02 考えがあるんだ
「その、思ったんだ。アーサーの運命とか使命とかってものがあるとして、それがアーサーをレナに会わせ、聖剣を手に入れさせ、俺も入れてもらえるなら俺にも会わせた」
「当然、ジャレットも入ってるさ」
「はは、有難うな」
真面目に言ったのに社交辞令だとでも思ったか、ジャレットは少し笑った。
「ただ、もしかしたら俺が勇者と一緒にいるのが、何かその……『本来』と違うんじゃないかって……」
ちらりとジャレットが俺を見る。俺は、彼の言わんとするところが判った。「前世の記憶を取り戻さなければ勇者パーティーに入ろうなんて思わなかった」「転移者と転生者が一緒にいることが異常なんじゃないか」、そうしたことだろう。
「『本来』?」
それはレナには伝わらない。彼女は顔をしかめていた。
「ああ、ええと、何て言えばいいか」
「あのとき術を磨いてるジャレットに出会った、それは間違いなく運命だと俺は思ってる」
少し強引に俺は割り込んだ。余計なことを言わせないためでもあるが、本心でもある。
「アーサー……」
ジャレットは感動でもしたみたいに俺を見た。ええい、目をキラキラさすな。
「あなたの風術なしでは、ここにくるまでもかなり苦労していたはず。どういうつもりで『本来』なんて言ったのにせよ、『本来じゃない』なんてことはないと私も思うわ」
「レナ……」
ええい、そんなうるうるとレナを見るんじゃない! 俺は咳払いをした。
「改めて、異変についてだが」
これは自然な話運びである。ジャレットがレナを見つめることに不満があった訳では断じてない。
「幸い、深刻じゃないことが多い。とは言え、人々の生活に影響が出てることを思うと、早く解決したいところだ」
大根が走っても問題ないようで、農家には痛手かもしれない。風評被害とか……単純に、全部の大根に逃げ出されたら生活に関わるだろう。
土砂崩れなんかも、直接の被害がなければいいとは限らない。普段のルートから迂回しなければならなくなったら手間だし、復旧も簡単じゃない。生態系にも問題が出るかも。
「俺が異変の原因かどうかを俺たち自身で検証するのは難しいと思う。だいたい、そこに手間をかけるくらいなら、俺は魔王退治を優先したい」
「俺のせいかも」と悩んでも何の解決にもならない。仮に、もし本当に俺のせいなら、帰ることが解決策だろう。それにはやっぱり、魔王退治だ。
正直に言うと、シュヴァルツを目にしたいまは、「倒してみる」なんてことは言いづらい。
でも、足がすくんでどうしようもないという段階は抜けたんだ。勝機はある。と思う。思いたい。
何しろ俺は魔王を倒す運命の勇者だ。
そうだろ?『地の文』。
「アーサー……お前、強えな……」
ジャレットが感じ入ったように言ってくる。
「アーサーならそう言うと思っていたわ」
レナがやわらかく微笑む。可愛い。
「この指輪は魔王への通行権だ。少なくとも『どうやって侵入しよう』みたいに悩む必要はない。正々堂々と正面から」
「……入れてもらえるのか?」
「さすがに通してはもらえないんじゃ?」
うっ、そう思うよな、普通。
でも、面と向かって判ることもあった。
「あの様子からすると、あいつは……魔王は本当に俺を面白がってるよ。膝元まで出向いた人間を配下に蹴散らさせて終わりにはしないさ」
「配下に蹴散らされるようじゃ、話にならないけれどね」
レナは辛辣に言ったが、これは俺への信頼だ。嬉しい。可愛い。
「あなたの判断を信じるわ。第一、向こうが本気であなたの命を奪おうとしていたなら、背後を取られた時点で終わってたんだし」
「うっ……それは本当にそう」
転送術みたいなもんで俺の後ろに現れたんだとしても、あれがいつでも可能なら、こっちになす術はないんだよな。
でも、それも同じこと。とにかく当たって砕け……たくはないが、やってみる以外に手はない!
怖くない訳じゃない。
痛いのは嫌だし、死の恐怖を感じることもあった。
それでも、『地の文』がいる間は、あいつが俺を生かすと思ってた。でもいまは勝利の運命を保証した『地の文』はいない。
このままだと、単純にバトルで命を落とす可能性だけじゃなく、俺が異変の原因で世界が滅びるとか、魔王を倒しても帰れなくて俺が病むとか、勇者が次の魔王になる系の展開になりかねない。
でも――
そうしたことを阻止できる可能性について、思いついたんだ。
どうやら俺には、できる。
『地の文』に逆らって座り続けるのと同じように。
ラブコメに抗い、エロ路線を拒否してきたのと同じように。
「魔王との対面」というシリアスシーンを「魔王への不敬を働いた俺に魔王の手下がツッコミを入れる」みたいなコミカルなシーンに変えられた。
ラブコメは嫌だ。レナが俺に夢中、なんてのは解釈違いもいいとこ。
でもな、考えがあるんだ。
それは――コメディなら、死なないということ。
コメディなら、死にそうになっても次のシーンでは全然元気、みたいなことになる。
コメディなら、ガチ闇落ちもない。闇落ちしそうな理由がおやつを食べられたからとか、そんなノリになる。
俺が『地の文』に繰り返していた脳内のツッコミをシノンやユウオやラクエイや、シュヴァルツにも直接やっていくんだ。
『地の文』のヤツはシリアス王道好きだから、不服かもしれない。そうしたら戻ってくるかもしれないし、それならそれで「主人公の生存」「世界の救済」は、ほぼ確になる。
正直、「俺の帰還」だけは怪しいが……そこはやってみるしかない、という点で変わりない。
ツッコミを駆使してコメディで生き残るか。
『地の文』を呼び戻して運命で生き残るか。
どっちに転んでも悪くない――気がする!
―*―




