02 設定が渋滞しすぎ
客観的に考えて、ジャレットが転生者で、ユウオが魔王のスパイだった場合、ジャレットが更に魔王のスパイでもある、というのは設定が渋滞しすぎだ。
前に読んだ話でそんな複雑な設定のキャラがいて、俺は「嫌いじゃないけど判りにくい」と思ったっけ。
でも『地の文』がそれを面白いと思えば、ここではそれが事実になる。
厄介だ。
【アーサーの返答をユウオはどう思うのか、判ったとも駄目だとも言わずにただ黙った。】
怖えよ。
【レナは気遣うようにアーサーに目をやり、ジャレットはユウオに食事を勧めている。】
あー、ちょっと空気がよくないな。でも、それに気づいたところで、俺はどうすりゃいいんだ。俺にマネジメントの経験なんかないんだぞ。
【そんなとき、彼らを見つけて寄ってきた人影があった。】
何だ? 俺が振り向くと、確かにこっちにやってくる人物がいた。だいたいこの付近で共通の、町憲兵隊の制服を着ている。要はお巡りさんだ。
「何かありましたか」
俺はすっと立ち上がって尋ねた。町のお巡りさんには協力すべきだ、というのが俺の価値観だ。何か疑われているなら別だが、相手の顔つきからして、俺たちを捕らえにきたみたいな様子じゃなかった。
「貴殿は……〈聖なる勇者〉殿とお伺いしていますが」
町憲兵は丁重に言ってきた。そんなこと誰に聞くんだよ。『地の文』か?
「言いふらして回るつもりはないんですがね」
俺は頭をかいた。……ちょっと嫌味っぽいか?
「ああ、これは失敬」
慌てたように相手は手を振った。いい人そう。
「少々噂になっておりまして。ログの林で小鬼の群れを退治されたというのは貴殿らで間違いありませんか」
「ああ、まあ、そうです」
「ログ」の林って……丸太かよ。
「よろしければお話を聞かせていただきたい。あんなところに小鬼の集団が棲み着いたのは異例でして。何か気づいた点がないかと」
「ああ……」
普段はいない、ということを聞いた俺の頭には「俺をユウオに出会わせるための舞台」「ユウオの術で派手に吹き飛ばしてみせる演出用」「心配しなくても、今後同じように棲み着くことはない」という答えがぽんぽんと出てきたが、それをどう説明したものか。
「あー、俺、かも」
【ジャレットが手を上げた。全員の――ユウオ以外の――視線が集まる。】
「何だって?」
思いがけない「自首」に、俺は思わず問い返す。ジャレットは言いにくそうに続けた。
「最近、風術を練習してるって言ったろ。ちょっと前に、もう少し離れた連中の巣を……その、荒らしちまったことがあって」
「それで移動してたんじゃないか、と?」
説明はつく。有り得ることだ。魔物たちの生態やコミュニティなどは謎だが、街道の脅威になるような連中は「獣より知能が高い」と言われている。巣の周りに猛獣――風術を振るいまくるジャレット――が出れば、避難くらいするだろう。
ただ、疑いモードで見ると、「ジャレットによるユウオへのフォロー」にも見える。……厄介。
「何だ、お前、ジャレットか?」
「ん?……あー、あのときの親切な町憲兵さん! その節はどうもどうも」
「どうもどうも、じゃないんだよ。お前な、急に部屋を引き払うって何だ。婆ちゃん心配してたぞ」
「もう伝わってんの? いやー、それがさ、ちょっと旅に出るかもしんなくて」
「『かもしれない』で部屋を引き払うヤツがあるか!」
どうやら顔見知りらしい。部屋を紹介してもらったという感じだろうか。最後の一言には俺も同意する。
……これで、ジャレットの言葉に嘘がなかったことが判ったな。彼は確かにこの町に住んでいて、大家のお婆さんに迷惑をかけまいと、借り部屋を引き払ってきた。
「まあ、いい。お前が最近頑張ってたのは聞いてる」
「誰に聞くんだよ」
ジャレットが俺と同じような返しをする。『地の文』か?
「小鬼の件も悪意はなかったんだろうし、結果的に退治したなら問題ない。厳密なことを言うなら、自分で招き寄せた魔物退治の依頼を自分で請けたことになるが……」
「げっ、いや、そんな自作自演するつもりは一切」
「請けたのは俺ですよ、町憲兵さん」
ここはさすがにかばってやろう。俺はにこやかに片手を上げた。〈聖なる勇者〉にそう言われては、向こうも強く言えないはずだ。好きじゃないけどな、俺の実力じゃない知名度を利用するみたいなのは。
「ああ、そうでした、勇者殿。でしたら何も問題はなく……ところで、仲間にしたんですか、これを」
「これって言うなよな」
「試用期間でして」
正直に俺は答えた。
「巧くいかなければ、また部屋を紹介してやってください」
「そりゃないぜアーサー」
【ジャレットが肩を落とすのを見て、みんなが笑った。――ユウオ以外。】
……気味が悪い。
ユウオのことじゃない。いや、ユウオもだけど。
気になるのは『地の文』だ。
ユウオの不気味さを演出するなら、ユウオが魔王のスパイであることを読者にばらすべきじゃないだろう。何だか奇妙なヤツが、実は……という展開にするのが普通じゃないか?
『地の文』はそういう書き方を知ってるはずだ。シノンのときはそうだった。ただの村娘のふりをしていたシノンに「村娘らしからぬ美人」みたいな描写だけして、「実はシノンは魔物である」なんて雑なネタバレをしてこなかった。
なのに、ジャレットの転生者バラしから……いや、妹だのお兄ちゃんだのと言い出した頃から妙だ。
まさかとは思うが、『地の文』のヤツ、――「小説」を書く気をなくしてるんじゃないか?
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