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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第9話 『地の文』のいない世界

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05 いまは最悪

 レ――


「レナ!」


 俺は叫んだ。その叫びは妙にでかく聞こえて、俺の耳に響き渡った。

 それもそのはずだ。

 ここは魔王城の前みたいなだだっ広い屋外じゃなくて――


「え……」


 夕暮れの日差しが差し込む、俺の……2DKの、私の城だった。


「え……」


 戻った。……戻った!? 何で!?

 俺、じゃない、私は自分の手を見て、身体をべたぺた触る。間違いない! 元の身体だし、元の……元の世界。


 だ……駄目駄目駄目!

 そりゃ戻りたかったけど、これは駄目でしょ!

 最悪、魔王城に行く前ならいいよ!? 勇者がいなくなったらレナやジャレットも突入しないよ!

 でも、いまは最悪じゃん!!

 レナに何かあったら、俺は……!


 俺はびくっとした。部屋に響き渡ったのは久しぶりに聞く音だった。

 テンテロテンテンテン、と鳴っているのは……薄い小さな四角い板で……表面に見慣れない……違う、よく知ってる文字が……


 着信! 私は気づいて手に取った。「出ようと思った」と言うんじゃない、ほとんど反射的な反応だった。よく知る名前からかかってきたせいもある。


「やっほー、元気? 杏里沙(アリサ)、いまちょっといい?」

「あ、ああ……まほ」


 まほ……真穂(マホ)だ。

 彼女は、昔からの友だち。創作ガチ勢で、「異世界に行くにも転移とか転生とか召喚とかいろいろある」みたいな話を教えてくれたことがある。私はその辺の違いをあんまり気にしてなかったから、真穂の知識がかなり役に立った。


 役に……何?

 ちょっと待って、あれ、私は杏里沙で……アーサーで……。


「どしたの? すごい声。寝てた? ごめんね、いきなり電話して。やっぱチャット送るね」

「いや……大丈夫」


 声。私の声だ。かすれてるけど、「アーサー」とは確実に違う。


 頭が混乱しそう。でも大丈夫。理解できてる。

 いや、一ミリも大丈夫じゃないけど!


「何か急ぎなんでしょ。このままで平気だよ」


 平気か? 本当に平気なのか、いまの私? 私は返事をしながら自問していた。平気じゃない気がします。


「そう? じゃあ聞くんだけど、来週の日曜って空いてる?」

「らいしゅう……」


 私は考えた。


「来週って、七日後……?」

「うん。そう。七日後の日曜日。イベント手伝ってもらえないかな?」


 普通の返事が返ってくる。寝ぼけてるくらいに思われてそう。


「実は、売り子を頼んでた友だちが急に都合悪くなっちゃってさ。うちは全然小規模だし、あたしひとりでもいいんだけど、話し相手がいてくれたら助かるから」

「七日後……ちょっと、まだ、難しいかも……」


 魔王を倒して、諸々落ち着くのに一週間じゃ足りないかも……。

 私は混乱したまま、そんなことを考えてた。


「そっか、そうだよね。ごめんね、急に。聞いてくれてありがと!」

「ううん、こっちこそごめん……誰か、ほかに当てある?」

「うん、架凛(カリン)ちゃんにも聞いてみる。何とかくんのライブ終わったばっかりらしいから、来週は空いてるかもだし」


 真穂はそんなふうに言って笑った。架凛は真穂と共通の友だちで、推しアイドルを追いかけて東奔西走してる子だ。ジャンルは違うけど、イベントにも理解があるとか何とか。


「よかったらまた読んでよ、あたしの漫画!」

「ああ、うん……それはもちろん。楽しみにしてる」

「わー、嬉し!」


 通話は切れた。

 何? 何だっけ? 売り子……イベント……漫画……ああ、同人誌即売会。


 そうそう、真穂はいまでこそ楽しく同人活動をしてるけど、何年か前は「オリジナルなんて誰にも読まれない」とか病みかけて、ネットに上げてた作品も全部消そうなんて言い出し――


 私ははっとした。


「――あいつ!『地の文』! どこかに小説を載せてるんじゃないか!?」


 私は勢いよくスマホを両手で握った。


「アーサー……勇者……主人公……」


 駄目だ、検索結果がありすぎる。「勇者アーサー」は音楽関係で活動してた人がいるみたいだけど、『地の文』とは関係なさそう。


「魔王、シュヴァルツ……うう、これも多そう。シューベルトも引っかかるが!?」


 レナって名前は特定が難しい。ジャレットはジャズピアニストが出てくる。どうやれば……


 そのとき、閃くものがあった。


「そうだ、聖剣……ワーストエンド!」


 勇者の剣のネーミングじゃない! これなら、特定できる可能性が!!

 私は素早く「魔王に最悪の終焉をもたらす剣」について検索する。


「あっ……た……?」


 「聖剣ワーストエンド」の語句であちこちを探し回った俺は、投稿サイトの一部にそれを見つけた。


「『勇者アーサーの戦い』……? ヤバい、いまどきじゃなさすぎる……」


 シンプル過ぎるタイトル。短いってだけじゃない。何も伝わってこない。絵本とか、平成初期のジュブナイルならワンチャン存在するか。いや、もっと前かも?


 あらすじは……「選ばれし〈聖なる勇者〉アーサーが、仲間と共に魔王を倒す物語!」。

 ヤバい。逆に気になってきたけど、普通はスルーされそう。


 私は突っ込みたい気持ちと、驚くほどの古典感に逆張り心がそそられるというのと、あとは、本当にこれが「アーサー」の物語なのか?――という不安、それとも期待で画面に触れる指が震えそうになっていた。


 「第一話」をタップする。

 「これは、〈聖なる勇者〉アーサーが魔王を倒す物語である!」。それはもう判ったよ!!

 俺は反射的に突っ込んだ。


 いた。いたよ。

 こいつだ、『地の文』! この感じ、間違いない!


 俺はそこから、突然異世界に転移して「勇者アーサー」となった少年の物語を……読み始めた。


―*―


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