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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第8話 『地の文』が帰ってこない

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07 名乗られなくても

「面白い男だとみなが噂するからな、見物に来た」


 細いのに妙に通る声。

 違う。声が耳元に届いたんだ。妖術によって。


 全身の毛が逆立つみたいだった。


 モデルみたいに整った顔。頭身の高い、均整の取れた身体。

 それでもイケメンだなんて思わないのは――尖った耳のせいだけじゃない。透けるほどの金髪と色のない目、それに死人みたいに白い肌が、声高にこれを人外だと知らせるからだ。


 見た目だけでも人間離れしているそいつが何者かは、名乗られなくても確信できた。


「魔王様! とんだお目汚しを!」


 ラクエイの腹立たしい言いように突っ込む気も起きない。俺は――足が震えそうになるのをどうにか耐えるしかなかった。


 これが、魔王!


 や

 やばい。やばいやばいやばいやばい!

 何だこの雰囲気。空気? こいつが現れた瞬間、世界が変わったみたいだ。

 こいつと戦う? 俺はいま、聖剣を取り落とさないのがやっとなのに?


 逃げたい。いますぐ。圧倒的な恐怖に襲われる。

 ワーストエンドなんか投げ捨てて……


「ワースト……」


 俺は歯を食いしばった。

 逃げたい。

 逃げたい。

 に――逃げられるか! 仮にも勇者として、ここまでやってきたんだぞ!


「ワーストエンド! 魔王に最低の終焉をもたらす剣!」


 『地の文』が言ってたのは「最悪」だったか? ちょっと違ったかも? ええい、何でもいい!


「なななな何がシュヴァルツだ! 少しも黒くねえじゃねえか!」


 『地の文』への抗議を口にする。


「漆黒の魔王を名乗るならせめて黒髪であれよ!!」


 震えが――減ってきた。

 『地の文』の中二設定が、まさかの力をくれる。


「不敬! 不敬! 魔王様、やりますかこいつ!」

「下がれ、ラクエイ」

「ははーっ!」


 俺は振り返ることもできずにいたが、ラクエイが冗談みたいに平伏したっぽいのは判った。


「私の前で武器を捨てもせず、それだけ舌が回るニンゲンは珍しい。どうせシノンが色欲を出して、自分が『食う』まで死なせまいとしているだけかと思ったが」


 シュヴァルツは微かに目を細めた。――笑ったのか。


「本当に、面白い男のようだな」

「だだだ誰が『おもしれー男』だ。舐めんなよ」


 うう、語彙が死んでる。

 でも、返せてるぞ! 対話になってるかは別として!

 ……てか、シノンが何だって? 色欲で「食う」とか、そっちの話だよな!?


 キモい、という気持ちが湧くと、足元が確かになってくる。これは、シノンに感謝すべきなんだろうか。しないけど。


「おい、アーサー! 魔王様に面白がっていただけるなんて、こんな光栄なことはないぞ! 感謝しろ!」

「するか!」


 言葉が戻ってくる。


「何でお前、俺を仲間みたいな扱いしてんだよ!?」

「それは、アンタがおいらの前にいるから」

「お前と一緒に魔王に謁見してる訳じゃないぞ!」


 よし……対話になってきた! ラクエイ相手だが!


「道化として我が居城に来るか?」


 シュヴァルツが言う。その声が奇妙に耳元に届く。俺はまた固まる。何だこの……存在が示されるだけで身が凍るみたいな感じ……。


「何と言ったか……道化は私に真実を指摘するのだったな。実に興味深い」

「何の……あ」


 シノンに叩きつけた台詞だ! 宮廷道化師は軽口に紛れさせて王様に鋭いことを言っても許されるところがあった、みたいな、世界史の横山先生から教わった話!


「――あんたの失策を配下が普通に指摘できねえような恐怖政治してんの? 魔王だもんな、それくらい当たり前か」


 俺はシュヴァルツの目を見て、そう返した。

 うう、怖え! 怖えよ! 心臓破裂しそう!

 でも直接言い返せた。俺、すごくない!?


 ……俺が、「アーサー」としてだけじゃない、元の世界で持ってた感覚や知識が、「対魔王で恐怖のあまりひれ伏さない」ことに役立つなんて、思いもしなかった。


「ラクエイ」

「ははっ!」

「勇者にこれをくれてやれ」


 魔王は何かを取り出し――いや、自分の手から抜いた指輪をポイッとその場に投げた。


「ええ……こいつにやるんすか? もったいな……」

「ラクエイ」

「ははーっ!」


 目の前でぼやいてるところからすると、そんな恐怖政治でもないのかも。


「指輪? 要らねえよ」

「お、おまっ! 無礼にもほどが!」


 いてっ!……背後からラクエイに頭をはたかれた。待て、コメディになってるが?


「その指輪を何と心得る! 畏れ多くも〈漆黒の魔王〉シュヴァルツ様のお側に寄ることが許される、全魔族垂涎の逸品ぞ!」

「知らねえよ。殴んなよ。てか黒髪であれよ、せめて」


 俺はラクエイを振り返って文句を言った。ラクエイは俺をスルーして魔王の「下賜した」指輪を拾いに行き――そこにもう、シュヴァルツの姿はなかった。


[第9話「『地の文』のいない世界」へつづく]


漆黒さのない漆黒の魔王!

せめて黒髪であってほしかったですね。


続きが気になっていただけましたら、リアクション、最新エピソード画面下の【☆☆☆☆☆】評価、ブックマーク等から、応援をよろしくお願いいたします。


第9話「『地の文』のいない世界」もお楽しみに!

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