04 弟に向き合いなさいって
「勇者よ」
「え、俺?」
ジャレットを素通しすんなよ。弟と向き合いなさいよ。
「どうやってか我が呪いを逃れたようだが――二度目はない」
「は?」
「呪い……それじゃ、ユウオの妖力に何か仕掛けていたのがあなたなのね」
ああ、そういうことか! 理解の早いレナ。助かる。
「ユウオの規格外の妖力なら、雑音があっても私やジャレットは気づかない……でも生憎ね、〈聖なる勇者〉は二神の加護を得ているの。呪いなんて全く効かないわ」
レナさんのはったり! 正直、それなりに効いてたし、治ったのはレナの香油のおかげだよ!?
ただ、あれは『地の文』がいなかったことによるメンタル不調も大きかったと思ってる。そんな状態でなけりゃ、ジュイムさんの呪いもあんまり効かなかった可能性はあるな。
「我が呪いを雑音だと……? この、小娘めが」
小娘! リアルに聞くとは……いや、レナに対してその言いようは許さん。俺はじろりとジュイムを睨んだ。
「呪いがあんたの武器かい、お兄さん。いまから俺を体調不良にする? ちょっと間に合わないんじゃないか?」
【アーサーは不敵に笑った。ワーストエンドの柄に手をかけ、いつでも抜く体勢を取る。ジャレットもヴォルドヴァンドの杖を取り出した。】
「ほう、〈聖なる勇者〉とは丸腰の人間を相手に剣を抜き、仲間に術を振るわせる存在か」
「生憎だけど兄貴。魔王城で待ち受けて、仲間の動揺を誘おうとしてくる丸腰の人間に関しては、別でね」
言うじゃん、ジャレット。かっこいいぞ。
でも困ったことがひとつある。俺は、人間を斬りたくない。
だって、人間を斬った記憶持って杏里沙に戻れると思う!? しかも友だちのお兄さんとか、ちょっと現代日本ではハードすぎる記憶だよ!
いままではずっと魔物相手だった。シノンみたいな人型タイプならあるけど、それでも連中の感触は生々しくないし、倒したらすーっと消えてくれる。魔界に還るとか『地の文』は理屈をつけてた。ご都合的でも俺には有難い。
あのさ……お兄さん、人間のまま?
実は魔物化してたりしない? それなら何とかやれるかも。
俺は友人の兄に対してけっこう酷いことを考えた。
「勇者よ」
は?
また俺?
弟に向き合いなさいって。
「身体の不調と言ったか。その程度で済んだのであれば、確かにお前には神の加護があるのだろう」
【まるで自身の能力不足を認めるかのようなジュイムの言葉に、アーサーは違和感を覚えた。】
うん、思った。確かに違和感がある。負けを認めるタイプじゃなくない?
「何が言いたい?」
声に警戒がにじんだ。ちらりとジャレットを見ると、不審そうな顔をしてる。やっぱジュイムらしくないんだろう。
「その神女も。日々祈りを欠かさず、神に近くある。もとより〈白銀月〉の称号を得ている、精鋭と言えるだろう。呪いを打ち破ったも道理だ」
何だ……? これって、落とす準備がある流れだよな?
めちゃくちゃ嫌な感じがする。
「そこへ行くと我が愚弟は、生得の力を力任せに振るうばかり。神に感謝せずとも術は使える、と図に乗った」
「じゅ、十代の頃の話だろうがよ!」
「愚弟」に突っ込むよりジャレットは焦ったように言った。レナの冷たい視線を感じ取ったんだろうか。
「心を改めたか? だとしても、お前たちのなかで最も呪術に弱いのはお前だな、ジャレット」
「俺を呪おうってのか? ふざけ」
【腹を立てた様子で言い返し終える前に、ジャレットは――その場に倒れた。】
「ジャレット!」
俺とレナの声が重なる。
待て、俺は知ってる……こんな出来事を。
「これに見覚えがあるな?……勇者アーサー」
ジュイムが示したものを見て、俺は目を見開いた。
「〈月の民〉の石像――!」
その手には、「エレナ」の命を奪うところだった小さな石像と同じ形をしたものが、握られていた。
―*―




