02 ある訳ないだろ、ははは
ちらりと振り返るとシノンはこちらを見ていたが、もう絡んでくるつもりはないようだ。門柱の上に座ったまま、何を思うのか足をぶらぶらとさせて……何だよ、ギャップは駄目だよ。可愛く見えちゃうじゃないか。
ってか、俺を案内するとか言ってたのはどうしたんだ? まあ、思いっきり大扉開いてるし、要らなさそうだけどな、案内。
【そしてアーサーたちはついに城の内部へと足を踏み入れた!】
『地の文』はうきうきだ。
よし、次のイベントこい! 誰がくる? ユウオかな?
【広間は薄暗い。やはりここにも陽の光が存在しないかのように。だが不思議と、見えづらいということはなかった。物の形や距離感は青空の下と同じように判り――しかし、色だけがなかった。】
いいね!
俺がお前の雑なネーミングにもめちゃくちゃなラブコメ路線にも本気でブチ切れてこなかったのは、たまに差し込まれるこんな感じのヤツが好きだからだよ!
不気味なシーンにも関わらず、俺はにこにこしてきた。先頭でよかった。
【正面には大階段。左右に目立たない扉がひとつずつ。】
いかにも「城」って感じの造りだよな。本物は〈勇者〉の称号をもらうときに一度入った王城しか知らないし、あのときは緊張しててよく覚えてないから、イメージだけどさ。
【ギイ――と鈍い音を立てて左側の扉が開く。次の行き先はこちら、という訳だ。】
プレイヤーとしては、そのドアが正解なら後回しにしてほかの部屋や通路を全部チェックするとこだけど、今日は『地の文』を尊重しよう。
だいたい、「伝説の剣」は持ってるし、防具は神殿の祝福を受けた特別製。資金も魔石のおかげで困ってないし……宝箱があるとしても必要ない。
それに、俺が多少コメディに振ったところで『地の文』は基本的に真面目だから、「魔王城に勇者向けの宝箱があるのはおかしい」とか思ってそうだもんな。
「えっ、素直にそっち行くタイプか、アーサー。あっち見ておかないのか?」
反対側に行きかけてたジャレットが意外そうに言う。
「お前な。何が欲しいんだよ」
俺は顔をしかめた。
装備に問題がないのはもちろん俺だけじゃなく、ジャレットはリミッターのない名匠の魔杖、レナには彼女のために司祭があつらえた、彼女専用の聖杖がある。いらんのよ、お宝。
「いやだって、さっき、宝箱漁っちゃおうって……」
「冗談に決まってるだろ」
「まさかジャレット。魔王城の宝を盗もうと?」
レナも同じような顔をする。ジャレットは慌てた。
「えっ、いやいや! まさかそんな! そんな盗賊根性ある訳ないだろ、ははは」
何とかごまかしたつもりらしいが、レナは呆れたように肩をすくめていた。
そりゃ、レナからすれば、「誘導された先に罠を疑う」みたいなことはあっても、「マップを埋めて取り逃しがないようにしてから進みたい」なんて心理は有り得ない。
ジャレットは少々未練ありげに開いていない扉を眺めていたが、それ以上「俺は絶対に全マップを開示して全アイテムを集める主義なんだ」とか言い出さず、ついてきた。
【勇者は慎重かつ大胆に扉の先をのぞいた。】
どっちだよ!
普通に様子を見るよ、警戒はするけど。
【その向こうは広い部屋だ。いくつかの机が等間隔に並んでいる。左側が一段高くなっており、台が置かれている。その様子は、さながら教室を思わせた。】
確かに、ちょっとした塾の教室って感じ。それとも小さな事務室? どっちにしろ、魔王城には不似合いだけど。
【三人はゆっくりと部屋に入った。なかには誰もいない――いや、いちばん奥の、左隅の座席に、影が。】
俺はそっと剣の柄に手をかける。
「――予想通りだ。今日やってくると思っていた」
誰だ!? 知らない声だ。ユウオとかラクエイじゃない。シュヴァルツでも。
「時間は少し早かったな」
何だ? 時間とか、まさか計算系キャラ? シノン、ユウオ、ラクエイにこいつで、実質四天王的な?
そんな警戒をした俺は、背後の様子に気づけなかった。
「魔王城の隅々まで調べるという、幼い頃の野心は捨てたのか?――ジャレット」
え。
「あ……兄貴……!?」
ええー!?
ここ!? ここで回収!?「ジャレットの兄、どこかで使う」!?




