05 こわす!
さて。俺はここでユウオを待ち構えるか? それとも――。
【ほどなく、ジャレットとユウオが史録堂に到着した。彼らを見かけたレナは偶然を装って話しかけ、アーサーのために時間を稼いだ。】
レナ、俺の聖女様!……とか言うとキモいかもけど、いいだろ、俺のために動いてもらったときくらい。
ユウオがくる。尻尾を出させたいなら、俺は隠れていた方がいいかもしれない。そう思って辺りを見回した。
すると、横の壁にスタッフ用のドアみたいなのが目につく。壁と同じ色で目立たなくしてるヤツ。そっと取っ手を回すと、開いた。奥は誰もいない廊下だ。ちょっとここを借りよう。
俺は扉の向こうでわずかにそれを開け、部屋のなかの様子が判るようにした。たぶん不審がられないと……思う。
【部屋に走り込んでくる足音が聞こえた。身を隠したアーサーは聖剣の柄に手をかける。――ユウオだ。】
「……った。みつけた」
声はいつものユウオより低いが、確かにユウオのものだ。と同時に、少し違って聞こえた。ざらついている、と言うんだろうか。何だか――人の声ではないような。耳にするだけで不安になりそうだった。
ガン、と音がする。ガン、ガン。俺はギョッとした。魔晶板を叩いている? 音は少し近づいたり遠ざかったりして……足音もする。ぐるぐる回りながら叩いてるのか? 怖え。獣かよ。
普通の人間に壊せるような強度じゃないはずだ。人外なら判らないが……すぐさま飛び出して取り押さえるべきか。それとも様子を――。
「何をしてるの! やめなさい」
レナだ。あんな鋭い声を聞いたことはない。何かを叩きつけていたような音が途絶える。俺は聖剣を抜いて飛び出そうとした。レナを標的にはさせない!
「ユウオ!? 何してんだ!?」
そこにジャレットも追いついてきた。俺は扉を開け放つ寸前でとどまる。
ユウオの意識がジャレットに向けば、挟み撃ちにできる!
決して、ジャレットなら標的にされてもいいとかではない。ほら、あいつは火炎に対抗できるから……。
「ジャレット!」
レナが呼ぶ。
「ユウオは才能を持て余してる〈太陽の撃ち手〉じゃない、魔王の指示で入り込んでいた、魔王の手下よ」
その結論、レナの手持ちの情報からすると早くない? レナさんも『地の文』見てる?
「まじか、オーケイ、理解した」
そっちも早いな!? ここは「まさか! ユウオが!? 信じられない!」とか言うところだろ?
「杖……」
俺はそっと外を見た。ふたりのやり取りを全く気にとめない様子で、ユウオはふらふらと――うげ。
【ユウオはもはや、彼らの知るユウオではなかった。不自然に盛り上がって見える歪んだ体格、髑髏のように空洞になった両眼――人ならざる存在であることは、誰にも否定できなかった。】
これを見たらジャレットの光速理解も納得だ。
「危険、壊す」
「何だって?」
【ユウオだったものはぼそぼそと呟くと、いつもの杖もなく、乱雑に手を振った。と、魔晶板を支えていた台座が粉微塵に砕ける。】
台座、頑丈そうな石製じゃなかったか? 本当にやばいな、あの威力。
俺は確実に背後を取れるよう、タイミングを計る。少なくともレナやジャレットが狙われてる訳じゃない。ユウオの狙いは――。
「制御が下手なのは演技じゃなくて素か。壊したかったのはこっちってことだろ?」
ジャレットが魔杖をかまえ、反対の手の指をぱぱっと動かして強風を起こす。扉が閉じそうになったが、何とか押さえた。
「さわ、るな……」
どうやらジャレットは、ピンポイントに起こした風で魔晶板の箱ごと浮かせ、問題の杖を自分の方に運んだようだった。この制御力だよ、ユウオにないものは。俺は思わず感心した。
「さわるな!」
声が極端に甲高くなった。耳にガンとくる。ユウオの様子がおかしい。ずっとおかしいけど。これは、まずい気がする!
「こわす! 全部!」
【魔物の空洞の瞳にチラチラと炎が灯った。その歪んだ右手が高々と差し上げられ、強い熱が生み出されようとしている。天井がみしりと音を立てた。】
「建物ごと!? やべえ、レナ、こっちへ!」
【ジャレットがレナを守ろうと手を伸ばす。しかし、それよりも早く――】
「させんよ、魔物め!」
【勇者アーサーの聖剣ワーストエンドが一閃した!】
「グァァアアアアアア!」
飛び出した俺は思い切り踏み込み、ワーストエンドを強く振るった。狙い通り、ユウオに……ユウオという人間のふりをしていたものに深く斬りつける。人型は斬りたくないとか言ってる場合じゃない。
斬りたくないけど! これは魔物! 魔物だから!




