01 これまではそうだった
それから七日間ほど、「試用期間」は順調に過ぎていった。
ジャレットはほんと「気のいいヤツ」で、ユウオは少しだけ話すようになってきたものの、「何を考えてるのか判らないヤツ」という印象は変わらない。
バトルの連携については、ジャレットはさすが元ゲーマー、あっという間にコツを掴んだ。あいつは頼もしい。スパイではありませんように。
ユウオは、俺たちを焼かないようにはしてくれてるが、ギリギリで俺の頬をかすめるようなときもある。
これが「一ミリの狂いもなく正確にターゲットを狙えるのでギリギリでも大丈夫」という天才ムーブならいいんだが、そうじゃなくてガバエイムだ。力は強いが、当てるのが極端に苦手らしい。
このままだと、別に「スパイとして勇者を暗殺する」みたいな意図がないまま、事故で俺が焼かれる日がくるかもしれない。
つまり、スパイだとか災いだとかいう話がなかったとしても、ジャレット採用でユウオ不採用――という流れは自然だ。
だが、「どうしてユウオみたいな、人間らしい対話もできないヤツを送り込んできたか」はちょっと気にかかってた。
ジャレットの対抗馬として急に入れてきたのか? 人選の暇がなかった? 魔王軍は人材不足?
答えは出ない。
『地の文』が何かほのめかすことも――シンプルに「アーサーは言った」程度の文を話すことすら、この七日間、一切、ない。
これまでにも、そういうことはあった。
半年の間には、しばらく静かな日々もあり、もうこないのかと思った頃に突然やってきては俺を驚かせた。「一週間後――」みたいな一語が入ってくれば、「ああ、『小説』としては七日間飛んだんだな」と理解できる。俺はしっかり七日間過ごしているんだけど。
だから、単に「約束の十日後――」みたいにするつもりかな、とも思う。
ただ、七日前に様子が変だったことは気になってる。
去り際の様子が気になって……なんて、あいつは俺の彼女か?
―*―
ユウオについては、レナとも繰り返し相談をした。彼女も、ユウオが俺を焼く事故を心配してた。
「一旦断ってみるのはどう? それでもついてくるのか……もし怒って正体を表すようなら、戦えばいいんじゃないかしら」
神女様はまあまあ過激なことを言った。「逆上させて倒せばいいじゃない」と?
基本的にレナはもちろん優しくて女神だが、やはり「聖なる側」にいるので、「魔」には厳しいところがある。
もっともそれだけじゃなくて、レナとしては……俺を守ろうとしてくれてる、んだと思う。俺って言うか、〈聖なる勇者〉を。
魔王を退治するはずの勇者様がフレンドリーファイアで死んだ、じゃ笑い話にもならないもんな。
「正直、戦闘中は俺もきついこと言ってるし、ユウオがキレるならキレてそうなもんではあるんだよな」
消し炭にされかけた俺がきつくなるのは許されるだろう。てか、その場で怒鳴るくらいで終わらせてることを思うと、俺だって女神並みの優しさじゃないか?
「『どこ狙ってんだ』とか『殺す気か』とか……あの状況なら挨拶みたいな内容じゃないの」
全然きつくない、とレナは肩をすくめた。
「でも、実際ユウオがいまは『殺す気』でなかったとしても、彼にはそれができると思う。一緒にいるのは危険だわ」
「俺の背中を狙える、って意味ならジャレットも同じじゃないか?」
レナの言葉に俺は首をかしげた。彼女は首を振る。
「仮にジャレットが魔王の手先だったとしても、彼の感情は素直だもの。寝食を共にした相手の命を背後から奪おうとするなら、絶対に躊躇が出る」
「あー……それは判るな。ユウオに躊躇はないだろうってことも」
シノンによると、「〈聖なる勇者〉は魔王様の暇つぶしになるから殺さない」ということだが、じゃあ殺されないだろう、なんてたかをくくってはいられない。
いつ魔王が「やっぱりさっさと殺しとこう」ってなるかは判らないし、ユウオが実は内心ではめっちゃキレてて、命令を無視して急に殺意を投げつけてくるかもしれない。
もしどんな形であれ大きく話が展開するなら、そこにはきっと『地の文』がいる。これまではそうだった。
何もない間……いや、何もないってことはなくて、ちょっとした依頼やささやかな出会い、別れ、この半年で数え切れないくらいあったが、そうした「ささやかな」ときには、『地の文』はいない。あとでまとめて「そしてアーサーは三つの町村を越えた」みたいに一文で済ますだけだ。
手抜きだとか言うんじゃない。小説なら別に普通のことだと思う。一日中主人公の実況をし続けてるような小説はあまりないだろう。演出としてならあってもおかしくないが、それが常態ってのは、俺は見たことない。
でも、判らない。いまの沈黙はどっちなんだ?
三日後に判るんだろうか。
「あと三日、約束通り続けよう」
俺は提案した。レナは顔をしかめる。
「そこにこだわる必要あるかしら? 残りの三日で焼かれたらどうするの?」
「致命的なことになる前に、〈白銀月の癒やし手〉が助けてくれるだろ?」
「……そう言われると、弱いわね」
仕方なさそうにレナは肩をすくめた。
本当は、避けられるならちょっとの火傷だって避けたい。レナの癒やしは完璧だが、術がくるまでは普通にとんでもなく痛いし苦しい。
最近、「一回のバトルで何度か出血したり打ち身を作ったりするのは普通」みたいに麻痺してきた気もするが、痛くない訳じゃないんだ。
あと三日、焼かれないことを月神様と太陽神様に祈るとするか……。
―*―




