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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第9話 『地の文』のいない世界

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07 目覚めたのは

 「全部消す」って、どういう心理? 決戦前みたいなやり取りから、何で男性向けエロ同人みたいな描写に? そう言えばいつだったか「微エロにした方がウケたかも」みたいなこと言ってたな。PV目当て?


 でもそれにしても「微」ってレベルじゃないしジャンル違うし、ここまで読んできた人がこれ見せられたら困惑じゃ済まないが? 通報されたらBANレベルだが?


 ふと、真穂がかつて言ってたことを思い出した。誰も読んでくれなくて病みかけてた彼女。それと同じ? 読まれないなら全部消したり、ジャンルを激変させても同じだってこと? 俺はずっと読んでたが!?


 いや、まあ、正直に言えば望んで選んで読んでた訳じゃないし、もし「アーサー」経験のない杏里沙が「勇者アーサーの戦い」に出会っていたとしても、ここまで読み切ったかは判らない。たぶん読んでない気がする。


 誰も読んでないから……めちゃくちゃをやって……炎上みたいなこと狙ってる? ううん、狙ってるって言うか……待って、嫌なことを思っちゃった。


 炎上するようなものを書いて、もし炎上したら、誰かが見てくれたって、ことになる……?


「病んでる! それは闇が深いよ!?」


 私は思わず声に出していた。


 ――誰も、読んでないって?


「……よし」


 私はお茶を飲み干した。

 一話に戻る。

 全部に、星を押していく。


 行くのかな、通知。作者に。


 見てるぞ。ほら。一話から読んでるヤツがいるぞ。いいのか、最新パートの、魔王城に乗り込もうって大事なシーンが、こんな意味不明のエログロで。そこで更新が止まってて。


 押していく。星を。

 つけていく。どんどん。


 ほら、見てるか。

 気づいてるか? 俺に。


「待てよ、いまは寝てるかもしれないか」


 はたと気づいて、俺は星を打つ手を最新の少し前でとめた。

 で、その代わり。


「えっと……スマホで長文ってあんまり打たないけど……メモ帳とかでいいかな?」


 呟いて適当なアプリを立ち上げる。

 ――待ってろよ、『地の文』。


―*―


 はっと目を覚ましたのは、朝の光が瞼の上に届いたせいだったろうか。


「あったま、いってぇ」


 俺はしゃがれた声で呟いて……ああ、しゃがれてても声が高い。そうだ、私、だった。


 昨夜はあのまま、思うままに長文感想を綴った。


 「レナが可愛いです。彼女が無事で本当によかった」「アーサーは『まあまあ見られる』とか書いてあったけど、格好いいと思います」「ワーストエンドってネーミング最高ですね! インパクト強くて忘れられません」「聖なる勇者って結局何なんですか?」「ジャレットいいヤツ。元の世界を知ってる仲間が増えたこと、アーサーのためにもよかったです」「ジャレットのお兄さんって出てくるんですか?」「レナが可愛いです。酷い目に遭わせないでくださいね。絶対に」「シノンは魅力的な悪役だと思います。最後までそのままだといいな」「金髪の漆黒の魔王ってセンス、最高です。漆黒だから黒髪じゃ当たり前すぎますもんね!」「レナが最高です」


「まだ最新まで読めていませんが、アーサーが格好よく活躍して、可愛いレナがかすり傷ひとつ負わなくて、ジャレットも無事なまま、ハッピーエンドを迎えることを祈っています!」


 ……ちょっと言い過ぎたかなと思わなくもないけど、深夜テンションで、そのまま送ってしまった。

 昔、真穂に「こうしてほしいとか、こうなってほしいとかを作者に言うのはよくない」と指導を受けていたことを思い出しはしたんだが――俺は読者でありながら当事者でもあるから、許してもらおう。


