04 聖剣……何?
「『勇者に相応しい剣』を探していることは間違いない」
シノンさんに対して、俺はまず、そう返事をした。
「ただ、騙される訳にはいかない。いや、君が嘘をついていると言いたいんじゃない。『すごい由来があるが錆びている』だとか、『華美に飾り立てているだけで剣を合わせたら一合で折れる』みたいなものじゃ困るんだ」
実体験を話すと、シノンさんはぱっと顔を輝かせた。
「大丈夫です! 聖剣ですから!」
「聖剣」
思わず俺は繰り返す。ちょっといい響き。
「聖剣……何?」
「はい?」
「だから……銘みたいな」
エクスカリバーとかマスターソードとかロトの剣みたいな。やっぱりそういうロマンは欲しい。
「聖剣〈ワーストエンド〉です!」
「不吉!!」
反射的に俺は叫んだ。シノンさんはきょとんとした。あろうことか、エレナもだ。
「不吉ってどういう意味? 何か感じたの?」
「いや、ワーストエンドて……」
Worst Endだろ? バッドエンドどころじゃない、最上級!? 単語で分けても「最低、最悪」と「終わり」。そりゃもう不吉。呪われアイテムじゃんか!
「鍛治師ワースティスがエンディリオンの地で作った伝説の剣ですが……?」
シノンさんは首をひねる。あー、そういうやつ!?
俺には、これらの言葉は日本語や外来語に思える。『地の文』も同じだ。日本語の文章として感じ取れる。
でもこの世界の人々が日本語を話しているはずはなくて、もちろん英語でもない。言うなれば「翻訳小説」だろうか。
この辺が「転移者に都合がいい」ところなんだが、都合がよくて悪いことはないので……俺は気にしないことにしてる。
それでこの場合、「ワーストエンド」という単語が不吉な意味と一致するのは偶然か。それとももしこれを書いてる誰かがいるなら、適当に目についた単語とかを「かっこよさそう」と思って使ったか。
「鍛治師ワースティスって、伝承に出てくる名前よね。エンディリオンも神話の地よ。少し盛り過ぎな気もするけど、もし本物なら、求めていた『伝説の剣』の可能性はありそう」
エレナが真剣に検討している。うーん、ワーストエンドか……。
「本物です!」
シノンは両手を握って力説している。
【少なくともシノンは、それが本物だと信じている。】
いや不吉!「少なくとも」は「本当は違う」ってことじゃなくて!?
「……判った。ひとまず出向こう」
とりあえず、必須アイテムとして「伝説の剣」が必要なことは確かだ。
「着いたら、まずは剣を見せてもらえるか。持ち逃げなんかはしないからさ」
「もちろん、勇者様がそのようなことをなさるなんて思いませんわ!」
つけ加えた一言はちょっとした冗談だったが、シノンは「有り得ない」とばかりに頬に両手を当てた。少しわざとらしくも見えるけど可愛くもある。エレナの方がずっと可愛いけど。
【アーサーが決めたのなら、とエレナもうなずいた。彼らはそのまま、シノンの暮らす村へ足を向ける。】
そう言や『地の文』のやつ、あんまり地名を出さないよな。でかい街なんかはさすがに名前が出たけど、いまいる町とかこれから行く村とか、あんまり固有名詞が出てこない。
かと言って、名前がない訳じゃない。もし俺が尋ねれば、シノンさんは答えてくれるはずだ。
ただ、俺にはそれが「いま問われたから『地の文』が急いで名前をつけた」のか、「実際にもともとあって『地の文』が出していなかっただけ」なのか、という区別がつかない。これは、ここが「小説として作られた世界」なのか、「この世界について書かれた小説」なのか区別がつかない、ということと同じだ。
どちらにせよ、細かい村の名前まで描写する必要はないのかもしれないが……もし書いてるヤツがいるなら、「ワーストエンド」と言い、ネーミング苦手なのかもしれないな。
だいたい、「アーサー」もアレだよな。俺は好きだけど。ゲームで操作キャラの名前つける必要があるときは、よく使うし。
ん? もしかして「アーサー」に関しては、俺の好みが反映されてたりする?
だとしても「ワーストエンド」は、断じて俺の選択ではない!
【その村までは徒歩で丸一日。】
徒歩で!? 歩くのは俺たちだと思って、気楽に言ってくれるよ。……ま、そっちに行く馬車でも探すか。
―*―
この国の北方には「魔王」がいて、人々を苦しめている――というのが『地の文』の説明だ。
魔王が軍を率いて攻めてきたりだとか、そうしたことは長らく起きていない。
その代わり、ときどき大きな街にでかい魔物を送ってくるんだとか。破壊しようと思えば簡単だと力を示している、ってことっぽい。
いつも兵士が送られたり、戦士が集まったりして何とか倒してるみたいだが、被害はけっこうでかいと聞いた。
ただ、頻繁じゃないのと、結果的に何とかできてるので、何て言うか……「切羽詰まってはいないが、選ばれし〈聖なる勇者〉が魔王を退治してくれるなら有難い」くらいの空気だ。ゆるいと言えばゆるい。
でもそれくらいで助かるのかもしれない。一日でも早く魔王を倒さないと国が滅びる、とか言われたら俺も困る。
俺だって早く元の世界に帰りたいけどさ、「伝説の剣」が必須アイテムだっていうのに全く手がかりもないままだったんだから。
それがついに、手がかりだ。いや、手がかりどころか、答えの気配。
【やがてたどり着いた村は、いかにも「寂れた」という雰囲気だった。村の境を示す柵は見るからに傷んでおり、行き交う人の姿もない。】
幸い、隊商の馬車に便乗できた俺たちは、この世界で言う一刻、つまり二時間ほどで到着した。「徒歩で丸一日」は『地の文』の過剰な表現だったようだ。あいつ、数字に関して雑なんだよな。
とは言え、元の世界の感覚で考えると、二時間は遅いし長いしだるい。半年やってる内に少しは慣れてきたが、こんなときは新幹線が恋しい。
「こちらです!」
シノンさんがサッと先頭に立って俺たちを案内した。
「みんな! 勇者様よ!」
うっ、この瞬間はまだ小っ恥ずかしいんだよな。




