07 雑ってレベルじゃない
「そんなことよりユウオだユウオ。あいつは魔王の手先だと思う」
レナも疑っていたなら、遠回しに言う必要もない。俺は改めて直球を投げた。
「ただ、ジャレットが絶対そうじゃないとも、まだ言えない」
「昨夜協力してくれたのも演技だ、と?」
「違うとは思いたいけどな」
彼が転生者だと知ってるのもあって、俺はジャレットが仲間であってほしいと思いはじめている。
もし本当に魔王やシノンが「勇者が裏切られてショックを受けるところが見たい」とか思ってるとしたら? その企みには、ユウオじゃ無理があるんだ。「知ってた」で終わっちまう。
一方で、もしジャレットなら? 俺はもう既に、ちょっと嫌だぞ。あいつがスパイだったら。
「ジャレットともども仲間にしない、という選択肢は?」
「まあ、ある」
レナの問いに俺は頭をかいた。
「これまで通りレナとふたり。問題は発生しづらいだろう。ただし――」
「火力も足りない」
癒やし手はさっとそこを突いた。
「昨夜も言ったように、ジャレットの風術はシノンみたいな空を飛ぶ魔物に有用よ。火炎も強力だけれど、森での出来事の通り、危険も大きい。ユウオ自身が延焼を消せない、または消す気がないとなると、使える場面が限られる」
「お、おう……」
俺よりしっかり考えてる。助かる……。
「ジャレットについては、約束通りの試用を続けることに賛成。ユウオのことは……本当に魔王の命令でやってきているなら、断ったってついてきそうよね」
嘆息混じりにレナが言う。俺はうなずいた。
「俺もそう思う。レナが協力してくれるなら、一旦乗ろう」
「乗る?」
「ああ」
俺はにやりとして見せる。
「公正に、ジャレットと同じだけの試用期間とするんだ。その間に尻尾を掴んで、言い逃れできないようにしてやろう」
―*―
約束の時間に少しだけ遅れて、俺とレナは集合場所に到着した。ジャレットとユウオは既にきていて、何やら話をしている。
ユウオも別の宿を取ったとか言ってたけど、本当に取ったの? その辺で寝てたり? 睡眠は必要ないパターンとかもあるかも?
そんなことを考えながら遠くから見た感じでは、ジャレットが一方的に話しているようだった。そうなるだろうな、という気はする。
「悪い、遅れた」
「おお、アーサーにレナ。おはよう」
「おはよう、ジャレット、ユウオ」
四人の内、三人が言葉を発した。ユウオはただ俺たちを見た。怖い。
「答えは」
それから、短く問うてくる。うう、人間味がほしい。
「ジャレットと同じように試用期間だ」
俺は毅然と答えた。毅然としたつもり。
「一緒に戦うなら、連携できるかどうかが重要になる。ユウオの火炎術は強いが、焼かなくていいものまで焼かれるようじゃ困るんだ」
森とか。家屋とか。俺とか。
「ユウオは、この町に住んでいるの?」
「いない」
「旅の途中かしら」
「旅、は違う」
レナの丁寧な聞き取りがはじまった。食事のときは術やバトル、魔石についての話ばかりで、基本的なことも聞けてなかったもんな。
「失礼かもしれないけれど、お金はある? 私たちも稼ぎながら旅をしているの。『雇う』という訳にはいかない。そこは判ってくれているかしら」
「判らない」
「ええ……?」
聞いているレナばかりではなく、俺とジャレットまで同時に顔をしかめてしまった。
「雇う、とはどういうこと」
ユウオが「判らない」と言ったのはそっちだったようだ。
「ああ、だから、『勇者の仲間になる』ということを『戦い手として雇われる』、つまり給金が出ると思う人もいるの」
「そんなヤツいるのか」
ジャレットが口をぽかんと開けた。
「でも〈聖なる勇者〉はお金で人を雇うようなことはないの。魔王を倒すという志で旅をするのよ」
「俺たちには金がない」を何かいい感じに言ってくれている。有難い。
「わかった」
ユウオはこくりとうなずいた。本当か?
「判ってくれて有難う」
優しくレナは応じる。俺はジャレットを見た。ジャレットもこちらを見る。お互いに「こいつ大丈夫かな」と思っている感じが伝わった、気がする。
一応、ジャレットの様子にも気をつけてるんだが、もしユウオと仲間ならもっとフォローをしそうなもんだ。だが、俺と同じように困惑しているように見える。いまのところ、怪しさはない。
ええい、何でスパイ確定者とスパイ疑惑者の両方を一気に抱えなきゃならないんだ。せめて順番にこい、順番に。
「よし、じゃあしばらくはこの町と、近くの大きな街……何て言ったっけ?」
【大きな街ならラージとか。】
「ラージのことか?」
「……そう、ラージの街な」
地元民のジャレットが言い、俺はどうにかうなずいた。
『地の文』のネーミングが雑ってレベルじゃない。「手近なものの流用」ですらない、そのまま。まるで考える気がなさそうだ。
「重要なことじゃないからそこにリソースを割かない」「覚えやすさ優先」というやり方もあるし、俺も元ネタが判るとニヤッとする方ではある。でも、いままで『地の文』は、多少なりとも考えていた。「シュヴァルツ」や「ワーストエンド」、「ソルト」でも。
半年の間には、安直だったこともある。情報屋兄弟のニュスとペパー、なんてヤツらもいた。そのノリなら、ちょっとだけアレンジして「ラジーの街」とか言いそうなものだ。
なのに、『地の文』は、それすら放棄したように取れる。
だいたい、小説の体裁すら取ってない。これまでなら「最も近くの街はラージである。」くらいのことは言ってたのに。
どんどん増えてる。『地の文』の独り言が。
これはこの世界にどんな影響をもたらすんだ?
「そうね、依頼を受けたり、襲撃してくる魔物を倒していきましょう。昨日の魔石のおかげでいまは資金に余裕があるけれど、魔王城まで無事にたどり着くにはまだ日数があるもの」
【アーサーたちは王国をずっと北上してきて、魔王城に近くなってきてる。あと数日くらいで着く。】
少し戻ったか? いや、ちょっと投げやりな感じもする。
だいたい、数日だって? 魔王城って国境の先の山岳地帯だろ? 移動に全力を出せば行けなくもないが……ジャレットたちの試用期間に十日間って言ってたのはどうすんだよ。
「ラージの街で少し滞在だ。約束の十日間はそこで過ごす。魔王の動向について最新の情報を確認することも、そろそろ重要だろう」
俺は『地の文』に逆らって宣言した。数日後に決戦はちょっと無茶だ。
「おお、いいね。情報収集も手伝わせてくれ」
ジャレットは乗り気だ。ユウオは……無反応。反発でもするかと思ったのに、そういうのもないんだな。
そして『地の文』はと言えば、何も示してこなかった。
俺の「十日間」を呑んだものか、それとも、俺の台詞は届かなかったのか。その答えはしばらく判らなかった。
と言うのは、そこからぱたっと、『地の文』の気配がなくなったからだ。
第7話「『地の文』の気配が薄い」へつづく
『地の文』くん、どした? 話聞こか?
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第7話「『地の文』の気配が薄い」もお楽しみに!




