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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第8話 『地の文』が帰ってこない

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04 少しイラッと

「肉体を変化させるような呪いがあるとは思えないんだけど、アーサーの不調との関係はあるかもしれない」

「そういう話だったな」


 俺はうなずいた。レナは両腕を組む。


「アーサー、香り系は嫌いじゃないわよね」

「ん?」


 レナが何を言い出したのかと、俺は尋ね返した。


「魔を祓うとされる配合の香油があるの。苦手な匂いでなかったら試してみない?」

「へえ、そんなものがあるのか」


 そう言えば、神殿で香油を作ってきたとか言ってたっけ。あれって神殿という場所で作ったってことじゃなくて、神女のお仕事の一環だったの?


「レナの配合?」

「ええ、基本的なものを私なりに工夫したものがあるわ」

「それなら安心して任せられる」


 あのとき宿の部屋で香ったの、すごくいい匂いだった。俺も好きなタイプ。あれがレナの好みなら、強すぎてキツいとかにはならなさそう。


「……」


 ん? ジャレットが何か呟いたような。あ、もしかして。


「お前、香り系、苦手か?」


 駄目な人いるよな。だからレナも確認してくれて――。


「ああ? いや、大丈夫。全然平気だ!」


 ジャレットは親指を立てた。「本当は嫌いだけど勇者のためなら」みたいに我慢……というふうには見えない。ん? じゃあさっきの何?


「よかった。それなら次の町で材料を仕入れるわね! アーサーに似合うものにするから任せて!」


 レナが嬉しそう。俺も嬉しい。


 ……ん? あっ。


「レ、レナはこういう、調香みたいなことが好きなんだよな! だから、喜んでやってくれるんだよ!」


 俺はジャレットに向けて伝えた。

 違う、「レナに任せる」に彼女が嬉しそうなのは「俺に任されたから」ではなくて! こういうのが好きだから!


「もちろん好きよ? でももちろん、アーサーのためになることも嬉しいの」

「あ、ああ、有難う。俺も嬉しい」

「……やっぱり、鈍感主人公」


 ぼそりと聞こえた。今度こそ。

 うう……やっぱりそう思われた……!


「ひとまず、香草を試してみましょう。ソルトさんを覚えている? 宿場町の医師の先生」

「あ、ああ、もちろん」


 「エレナ」が「レナ」になったあのときの恐怖と安堵は、なかなか忘れられるものじゃない。


「あのとき、ソルトさんがくれた薬草は、もちろん服用して効果のあるものだけれど、清涼な香りも不快な気分を和らげるとされているの」

「へえ」


 ミントとかそんな感じなのかな?


「『女の薬』なんて嫌?」


 少し心配そうにレナが聞いてくる。そ、そうか、あれは呪いだったけどソルトさんが念の為にくれたのは「女の病」、つまり月イチのアレに効くというヤツだった。


「まさか。薬草や香りに性別はないだろ」


 俺が答えればレナは笑った。俺が「女の薬なんて」と言うはずがないけど……「香りに性別はない」に喜んでくれたのかな、という気がした。


 実際、すっきりした香りで頭痛がましになったりとか、あるもんな。なら、原因が呪いであれ、打ち切りのせいであれ、少し楽に……なるかな? 後者は難しいかも?


 まあ、やってみて悪いことはない。

 レナが鞄から取り出した乾燥ハーブみたいなものを受け取ると、俺はそれを指先で粉にして鼻を近づけた。

 薬草は爽やかな香りがして、少しだけ俺の目を刺激した。


―*―


 翌朝の体調は、よかった気がする。

 プラセボ効果なのかもしれないけど、香草が効いた感じがすることに何も悪いことはない。


 『地の文』はまだ何も言わない。

 そうだろうな、あいつは俺の転移前のことを知らないから、あの姿――完全に転移前の手や身体、声が再現された以上、あれは『地の文』の仕業じゃない。


 いや、だいたい、あいつは俺の行動を変えられなくて……。


 ん?

 何か引っかかった。


「香草も効果がありそうね。次の町で、香油の材料費とは別に、少し仕入れておきましょう」

「悪いな。最近は資金が潤沢とは言え」


 魔物がたくさんやってくれば魔石もドロップしやすい。俺たちはわざわざ仕事を受ける必要がほとんどなくなっていた。

 『地の文』のいい置き土産だ。


「勇者が魔王を倒すための資金でしょ。あなたのために使わないでどうするのよ」


 レナは一貫している。報酬の確認も節約も、別に彼女の趣味って訳じゃない。出納帳は趣味らしいけど。


「無理すんなよアーサー。必要なら俺も前に出るし」


 ジャレットまでそんなことを言ってくる。俺は笑ってやった。


「術士に前衛やらせる勇者は、さすがにかっこつかないだろ」

「まあ、それはそうかもしれないが……」


 歯切れが悪い。顔に「心配だ」と書いてある。百パー善意による心配なのは判るが、少しイラッとした。


「俺が頼りないなら、別の勇者を探してきたらどうだ? 不調な俺は引っ込むから、そいつに前衛をやらせろよ」

「アーサー!」


 怒ったのは――レナだった。


「いまの言い方は悪い。ジャレットに謝って」

「……確かに変なこと言った。ちょっとイラッとしちまって……ごめんな」


 一瞬カッとなりそうだったが、どうにかこらえた。レナの指摘通りだ。自分でも「嫌味を言った」という自覚がある。


「い、いや、俺の方が悪かったよ……お前は弱い、みたいな扱いされたら、腹立つよな」


 気遣い魔人は慌てて手を振った。


「俺も変な言い方になるが、昨夜の……アーサーが一瞬女の子に見えたのが気になってさ。女の子みたいな扱いしちまった。本当に悪かった」

「あ、ああ……な、成程……?」


 ――こいつ! TSの可能性を本気で考えてるな。「アーサーが本当は女子なら俺が唯一の男だから、バトルでも前に出ないと」みたいな!

 時代錯誤! おっさん!


 ……でもほんと、善意だ。


「たとえ『女勇者』になったとしても問題がないって、レナも言ったろ。……年齢制限以外」


 小さくつけ加えると、小さくなってたジャレットが目をぱちくりとして、それからハハッと笑った。

 固まりかけた空気が戻って、レナも安心したみたいだ。「年齢制限」の部分を追及してこなかったのは、「男同士がまた何か言ってる」くらいに思ってくれたんだろう。


 こんなことで彼女に負担をかけるべきじゃない。俺は反省した。


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