04 史録堂
「やっぱりユウオに『正体』を見せてもらうのがいちばんいいんじゃないかしら。でないと、ジャレットがいつまでもユウオをかばいかねないわ」
「そうだな。でもどうする? 俺が剣を突きつける訳にもいかない」
いくら〈聖なる勇者〉様だって、街のなかで根拠なく人間――に見える相手――に剣を向けたりしたら、とっ捕まるんじゃないかな。
「……これはちょっと確証がないんだけれども」
レナが口に手を当てながら言った。俺は促すようにうなずいてみせる。
「ユウオの術が強力な理由として、もう一点には魔杖の力も挙げられるかもしれない」
「魔杖? 伝説の杖とか、本当にあるのか?」
〈ワーストエンド〉みたいな?
『地の文』がまたアレなネーミングをしてきてくれるんだろうか。どこかで期待してしまっている俺がいた。
「ちゃんと見せてもらった訳じゃないからはっきりしないんだけれど、ヴォルドヴァンドの杖かもしれないの」
「ヴォル……?」
エンディリオンのワースティスさんみたいな感じのネーミングじゃないな。普通にちょっと格好いいぞ? V音、いいよな……俺は好き。
「魔杖を使わない私でも名匠ヴォルドの名は知っているくらいよ。そうね、本当にヴォルドの作ったものなら、『伝説の杖』と言っても過言じゃないと思う」
「へえ……」
俺は知らない界隈の言葉を聞くときのように曖昧な相づちだけを打った。
これは「よく判らないため」でもあるが、『地の文』が「そう、名匠ヴォルドの杖、その名をヴォルドヴァンドと言う!」とかドヤ顔をしてこなかったことに落胆したからだ。
あいつ、本当にどうしたんだろう。
「この街の史録堂にヴォルドの杖があるらしいから、確認してくるわ。『本物』が世に出回っているものかも訊いてみましょう」
「史録堂」ってのは、歴史的な文書やら武器防具なんかを保管してる、小さな博物館みたいなところだ。大きな街にはわりとあるらしい。
「もし保管されてる杖がヴォルド本人が作った強力なものなら……この場合、ユウオにそれを知られるのは危険、だな」
ユウオの火炎術がより強力になることは、いまの状況では望ましくない。
考えながら俺が言うと、レナの表情が引き締まった。
「そうね。もし展示でもされてるようなら、しばらく取り下げてもらえないか提案してみる」
【魔杖】
俺はぴくっとした。いまのは……?
【魔杖ヴォルドヴァンドシリーズの初期型。ユウオが持っている。この街の史録堂には、抑制機構のない古いヴォルドヴァンドの杖があって、もしユウオが使ったら街が吹き飛ぶかも】
俺はばっと立ち上がった。レナがびっくりした顔をする。
「何? その様子だと、『お告げ』?」
「ああ」
『地の文』が戻ってきた、と喜んだり安堵したり、まだ様子がおかしいと案じたりしてる暇はない。
この「メモ書き」が本当になったらシャレじゃ済まない。
「史録堂には俺も行く。その杖は絶対に、ユウオに渡したら駄目だ」
―*―
その建物は変わった形で、何か独特の役目を持っている施設だと知らしめていた。
ドーム状の屋根って言えばいいのかな。たいていの民家や商店は、いくらか装飾があってもだいたい豆腐建築みたいな感じなので、これはかなり目立つ。
「俺は展示を確認する。レナは職員を見つけて、権限がありそうな人を紹介してもらってくれ」
「展示内容を変える許可を出せる人、ということね。判ったわ」
史録堂に入った俺たちは、相談した通り二手に分かれた。
建物内には人が少ない。公開されてる場所だが、見物人はそんなにいないみたいだ。俺の元の世界にあるでかい博物館なんかと違って、目玉の展示が定期的に入れ替わったりする訳じゃないしな。
とは言え、こうした場所があって無料公開されてるのは、文化的レベルが結構高いなあと感心する。だからこの世界は俺たち――転移勇者や転生術士、『地の文』と相性がいいのかもしれない。馴染みやすいもんな。
【いまでは訪れる者も少ない史録堂だが、伝説の名匠ヴォルドが手がけたとされるヴォルドヴァンドの魔杖が公開されたときは、近隣からも見物客が押しかけた。】
『地の文』! 普通の描写だ! 調子が戻ったのか!?
【その際、史録堂はほかの展示も見てもらおうと杖をいちばん奥の部屋に設置したが、杖を見たい者は杖だけ見たいので、手前に置けと苦情が出たこともあった。】
職員さんも大変だな。でもいいよ、いまは。そんな当時の振り返りより――。
【しかし「重要なものである」という演出にもなったためか大方には好評で、杖はいまでもその場所にある。】
了解! 有難うな! これからは俺、もっとお前に感謝してくわ! ラブコメとエロ以外。
【当時のことはこの街の杖屋もよく覚えており、】
ん?
【ジャレットの案内で杖の手入れに訪れたユウオが、史録堂に求めるものがあると知ったのは、つい先ほどのことだった。】
おぉい!
ジャレット! 余計なことを! いや言った通りのことをしてるのは判ってる、ジャレットは悪くない。『地の文』も悪くない、教えてくれたんだもんな。
俺は足早に奥の部屋へと向かった。
展示にも興味はあるが……あっ、歴史的文書のコーナー……どんなインク使ってんだろ……いや、今度今度!
「博物館では走ってはいけません」の気持ちで、俺は競歩みたいにしながら奥の部屋へたどり着いた。
多くの展示は壁側にあるが、さすが目玉展示、部屋のど真ん中にアクリル……じゃなくて、何て言うんだっけ……そうそう、魔晶板だ。技術と神術の融合でできてるレア素材。短杖はそのなかに鎮座していた。
この世界、長いスタッフより短いワンド系がメインみたいだ。レナやジャレットも同じだもんな。ハリポタ式だ。
「――すみません、ここはいまから急な清掃が入るんで、申し訳ありませんが出てもらえますか」
数名いた見物人に俺は丁寧に声をかけた。職員に見えない俺がそんなことを言うので不審そうな顔もあったが、俺がにこやかに再度促すと、うなずいて出ていってくれる。またのお越しをお待ちしております。




