06 あんなん見慣れて
本当は昨夜、レナと相談したかったんだよな、ユウオのこと。
でもそれどころじゃなくなって、俺も主にメンタル面が疲れて、早く休みたくなってしまった。
代わりに俺は、朝のお祈り中の神女様を申し訳なくも邪魔することにした。
「悪い、少し時間いいか」
「……普通なら怒るところだけど。重要なんでしょ、神様もお許しくださるわ」
レナは嘆息して、でも応じてくれた。優しい。
「シノンのこと?」
「ユウオのこと」
「ああ」
そっち、とばかりに彼女はうなずく。
ん? 何かいい香り。
「この部屋、花でも飾ってる?」
「え?」
「ああ、いや、甘い香りがしたから」
「あら、気づいてくれたの」
少し嬉しそうにレナが言う。うん?
「昨日神殿でね、香油の新しい配合を試してみたの。なかなかよくできたと思って、つけてみたのよ」
「すごくいい」
俺はうなずいた。
「華やか。甘いけど甘すぎなくて、レナにすごく似合う」
「有難う」
……あっ。
俺、また鈍感主人公の口説きやらかした!?
レナも、この前と違って何だか嬉しそう……え、ちょっと待って!
「好きなのよね、香りを作ったりするの。気に入ってもらえて嬉しい」
「あ、ああ、うん」
好きなことだからコメントされて嬉しかった!
俺に褒められて照れたとかじゃない! セーフ!
「そ、そうそう、神殿だけど」
こほんと咳払いをして俺は話を戻した。
「レナが神殿でもらってきたお告げ、あるだろ」
本物の、と脳内で付け足す。
「新たな光が災いを呼ぶ、みたいな……」
「それがジャレットじゃなくてユウオを指しているんじゃないか、と、言うのね」
「察しがいいな」
「私も考えたのよ、その可能性は」
ユウオの言動は明らかに不自然だった。「感情が表に出ない人」とか「喋るのが苦手な人」とか、そういうレベルじゃない。
「ジャレットに会ったとき、風術に特化した術士は珍しいという話をしたのを覚えている?」
「ああ、いろいろな術を操るのが一般的だって言ってたな。ユウオも同じか」
「ええ。火炎に特化した術士と言えそう。ジャレットと同じように、『少ないけれどいなくもない』。ただ、続くのは少し奇妙にも思えるわ」
俺より多くの術士を見知っているレナでも珍しいと感じる術士が、急にふたりも。偶然で済ませていいものか。彼女もそんなふうに思ったんだろう。
「……まさか魔物? シノンみたいな」
「可能性はあると思う」
レナは声をひそめ、俺も小声で同意した。
「確証はないが、シノンは昨夜、俺がユウオをどう思ってるか探りにきたのかもしれない」
さすがにバトルを覚悟はしたんだよな、昨夜は。でもシノン、また何か言って帰ってっただけだよ。人型を斬りたくはないけどさ、いいのか? 聖剣を手に入れた勇者の戦闘描写がほとんどないままで。俺はいいけど。
「あら、夜這いじゃなくて?」
「……レナさん?」
「半裸みたいな格好してたし」
「……それはそう」
レナがあの露出高めのシノンを見るのは初めてだったか。
「言っておくが、俺はぐらっときたりしないからな? あんなん見慣れてる」
しまった、これは語弊がある。
「ふうん、見慣れて」
しっかり聞き取られた。
「あの……姉がいまして……あんな格好で平気でうろうろと……」
もごもごと言い訳をする。レナは目を見開いた。え?
「家族の話なんて、してくれたの初めてじゃない?」
「あー……」
「故郷の話と同じように、弱みにならないよう話さないのは判ってる。でも、そうやってふっと出てくるくらいには、私の前で油断してくれてるのよね」
ふふ、とレナが少し照れたように笑う。可愛い。
そして胸が痛い。俺には、姉なんていない。
いまのは、漫画でたまに見るシチュを流用しただけなんだ。風呂上がりの姉がバスタオル一枚で歩き回るみたいな……現実にはあんまりないと思われるアレ……。実際には、女の身体なんて自分で見慣れてるってことで……。
何で姉なんて言っちゃったんだろう!
【そう、アーサーには転移前の世界に姉がいる。】
待て、『地の文』!
【三つ年上のグラマーなお姉ちゃんで、風呂上がりにはいつもパンツ一丁で彼の前をうろついたものだ。そのせいでアーサーは女体に耐性があった。】
ぐぐぐ……俺も想定してしまった以上、キモいとか有り得ないとか突っ込みづらい!
【アーサーの設定、詳細決めてなかったな。美人で爆乳の姉がいて、お兄ちゃん大好きの美少女妹もいることにするか。】
おい! さすがにそれはキモいって言うぞ!
【最初から微エロに走ればよかったなー。何で硬派で行こうと思っちゃったんだろう。】
……『地の文』?
【女勇者でさあ、魔物に捕まってちょっとエッチな目に遭うとか、そういうのの方がウケるよな。】
やめんかあ!!
【さすがにいまから路線変更は無理だなー。】
そう!! 無理!!
「アーサー? どうしたの?……お姉さんの話を聞いてしまったの、悪かったかしら。忘れるようにするわね」
「あ、いや、レナは何も」
俺がよっぽど変な顔をしたんだろう、レナに気を遣わせてしまった。
本当は姉なんていないと言うべきか……でも、じゃあ何でそんなことを言ったかって話になる……ええい、いつか謝ることにする!




