03 俺ならやれる!
「お兄さん? ジャレットの?」
レナも驚いている。そりゃそうだ。
ジャレットのお兄さんってのは優秀な人で、ジャレットは結構コンプレックスを抱いてたってことだったな。読み返したばっかりだからよく覚えてるぞ。
【暗がりで立ち上がった姿は、ジャレットと同じように背が高かった。体格は弟の方がしっかりしているようだ。「兄」は痩身で、頬はこけているくらいだ。陽の光の下であれば、きっと「顔色が悪い」と見えただろう。】
「な、何で……兄貴がこんなところに……?」
ユウオの正体が判明したときには「まじか、オーケイ、理解した」と秒速で杖をかまえたジャレットだったが、さすがに実の兄を前にすると反応が鈍るらしい。まるでお約束の反応だ。
「何でここに?」じゃないんだよ、理由は判るだろ。言えよ、「まじか、オーケイ、理解した」って。
いや、判ってる。もちろん動揺するのは当然だ。そもそも向こうだって、動揺させるためにこんな登場をしてるんだろう。俺はすっとジャレットの前に立った。
「どうも! お初にお目にかかります、おにーさん。ジャレットくんにはめちゃくちゃ世話になってましてね。これから一緒に魔王をぶっ倒しに行くとこなんですが、どうです? お兄さんもご一緒に」
過度にシリアスにさせてなるか!
俺はコメディまでいかないにしても、「不敵な勇者」に見える、くらいの温度感で割り込んでやった。
気を取り直せ、ジャレット!
「成程、生意気な勇者か。シュヴァルツ様のお気に召す訳だ」
「はは、お褒めに預かり恐縮です」
杏里沙はあんまり前に出ない方だけど、アーサーとしてはガンガン出てきたからな。俺ならやれる! コミュ強を!
「一応訊いておくんですけど、『シュヴァルツ様』から〈聖なる勇者〉に乗り換える予定って、立てることできます?」
「無理だな」
「即答有難うございます!……さてジャレット、もう平気か?」
俺は背後に問うた。ジャレットがかすかに笑うのが聞こえた。
「お前なあ、ここは俺の見せ場じゃねえか。奪うなよ、出番」
「はは、そいつは悪かった。んじゃ、改めてどうぞ」
俺がジャレットに場を譲る横で、レナが小さく呟いた。
「これが男の友情……ちょっといいな……」
うっ、ち、違う、レナをないがしろにした訳ではないし、そりゃアーサーは男だけど俺的には本当はレナと女子トークの方がしたくって……うう……。
「久しぶりだな、ジュイム兄貴。家を出て、でかい商家に勤めて、そこを乗っ取って店を大きくして手広くやってる辺りまでは聞いてたが」
ジュイム? ちょっと変わった名前かも。ジャレットとJの音は合わせてあるけど、「シノン」「ユウオ」「ラクエイ」なんかに比べるとあんまり名前っぽくないな。
それに、何だか目にうるさいなって思ったんだけど、「ジャレット」「ジュイム」「シノン」「シュヴァルツ」で「シ」を使いすぎだからだ。
『地の文』くん、そういうところちょっと雑。
……てか、え? 商家を乗っ取った上、大きくしたって言った? ジュイムお兄さん商才やばくない?
「いったい何でまた、こんな落ちぶれた訳?」
しれっとジャレットは尋ねた。は、なかなか煽りやがる。
「ジャレット」の部分が動揺してない訳じゃないと思うが、元の世界の……名前知らんけど、仮にタカシくんとかにするか? タカシ部分が巧いことやってるんだろう。はっきり聞いてないけど、四、五十代くらいの記憶がありそうだもんな。
「簡単すぎてな、面白くなかった」
ちょっと! お兄さん、シュヴァルツみたいなこと言ってるよ!? 気が合っちゃった!?
「シュヴァルツ閣下はそんな僕に生きる場所をくださった……!」
うわわわ、閣下だってよ! 目をキラキラさせちゃってる!
それに、意外にも「僕」だって? 「アーサー」も「ジャレット」も「俺」だし、一人称かぶりを避けるためかもだけど……。
インテリキャラの一人称「僕」は杏里沙さんの好みではありますね……眼鏡をかけていたら、うっかり推してしまうところだった……ああ、感情とツッコミと実況が追いつかない!
【異界を感じさせる薄闇の奥で、ジュイムの目は爛々と光っていた。彼自身の言葉通り、生き生きとして見えることが却って不気味だった。ジュイムが魔王城で何をしているのであれ、本当に彼はそれを生き甲斐とし、魔王を崇拝しているのだ。】
シノンとはまた違うタイプの……。
いや、シュヴァルツを崇拝してるって意味では同じなのか。ラクエイも、ノリは軽めだったけど、魔王を絶対視してるのは間違いなかった。
ユウオ? ユウオは判らん。あいつ何考えてたの? 十日間も寝食を共にしたのに何も判らないよ。シノンもラクエイもお兄さんも一言二言で強くキャラ性を打ち出してきたのに、ユウオだけ全く不明のままだよ。
「生き甲斐はいいけどさ、魔王城で何やってんだよ? 会計? 経費計算でもしてるのか? 城の運営でも任されてる?」
ジャレットが質問だかツッコミだかをした。まさかの、具体的な業務内容について。
確かに、魔王とか魔王幹部って普段何してるのかなってなるよな……魔王軍を企業みたいに描写するドタバタコメディ系も読んだことあるし、俺は好きだけど、『地の文』のタイプとは違う。
「ふふ……凡愚の知るところではない」
ぼ、凡愚! そんな単語を生で聞くことがあるとは! ちょっと嬉しい。
てか、ごまかした? もしかして『地の文』くん、そこは設定してない感じ?
「ちゃんと飯食ってんの? もともと痩せてはいたけど、そこまで病的じゃなかったろ。やっぱ日に当たらないのよくないんじゃないか? 運動もした方がいいぞ」
しかめ面をしてジャレットは、何だか脳筋みたいなことを言ってる。でも、タカシ(仮)状態だと思うと腑に落ちるな。
おっさん、健康に目覚めがちだから。
【ジャレットは強がるようにジュイムに相対した。】
『地の文』が適当言って……いや、実際には、多少は強がりもあるのかも。「ジャレット」部分は、俺の「アーサー」部分よりずっと濃い。何しろ二十年以上、ジャレットとして生きてきたんだもんね。
杏里沙の目でジャレットだけを見れば、「ちょっと年上だけどほぼ同世代の先輩」くらい。お兄さんが悪徳企業の役員やってる、みたいなことが突然判明したら、割とショックでかそう。
【ジュイムは、そんな弟を冷ややかに見て――ゆらりと立ち上がった。】
何かしてくるか!?
俺は剣の柄に手をかける。
……いやでもお兄さん、人間だよね? 杖も持ってないし、ジャレットは、風術でなら優秀なお兄さんを凌げると思ってたんだもんね。ジュイムさんに魔力はないはず。
何する気?




