 『地の文』が設定を追加してくる

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07 もうひとつの名前

「ユウオ!」


 俺とレナの声が揃った。


 振り返るとそこには、無口ってレベルじゃない無口で、馬鹿みたいな威力の火炎術を振るい、俺を少し焼け焦げさせて、ジャレットがフォローしてやろうと懸命になってた――下手くそスパイのユウオがいた。


「って、ユースケ!? ジャレットが!?」


 雄介とかそんな感じか! なんかピンとくる! ジャレットっぽい!


「そうだ、きっとそれだ。雄介だ!」


 漢字は判んないけど!


「ジャレットにも、もうひとつの名前がある! それは『雄介』! だから、やっぱりこの呪いは、無効!」


 レナは「何言ってるの?」みたいな顔をしてる。ユウオの表情は読めない。

 でも、実際、どうだ? ジャレットは……ってか、『地の文』は!? こう誘導してきたんだから、いけるだろ!?


【そう、雄介――。それがジャレットの、転生前の名前だった。アーサーが聞いていなかったそれをユウオが耳にしていた。ユウオは、ジャレットが彼を疑わず、ずっとよくしてくれていたことを覚えていて――】


 クライマックスで助けてくれるかもな、なんて……言ったよな。俺、言ったよな。

 まさか、本当になるなんて!


「う……」

「ジャレット!」

「大丈夫か!?」


 意識が戻った!


「え……あれ? 俺、何で……兄貴は……?」


 ジャレットは素早く身を起こそうとして、レナに制止された。

 よ、よかった……よかった!


「え、あれ? ユウオ? え、何?」

「お前、ジュイムの呪いを受けてぶっ倒れたんだ。ユウオのおかげで……助かったんだぞ」

「へ? まじで? 有難うな、ユウオ!」


 そこで兄貴への文句じゃなくてまずユウオに爽やかな礼を言える、こういうヤツだからユウオも助けたいと思ってくれたんだろうな。


「でもどうやって」

「『雄介』だって?」


 俺は囁いた。ジャレットはぎょっとした顔を見せる。それを見て俺は笑ってみせた。

 にやりと、不敵な勇者みたいに。

 ……笑えるって、最高だ。


「その名前をユウオが伝えてくれんだ。何つうか、それっぽいじゃん」

「やめろよ……ちょっと恥ずかしいんだよ、いまその名前言われるの」


 レナのときと同じように、自分が危うかった自覚があまりないジャレットは、苦笑いのようなものを浮かべている。


「いったい何なの? ユースケというのは。助かったのは本当によかったけれど……ジャレットの本名ならジュイムが知らないはずはないわよね?」


 その横で、レナが真剣な顔をして呟いてる。あ、どうしよう。俺とジャレットは顔を見合わせた。


「じ、実は俺、風術が下手くそな時期、絵を描いてたことがあってな!」

 ジャレットはとっさに思いついたらしい言い訳を口にした。


「そのときのペンネ、ええと、が、雅号なんだ! まさか呪いに効果があるなんてな、は、ははは!」

「絵を? 素敵ね!」

「あ、有難う!」

「――本当は?」

「え」


 そっと尋ねた俺に、ジャレットは目をぱちぱちさせる。


「本当って、ほんみょ」

「……本当のペンネームは?」


 絵を描いていた、なんて設定がぱっと出てきたのは、出鱈目じゃなくて事実だからじゃないか? ジャレットにしろ雄介にしろ、絵を描いていたことがあり、それ用の名前を持っていたんじゃ?


「……し、真実三郎……」


 目をそらしてジャレットは自白した。


「何だよそれ!」


 思わず俺は吹き出した。


「いつか見せてくれよ、イラスト」

「ぐ……『雄介』のガキの頃だぞ、もう何十年もやってないよ……」


 もごもごと言うジャレットの肩を俺はバシバシ叩いた。よく判らないペンネームに笑ってしまったのと、心から安心したのと、両方のせいだ。


 本当によかった……本当に怖かったよ、知った顔があんなふうに倒れるのは。


 しかし、そうだな。元の世界での名前が効果あるなら、俺も念のため、「杏里沙」を共有しておいたほうがいいかな? ふと俺はそんなことを思った。

 ジャレットに言うのは、TS扱いされそうでちょっと抵抗あるな……レナなら……いやでも、前に言ったときは全く理解してもらえなかったんだよな……。


 ジュイムの話からすると、身内でもない限り石像は発動しないってことになるから、同じ呪いがかけられることはないだろうけど。……フラグじゃないよな? 俺に姉はほんとにいないし。


「――ユウオ」


 レナがそっと声をかけた。おっと、立役者なのにスルーしてて悪かった。無視してた訳じゃないぞ、ジャレットが戻ったのが嬉しくて……あと考えごとしてて……。


【ユウオは所在なげに、開いたままの扉のところで立ち尽くしていた。】


「みんな、ここから離れましょう。ジュイムはすぐに戻ってくるかもしれない」


 レナが声をかけたのは、ユウオも含めてだった。

 ん、んんー……どうする?


 現状、別にユウオ自身は、一緒に行きたいとか言ってない。ジャレットを助けたのはジュイムに逆らったことになるだろうが、俺たちがジュイムにわざわざ「ユウオが助けてくれたんだよ」とか説明しなければたぶんバレない。

 でも俺たちと一緒に行動をはじめたら、完全にジュイムを敵に回し、魔王を裏切ることになる。


「ユウオは、どうしたい?」


 俺は直接尋ねることにした。


「ユウオには俺たちと……ジャレットと一緒に行きたい気持ちがあるのか。でもそれは、シュヴァルツに敵対するってことだ。ユウオも、魔王のことは、何だ……尊敬とか、してるんだろう?」

「別に」

「ええ……?」


 シノンやジュイムと違いすぎる即答に、俺は脱力したような声を洩らしてしまった。


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