↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第7話 『地の文』の動向が怪しい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/95

01 これまではそうだった


 それから七日間ほど、「試用期間」は順調に過ぎていった。


 ジャレットはほんと「気のいいヤツ」で、ユウオは少しだけ話すようになってきたものの、「何を考えてるのか判らないヤツ」という印象は変わらない。


 バトルの連携については、ジャレットはさすが元ゲーマー、あっという間にコツを掴んだ。あいつは頼もしい。スパイではありませんように。

 ユウオは、俺たちを焼かないようにはしてくれてるが、ギリギリで俺の頬をかすめるようなときもある。


 これが「一ミリの狂いもなく正確にターゲットを狙えるのでギリギリでも大丈夫」という天才ムーブならいいんだが、そうじゃなくてガバエイムだ。力は強いが、当てるのが極端に苦手らしい。

 このままだと、別に「スパイとして勇者を暗殺する」みたいな意図がないまま、事故で俺が焼かれる日がくるかもしれない。


 つまり、スパイだとか災いだとかいう話がなかったとしても、ジャレット採用でユウオ不採用――という流れは自然だ。

 だが、「どうしてユウオみたいな、人間らしい対話もできないヤツを送り込んできたか」はちょっと気にかかってた。


 ジャレットの対抗馬として急に入れてきたのか? 人選の暇がなかった? 魔王軍は人材不足?


 答えは出ない。

 『地の文』が何かほのめかすことも――シンプルに「アーサーは言った」程度の文を話すことすら、この七日間、一切、ない。


 これまでにも、そういうことはあった。

 半年の間には、しばらく静かな日々もあり、もうこないのかと思った頃に突然やってきては俺を驚かせた。「一週間後――」みたいな一語が入ってくれば、「ああ、『小説』としては七日間飛んだんだな」と理解できる。俺はしっかり七日間過ごしているんだけど。


 だから、単に「約束の十日後――」みたいにするつもりかな、とも思う。

 ただ、七日前に様子が変だったことは気になってる。


 去り際の様子が気になって……なんて、あいつは俺の彼女か?


―*―


 ユウオについては、レナとも繰り返し相談をした。彼女も、ユウオが俺を焼く事故を心配してた。


「一旦断ってみるのはどう? それでもついてくるのか……もし怒って正体を表すようなら、戦えばいいんじゃないかしら」


 神女様はまあまあ過激なことを言った。「逆上させて倒せばいいじゃない」と?

 基本的にレナはもちろん優しくて女神だが、やはり「聖なる側」にいるので、「魔」には厳しいところがある。


 もっともそれだけじゃなくて、レナとしては……俺を守ろうとしてくれてる、んだと思う。俺って言うか、〈聖なる勇者〉を。

 魔王を退治するはずの勇者様がフレンドリーファイアで死んだ、じゃ笑い話にもならないもんな。


「正直、戦闘中は俺もきついこと言ってるし、ユウオがキレるならキレてそうなもんではあるんだよな」


 消し炭にされかけた俺がきつくなるのは許されるだろう。てか、その場で怒鳴るくらいで終わらせてることを思うと、俺だって女神並みの優しさじゃないか?


「『どこ狙ってんだ』とか『殺す気か』とか……あの状況なら挨拶みたいな内容じゃないの」


 全然きつくない、とレナは肩をすくめた。


「でも、実際ユウオがいまは『殺す気』でなかったとしても、彼にはそれができると思う。一緒にいるのは危険だわ」

「俺の背中を狙える、って意味ならジャレットも同じじゃないか?」


 レナの言葉に俺は首をかしげた。彼女は首を振る。


「仮にジャレットが魔王の手先だったとしても、彼の感情は素直だもの。寝食を共にした相手の命を背後から奪おうとするなら、絶対に躊躇が出る」

「あー……それは判るな。ユウオに躊躇はないだろうってことも」


 シノンによると、「〈聖なる勇者〉は魔王様の暇つぶしになるから殺さない」ということだが、じゃあ殺されないだろう、なんてたかをくくってはいられない。

 いつ魔王が「やっぱりさっさと殺しとこう」ってなるかは判らないし、ユウオが実は内心ではめっちゃキレてて、命令を無視して急に殺意を投げつけてくるかもしれない。


 もしどんな形であれ大きく話が展開するなら、そこにはきっと『地の文』がいる。これまではそうだった。

 何もない間……いや、何もないってことはなくて、ちょっとした依頼やささやかな出会い、別れ、この半年で数え切れないくらいあったが、そうした「ささやかな」ときには、『地の文』はいない。あとでまとめて「そしてアーサーは三つの町村を越えた」みたいに一文で済ますだけだ。

 手抜きだとか言うんじゃない。小説なら別に普通のことだと思う。一日中主人公の実況をし続けてるような小説はあまりないだろう。演出としてならあってもおかしくないが、それが常態ってのは、俺は見たことない。


 でも、判らない。いまの沈黙はどっちなんだ?

 三日後に判るんだろうか。


「あと三日、約束通り続けよう」


 俺は提案した。レナは顔をしかめる。


「そこにこだわる必要あるかしら? 残りの三日で焼かれたらどうするの?」

「致命的なことになる前に、〈白銀月の癒やし手〉が助けてくれるだろ?」

「……そう言われると、弱いわね」


 仕方なさそうにレナは肩をすくめた。


 本当は、避けられるならちょっとの火傷だって避けたい。レナの癒やしは完璧だが、術がくるまでは普通にとんでもなく痛いし苦しい。

 最近、「一回のバトルで何度か出血したり打ち身を作ったりするのは普通」みたいに麻痺してきた気もするが、痛くない訳じゃないんだ。


 あと三日、焼かれないことを月神様と太陽神様に祈るとするか……。


―*―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。