02 言いづれえ!
それから何となく「ジャレット採用でユウオ不採用だよな」という空気が俺たちの間に出た。
魔物退治をするなら〈撃ち手〉二枚は確実に有利になる布陣なのに、ユウオに下がってもらったり、ジャレットと俺だけで先行したり。別に仲間はずれにしようなんて思ってはいないんだが、敢えてユウオに話を振ることもしなくなっていった。
これはあくまでも「俺は」ってことで、レナはこれまで通りだし、ジャレットはユウオに疎外感を与えないように振る舞ってた。あいつだってユウオの火で危なかったことはあるのに。いいヤツ。
当のユウオは、外されようと無視されようと、全く変わらない温度感。内心では俺を恨んでたり?……だとしても俺じゃなくて、適性のない仕事を回したシュヴァルツを恨んでほしい。
一応言うけど俺だってユウオを嫌ってるとかじゃないし、意地悪してやろうとかは一切思ってないからな? 不採用の空気は出してく方がむしろ親切だろ? ふたりを同等に扱って、いざ十日目に「あ、こっちは採用でお前はクビね」とか言う方が人の心なくないか?
決めた時点で「君は今日まででいい」とか言った方がよかった? でも十日間って約束したし……。
魔物かもしれない相手に、俺はそんなことで葛藤したりもしてた。管理職の体験コースなんて申し込んだ覚えはないのよ。
『地の文』の気配はない。
十日目がやってきても。
……思い返すと、俺が何か大事な発言したり、大きめのイベントをこなすときって、『地の文』がそばにいてくれたんだよな……いや何も彼氏気取りみたいなことを言ってる訳ではなく!
言うなればあいつが「イベントの開始を合図してくれてた」「空気感を教えてくれてた」みたいなことで……俺は気付かないままそこに頼ってたんだと思う。
試用期間が終わる今日、俺はふたりにどこでどう伝えるべきか、悩んでろくに眠れなかった。『地の文』が誘導してくれることを望んでたんだ。
「話がある」
『地の文』はいない。
嫌なことはさっさと終わらせてしまおう。俺はそう決断すると、朝の集合の時点でそう言った。
レナとジャレットはすぐに気づいて神妙な顔をする。ユウオはぬるっと顔を上げて俺を見る。
……いつも無表情にまっすぐ目を見て視線を外さないところも、ちょっと非人間的なんだよな。目をしっかり合わせるタイプの人もいるけど、普通はまばたきをするとかわずかにうなずくとか、リアクションあるから。
「――十日間お疲れ。ひとまず、約束通り魔石は分ける」
「いや……」
「要らない」
遠慮しようとするジャレットと、いつもながらの即答のユウオ。
「ここは約束だから受け取ってもらう」
俺は強調した。無償労働ダメ絶対。魔物でもダメ。……魔王軍から報酬を得ている場合は? 二重取りになるのでは? 思わず俺はそんなことを考えそうになったが、気にしないことにした。
「その上で、ジャレットは引き続き頼む。ユウオは、今日までにしてくれ」
うう、言いづれえ! せめてユウオの正体が魔物であってくれ! 俺は元の世界に戻っても、採用とか評価とか、絶対やりたくない。
「今日まで、とは?」
淡々とユウオは尋ねてきた。ええ……聞く? それを。
「ユウオとは、もう一緒に戦わない。俺たちから離れて、帰ってくれ」
俺までユウオみたいな言い方になってしまう。
「帰る……?」
判らなさそうにユウオが繰り返すので、「魔王城に帰ればいいんだよ」と言いそうになったが、すんでのところでこらえた。
「とにかく! お前とはもう――」
「駄目だ!」
と、言ったのは、ジャレットだった。俺は目を見開く。
「駄目だ、アーサー。ユウオには俺がきっちり連携や照準を教える。だから、もう少しだけ時間をくれ!」
ええ……? 何でそうなった? ジャレットは判ってたろ? ユウオの不採用……。
「頼む!」
真剣な顔だ。俺は揺らいでしまった。助けを求めるようにレナを見る。レナは嘆息して肩をすくめた。うう、俺が決めるしかない。
「――そこまで言うなら、三日。三日だけ延長だ」
「有難うアーサー! お前はいいヤツだ!」
お前には負けるよ……何なんだお前は。
スパイ疑惑について、ジャレットはたぶん、白だと思う。これまでのやり取りが演技じゃないという保証はないが、それならいまだってもっと巧い演技ができるはずだからだ。
或いは、もっと前からユウオをフォローしたり、俺にそれとなく根回ししたり。こんな不自然に止める前に、やり方があるだろう。
なのに、ジャレットは強引に、横からブレーキを踏んできた。
これは、俺が十日間見てきたジャレット「らしい」態度に思える。気遣い魔人ではあるが、立ち回りがすごく巧いという訳じゃない、不器用なお人好し。
だから――白く見える。
そこまで完璧なキャラ付けの上で演じられてたら、それはもう俺の負けかも。
ジャレットは「よかったなユウオ!」などとユウオの肩を掴んで揺さぶっている。ユウオは「よかった」などと答えたようだ。仲がいいのかここは? よく判らん。
そして……『地の文』くんよ。
崩れたぞ、「十日間」の前提が。
ここを描写しないのは有り得ないだろ? 十日間の試用期間だって話してて、「十三日後――」って出てきたら何かと思うぞ? まあ、演出次第ではありだけど、いまのは描写のしどころだったろ? いまのジャレットの食い下がりを描写しない理由あるか?
呼びかけても答えはない。呼びかけて答えがあったことはないけど。
気配のないままの『地の文』に、続くことになった試用期間。どっちに注意を払ったらいいんだ……俺は頭を抱えてしまった。
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