 届いたかな。『地の文』のヤツ、通知オンにしてるかな。

 そもそも、まだ寝てるかも……。


 俺はスマホの画面を見た。

 そこで、目覚めたのは朝の光のせいじゃないと気づいた。


 スマホの通知が、告げていた。


「『勇者アーサーの戦い』の最新話が投稿されました」


 俺は目を見開き、無意識にスマホのロックを解除しかけたが――それより早く、世界が回った。


―*―


「――ったわね、仔猫ちゃん。その言葉、後悔しないことね」


 俺は目をぱちくりとさせた。


「やれるもんならやってみなさい。魔物たちって〈月神〉の力を甘く見すぎなのよね」

「そ、そ、そ、そこまで!」


 俺は強引に、割り込んだ。


「レナは危ないから下がって」

「何よ、やれるわよ、私だって」

「雷撃とか衝撃波を連続でぶち込まれたら、いくらレナの障壁でも保たないでしょ。あと、俺が前に立つから、できたら俺を守ってほしいな」

「……何? アーサー、ちょっと話し方が変じゃない?」


 レナは少し不気味なものを見るような目で私を……俺を見た。ごめんて。ちょっと杏里沙状態だよ、まだ。


 戻ってきた感慨を覚える暇もない。

 いや、そもそも俺って元の世界に帰りたかったはずなんだけど。

 ええい、考えるのはあとだ、あと!


 戻った。いや、この世界云々じゃなくて。――エログロの気配はない。

 元に戻して書き進めたんだな? いいんだな? 信じていいな、『地の文』?


【アーサーがレナとシノンの間に割り込むと、当の二者からきつい目線を受けた。】


 『地の文』! いるのか! てか、何で俺が怒られる訳!?


「ひゅー、モテるな、アーサー」


 ジャレットがにやりとした。


「完全に、お前を争う女ふたりの図だぞ」

「は!?」


 ジャレット以外の三者が言った。俺とレナだけじゃない、シノンまで。


「おっさんは黙ってて」

「あなた、三文小説の読み過ぎじゃないの?」

「覚えておきなさい、アタシはシュヴァルツ様一筋よ」

「俺……二十代……」


 思わず「おっさん」と言ってしまった俺の台詞がいちばん刺さったようだ。だって発想がおっさんだもん、仕方ないじゃん。


 シノンの言葉にも、少し安心した。そうだよな、俺を誘惑みたいなことしてたのも、多少はサキュバス的なキャラ付けがあるとしても、根底にあるのは「魔王様の暇つぶしに役立ちそうだから」だったもんな。

 よかった……安っぽいエロ小説のピー音連発の台詞吐いて、口にしたくもないようなキモ描写をされてたシノンはもういない……。


「いつまでそんな似非神女に頼ってるの、勇者様? 神様ならアタシがいくらでも連れてきてあげるわよ。魔界の神々をねぇ!」


【シノンは魔界の巫女のような存在だった。魔界の神々から力を借りることができるのだ。】


 初耳だが!? ここまできてそんな設定を!?

 お前も深夜テンションで書いてるのか、『地の文』!?


 いや待てよ、そう言えば……ワーストエンドを手に入れるとき、巫女のような力を持つ者なら勇者の居場所が判るとか何とか言ってたな。さっき読み返したときにも書かれてた。

 じゃあ伏線!? てか、裏設定みたいな!? いままで出すとこなくて、ここで強引に!?


「アタシの〈真実の声〉を聞きなさい!」


 何? 声? シノンの必殺技的な? 初耳!


「光のない世界に届けてあげるわ、月神の癒やしをね」


【癒やしの聖なる力は、魔界の生き物たちにとって苦痛を与えるものだった。】


 あー、回復が攻撃になるみたいなギミックか……ってか、いまさら!? ここで!?


【……やっぱ楽しいかも】


 ぽつりと差し込まれた一言。俺はそれで全て許した。

 いいぞ。未公開の裏設定全部投げてけ。思いつきも全部受け止めてやる。……ただし、俺がショックを受けるようなのは除く。レナやジャレットに実は裏があって……みたいなのは断固塗り替えてやるからな。


 魔王城の入り口。

 因縁のある女妖魔が立ちはだかる。

 なかなかいいシチュのただなかに、俺は戻ってきた。

 かつて、突然発生した転移に泡を喰いながらも、「『地の文』がそう言うんだから私、いや、俺は勇者なんだろう」と、半ば流されるみたいに勇者業をはじめた俺が。


 今度は、自分の意志で、この世界の扉を開けた。


 よし!


【勇者アーサーの戦いはこれからだ!】


 おい!


【――文字通り、本当にこれからが勇者の戦いである。】


 ……そういう意味なら、よし!


[第10話「『地の文』が設定を追加してくる」へつづく]

おかえりアーサー!

杏里沙成分が強まりつつ、戦いはこれからだ!


続きが気になっていただけましたら、リアクション、最新エピソード画面下の【☆☆☆☆☆】評価、ブックマーク等から、応援をよろしくお願いいたします。


第10話「『地の文』が設定を追加してくる」もお楽しみに!

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