04 もっと仲良くなりましょ?
「何しにきた? こっちに用事はない。斬られたいなら要望に応じるが」
「『勇者の剣』に『奥まで刺される』のはどんなにイイかしら。試してみたいくらいよ」
魔物は上目使いで俺を見た。
剣……奥まで……? あっ……キモ! 発想がキモ!! 判っちゃったのヤダ!
【アーサーが眉をひそめると、シノンはまた笑った。】
「女好きのふりして潔癖、それとも本当は男好き? 急にタイプの違う男をふたりも侍らせちゃって」
BL方向に話題を振られた、訳じゃないだろう。俺の動向を知っているぞ、という主張だ。
「何だ? 強力な術士たちが俺につくことを警戒してんのか?」
少し乗ってやろう。俺はユウオの裏に全然気づいていないふりをした。
「うふふ、可愛い。少しくらい頑張ってもらわないと魔王様も甲斐がないから。いいんじゃないの、四人で仲良く、シュヴァルツ様の居城までやっていらっしゃいな」
つまり、ユウオを連れて行かせたいんだな? どういう理由だろうか。
たとえば……もし、仲間だと思ってた相手にラスダンで裏切られたら? そりゃショックだよな。でも見る側はあれだ、愉悦。まさか、そういう意図か?
でもそれなら、もっと人間とスムーズにコミュニケーション取れる魔物おらんの? 何で俺がユウオを受け入れると思ってる訳? まあ、すごい使い手ではあるから、そこか?
魔王軍は能力主義なのかもしれないな。対話が苦手でもスキルがあれば評価される……悪い話じゃない、と一瞬思ったけど、適材適所の配置ができない職場はやっぱ嫌だな。
「本当に入れてくれない気? 女に恥をかかせるなんて」
「やめんか」
俺は思わず素で突っ込んだ。シノンは目をぱちくりとさせて、それから大笑いする。
「何それ! 友だちみたいな言い方!」
「うっ」
つい、『地の文』にやるノリで。何もあれを友だちだと思ったことはないが。
「ふふ、仲良くしてくれて嬉しいな、アーサークン。もっと仲良くなりましょ?」
「肩紐を下ろすな。廊下だぞ」
「中に入れて?」
「断る」
「つれなぁい」
くねくねと身をよじるシノンは、たぶんでかい胸とかを見せつけてるんだろうけど……スタイルいいなとは思うけど、俺はそれだけなんで……。
「戦るなら表に出るか? ここじゃせま――」
「ヤるなら表で? アーサークンってば、大胆ん」
「斬るか」
このタイプの魔物、読む分には嫌いじゃない。描写が過剰だとキモいけど、「妖艶なお姉さん系妖魔」は好きな方。
でもな、自分が対象になるのは、別の話なんで!
【アーサーは〈ワーストエンド〉をかまえた。しかしシノンは平然としたものだ。】
「安全なところから威嚇してみせたってダメよ、仔猫チャン。本当にやるつもりなら出てらっしゃいな」
【招かれなければ魔物は個室に入れない。アーサーが部屋にいる限りシノンは彼を襲えず、逆もまた然り。斬りかかろうと踏み込めば、シノンの手が彼に届く。】
シノンはこれまで飛んで逃げるばかりで戦闘能力を見せてない。でもこの堂々とした態度と『地の文』の王道展開から推測すると、かなり強い。中ボス以上だろう。一刀両断は無理。
向こうは完全に、俺をからかって楽しんでる。俺が本当に斬りかかるのでも、このままやり過ごそうとするのでも、どっちでもいいと思ってる。
「……用件を聞こうか。わざわざ部屋を訪ねてきたのは、まさか神女の姿で夜這いするためじゃないだろ」
剣をかまえたままで俺は言った。シノンはまた笑う。
「『あなたの剣』で『刺してもらう』のも魅力的よ? でもそうね、これ聞こうと思って。――どうやって神女チャンを蘇らせたの?」
俺はぴくりとした。
「死んだでしょ、あの子。石像が粉々になったとき。なのにどうして、今日もあなたの隣にいるのかしら」
【シノンから、これまでの秋波が消えた。】
秋……? わざとらしいお色気のこと……?
「はっ、あんな呪いなんて『本物の神女』には効かないんだよ」
俺はよく判らない単語を無視して言い返した。
「生憎ね。アタシたち魔族の呪いなら神女に効果がないことは有り得るけれど、あれは人の呪いだって言ったでしょ」
「人間も怖えな」
ぼそりと俺は呟いた。
「どうであろうと、彼女は生きてる。俺も肝を冷やしたけどな。言っとくが、あの呪いについては見破った。もう全く効果ないからな」
しれっと出鱈目を言っておく。何も見破ってない。声と名前で石像に命を封じられるなんて、どんな仕組みだよ。狙われたら一発アウトじゃねえか。
「ふうん、呪いをすり抜ける方法を見つけたのね」
まあ、そうとも言えるか? 詳細を説明する気はないが。
「たまたまだというなら、どうでもいいわ。あのときは面白かったけど。何度もやるものじゃないでしょ。だいたい、あの石像で最後ですって。お爺ちゃんが泣いてたわ」
〈月の民〉がどうとか言ってたお爺さん……同情する気はないが、境遇を思えば少し気の毒ではある。でも、たとえシノンに誘導されたのであっても、レナを対象にしたことは絶対に許せないんだよな。
だいたい駄目だろ、人を呪い殺そうとしたら。石像がもうないなら、よかったよ。
「あなたに〈聖なる勇者〉としての特別な力があるなら知っておきたいの。シュヴァルツ様への手土産として、ね」
「『神女を死なせたと思ったが生きてた』のはお前の失態、ってことか」
挑発的に俺が言えば、シノンはきょとんとした。あっ、一瞬可愛……いやいやいや! 俺の趣味じゃない!
「あっは! どんだけ神女チャンのこと好きなの!? 悪いけど、あんな女にそんな価値ないわよ。おっかしー!」
レナに価値がないだと? 許さん。一瞬でも可愛く感じた自分も許せん。
「ふざけるなよ。俺は俺の仲間を大事に思っているし、守るつもりだ。……いま仮加入のふたりもな」
もしかして、シノンが聞きたいの、これじゃないか? ふと思いついて俺は「ユウオも仲間と思ってますよ」という意味のことを口にした。
「へえ」
にやりとシノンが笑う。当たったかな、これは。
「いいじゃない! 格好いいわよ、アーサークン! そのまま道化として、アタシとシュヴァルツ様を楽しませてね!」
俺は芸人じゃないが?
【シノンは、アーサーを道化師だと言った。】
あー、道化師! お抱えピエロ! 聞いたことあるぞ、確か世界史で……。
「知ってるか? 王様が近くに道化師を置いてたのは、楽しませるためだけじゃない」
「は? 何よいきなり」
「王様の周りにはおべっか使いが多い。だが道化師は、おどけたふりで鋭く真実を突いても許される立場にあり、『王様の間違い』を正すこともできたって話」
確かそんな話だったよな! 横山先生!
「魔王様」が間違いを犯していて、それを俺が正せる、という俺の表現にシノンがイラッとした顔を見せる。いつも余裕ぶってるのに、魔王様を貶められると腹立つのか?
……あ、これって、レナを悪く言われた俺と同じか?
「面白いけれど、少し調子に乗ったわね、勇者クン。出てらっしゃい、少し痛めつけてあげる」




