03 任せてほしい
レナは、ユウオをバトルに連れて行くのはやはり反対だと言った。
一度はクビを宣告した訳だ。ユウオ自身か、或いは魔王か、誰かしらユウオへの指示役が遅まきながら「潜り込むのは無理だ」と判断したら、ユウオの任務は密偵から暗殺者に切り替わるかもしれない、と。
確かに、もしあの火力が全力で直接向けられたら、レナの癒やしじゃどうしようもないレベル……本当に消し炭になり得る。狙いが外れることを祈るしかない。
「俺に任せてほしい」
その夜、俺はジャレットを誘ってふたりで飯に行った。少し話を聞きたかったからだが、そこでジャレットの方から出たのがこの台詞だ。
「あいつの火炎術は絶対に役に立つ。それはアーサーも思うだろう?」
「まあな。俺たちに当てなければな」
俺はエイム問題とスパイ問題をまとめて言った。もちろんジャレットは、前者だけだと取っただろう。
「どうしてジャレットは、そんなにユウオをかばうんだ?」
俺は直接的に尋ねてみることにした。
「ユウオが〈撃ち手〉として強い力を持ってることには俺も同意する。多少狙いが外れても、敵が多数なら有効だし、撃ち洩らしたヤツはジャレットが、効いてないヤツには俺が、というのは最高の布陣に見える」
「ただし」と俺は指を一本立てる。
「ユウオのあの様子じゃ作戦を理解してるか確信が持てない。それから単純に、俺が背中から撃たれるのも困る」
故意でも事故でも。
「う……まあ、それはな。あいつ、苦手だもんな、会話」
問いかけても返事がない、返事を考えている様子すらなくじっとこっちを見ている、答えるとしても単語やごく短い一文が返ってきて明らかに内容が足りない、続けて尋ねてもやっぱり返事がない、まばたきもほとんどせずにじっと見てくる……。
これって「会話が苦手」という段階じゃ済まない気がするんだが、ジャレットとはもっとまともに話をするんだろうか。
「でも、あいつは自分の力を扱いかねてるだけだ。もうあんなことは言わないでやってくれよ」
「う……」
善良すぎるジャレットの言葉に、今度は俺が詰まった。『地の文』は前に、俺には「勇者としての善性がある」みたいな恥ずかしいことを言ってたけど、ジャレットの方がよっぽど善性の塊じゃないか?
「あんなふうに人前でクビを宣告するのはよくなかったかもな、今度は飯でも誘って丁寧に話すことにするよ」
何とか俺はそう返した。ユウオとふたりで飯を? 持つかな、俺のメンタル。
俺はそんなふうに思っていたが、ジャレットは目をぱちくりとさせていた。
「……つまり、いまは俺をクビにしようと?」
これには思わず、俺は吹き出してしまう。
「お前が言いそうなことを言っただけだよ!」
こいつおもろいな。スキルがあって気遣いができていいヤツで面白くもある……お前がやる? 主人公。
「と、とにかく」
ジャレットは咳払いをした。
「……もしユウオがお前を恨んで、魔王側についたらどうする? あいつの力が事故じゃなく、確実な意図を持ってこっちに向けられたら?」
その台詞に俺は驚いた。ジャレットはお人好しで「クビにしたらユウオが可哀想だ」というスタンスで発言してると思ってたからだ。
いや、お人好しではあるんだろう。もしかしたらこれは「俺が言いそうなこと」なのかも?
「お前、そんなことを考えてたのか」
ジャレットからそういう言葉が出てきたことが意外なのは本当だった。でもユウオがスパイとは思わないのか。まあ、思わないか、アレじゃ。不自然すぎて。
――待てよ。もしかしたら。
魔王の手先と、お人好しのパーティメンバー。
俺はふと、考えることがあった。
「判った。ユウオのことはお前に任せるよ。これまでより少し踏み込んで話をしてもらえるか」
「話……ができるかは判らないが、試してみる」
俺の提案に、ジャレットは真顔で答えた。「ユウオは俺とはよく話すんだよ」と返ってこなかったことに、安心と不安の両方が湧いた。あいつ、あれだけ声をかけてるジャレットにも全然心を開いてないのか? ないの? 心みたいなもの。
「アーサーも、ユウオと話しづらいだろうとは思うが、俺に話しかけてユウオを無視するみたいのはやめてくれよ」
「あー……お前がユウオと話してるときは声をかけないようにする」
「そうしてくれ」
気遣い魔人め。
俺は少し笑って、今後の三日間の方針を練りはじめた。
―*―
まず、レナには状況を共有した。
ジャレットがユウオにつきっきりになる結果として、俺がジャレットにも話しかけなかったら、喧嘩でもしたのかと彼女が気を回すだろ?
「ジャレットから見ると、ユウオは基礎がなってないらしい。レナには判るか?」
「正直、ぴんとこないわね。〈撃ち手〉は〈癒やし手〉の私と力の使い方が違うから。でも、言われてみればそういう節もあるわ」
レナは視線をすっと宙に向けて、考える様子だった。
「ユウオの火炎術が強いのは、加減を知らないからよ」
「……全力でやってるってこと? レナやジャレットも全力でやればあれくらいできるってことか?」
「アーサーだって、城下町ではあなたの何倍もありそうだった魔物を叩き切ったじゃない。あれを毎回の戦闘でできる?」
「無理」
俺は即答した。
「あれは死ぬか生きるかって局面だったからできた、奇跡みたいなもんだよ。やろうと思ってできるもんじゃない」
火事場の馬鹿力ってのに近いだろう。命の危機の前に、リミッターが外れるみたいなことだ。
「そうでしょうね。でもユウオは、それをやってるように感じられる。普通の人間なら意図的にできることじゃないし、できるとしても……命を削るようなやり方よ」
「――やっぱりあいつは魔物かもしれない、か」
「有り得るわね」
レナも小さくうなずいた。




