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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第7話 『地の文』の動向が怪しい

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06 一ミリも嘘じゃない

 ワーストエンドは、ユウオを両断――いや、感触がおかしいな。魔物を斬ったときの感覚と違う。もちろん、幸いにして、生身の何かという感じでもない。


「魔防盾!」


【レナが気づいた。妖術の盾がユウオの身体を守ったのだ。ユウオはよたよたと数歩退いたが、そのまま倒れて魔界に還ることはなく――うなり声を残して、消えた。】


「シノンのときと同じ……転送術ね。それも、外部からのものだわ。術の護りと言い、彼を死なせたくない理由があるのかも」


 一瞬でレナが冷静になって分析している。タフな聖女様だ。俺もジャレットも、まだそんな余裕はないのに。


「無事か、ジャレット」


 俺より、こっちの方がダメージでかいな。精神的に。

 全く疑ってなかったみたいなジャレットは、驚きでへたり込んでしまっている。


「おま……勇者すぎんだろ」


 ジャレットには「危機に勇者が颯爽と現れた」とでも見えたんだろう。俺は少し笑ってみせた。


「……ふたりとも知ってたのか? ユウオのこと」

「まあ、疑ってはいた」


 俺は微妙にごまかした。


「どうして言ってくれなかったんだ。いくら試用期間だったからって」

「それはな……怒るなよ? お前が『どっち側』か判らなかったからだよ」


 だいぶ信用はしてきてたけど、しばらく悩んでたのも事実だ。ジャレットは俺の返答に、まじかよ、などと呟いた。


【ジャレットは、ユウオのことをずっと勘違いしていた。と言うのは、彼はユウオもまた、自分と同じような転生者、或いは転移者ではないかと思っていたのだ。】


 ん?


【この世界に不慣れな様子や、「チート」のような強力な火炎術、ましてやアーサーが彼を「追放」しようとしたからだ。】


 あ。

 そういう、こと?

 俺はあんぐりと口を開けそうになった。


 ジャレットは、規格外のユウオを「主人公」だと思った、ってことか? 勇者パーティーから追放された「主人公」がその後「いい魔王軍」についたり……なんやかんやで勇者パーティーが酷い目に遭ったりする……そういうことを警戒して、ユウオを引き留めた?


 でも、それなら、ユウオと一緒に抜けることは考えなかったのか? 俺とレナを心配してくれたってこと?

 い、いいヤツ……!


 俺は思わず目頭を押さえてしまった。


「アーサー?」

「あー、レナ。あれ、開けられるか? 魔晶板」


 ごまかすように俺はレナに声をかけた。


「勝手に開けちゃ駄目でしょ」

「守ったんだぞ、魔物の手から。それに、ただ飾られてるよりいい方法がある」

「ああ、そういうこと。判ったわ、交渉は任せて」


 レナはにこっとしてうなずくと――可愛い――、さっと手を振った。板がぱかっとふたつに割れて、なかから貴重な杖が出てくる。


「ジャレット、これ使えよ」

「は?」

「あいつは、この杖を探してた。お前に使われたら厄介だから、ぶっ壊すつもりだったんだよ」


 自分が使うためじゃない。ユウオ自身は杖なしで火炎を出してみせてたしな。それに「壊す」と言ってた。それが役目だったんだ。


「んな馬鹿な。俺と一緒に行ったら、とめられるに決まってるだろ。夜になってからひとりで忍び込むとかするならまだしも、レナまでいるのに強行するなんざ」


 ジャレットは首を振った。


「でもユウオらしいだろ? 全く他人を気にしない、そういうタイプだったじゃないか」


 俺は少し笑って言った。ジャレットは判らないという表情のままだ。


「『ユウオという人間』の演技したってことか? 何のために?」

「だから、演技じゃなくて、あいつはずっと素だったんじゃないかってこと」


 俺はしゃがんで、稀少な魔杖を手にした。


「もしかしたら、あいつはお前が何度もかばってくれたり、世話してくれたことを覚えてて、クライマックスで力を貸してくれることだってあるかもしれないな?」

「ん?」


【こういう展示品を素手で触ってもいいんだろうか――などと考えていたジャレットは、アーサーが何を言ったのか一瞬理解できなかった。】


「俺はその手の展開、けっこう好きなんだよ。敵だと思ってたヤツが何かしらの恩返しで、終盤で味方してくる、みたいなの。お前は?」

「……は?」


 ジャレットは判らないと――いや、それとも判ったけど理解が追いつかないのかもしれない。


「つまり、俺は、転移型なんだ」


 俺はにやっと笑って囁いた。ジャレットの口は開きっぱなしだった。


「魔王を倒すまでは帰れないって訳だ。そろそろ故郷や本名も懐かしいが」


 すっと立ち上がると、俺はジャレットに魔杖を差し出す。


「帰るにはまだかかりそうだからな。手伝ってくれよ、同郷の風使い!」


―*―


 さすがに騒ぎはほかの見物人や職員にも伝わった。人々が集まってきてユウオの破壊行為の痕跡にギョッとしていたが、そこは歴戦の神女たるレナが「脅威は去りました。〈聖なる勇者〉が魔を払いましたのでもう安全です」とにっこりやれば、「そうか、それはよかった」「さすが勇者様だ」となってくれる。


 実際、一ミリも嘘じゃないし、「王様に認められた称号」と「魔王を倒す伝説」のコンボは強い。どっちか片方だけじゃ、台座の弁償をさせられたり――魔杖の提供なんて断られただろう。


【〈聖なる勇者〉に〈白銀月の癒やし手〉、更に〈太陽の撃ち手〉を揃えた三人は、彼ら自身が思うよりも「伝説」めいていた。】


 えっ、そうなん?


【展示の目玉でもあれば、歴史的にも貴重な品であるヴォルドヴァンドの杖を魔王退治に役立てたい、という希望が通ったのは、そのためだ。】


 有難さと照れ臭さがあるな。


【あれ?】


 え?


【何でアーサーはジャレットが転生者だと知ってるんだっけ。】


 あ。

 そうだった。しばらく『地の文』がきてなくて忘れてたが、『地の文』は「アーサー」がその事実を知らない体で書いてたんだったな。あいつは俺が『地の文』を読んでることを知らないから。


 別に合わせてやる必要はないと言えばないんだが、あいつのおかげで助かってもいるし……。


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