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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第5話 『地の文』がネタバレをしてくる

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08 彼の名は

「アーサー! 一歩待ってくれ!」


 俺が飛び出しかけたところにジャレットが叫んだ。一歩待つって何だよ、とは思ったがニュアンスは判る。俺は踏み出した足を強引に一瞬止めた。


【ジャレットは両足を踏み締め、木製の魔杖を掲げながら右手で複雑な印を切った。と、風が走る。】


「ギイいいいい!!」


 小鬼が三体吹っ飛んだ。やるぅ。


「外した、倒しきれてない、すまん!」

「なーに、上等上等」


 俺は心の底から言った。


【アーサーが大地を蹴る。聖剣がうなる。ワーストエンドがついに魔を断ち切る!】


 楽しそうだなー……。

 でもまあ、名前はともかく、ようやくこいつのデビュー戦ではある。俺ももう少しテンション上げるか。


「おらああああ!」


 雄叫びを上げて小鬼たちに斬りかかった。「アーサー」は動体視力と瞬発力も大したもんで、俺はヤツらの素早さを上回る速度で追いつき、両断した。


「うおっ、やるなワーストエンド」


 思わず声が出た。武器としての使い勝手は戦士のおっさんから譲ってもらった中古の剣と大して変わらないだろうと思ってたんだが、ワーストエンドはまるでおろしたてのカッターが紙をスッパリやるみたいに、驚くほどの切れ味と「確かに切れた」という感触を俺に残す。


 要は、生々しくない。それっぽい手応えだけがある。


 俺はこれでいい。本当に助かる。

 ただ、悪く言えば――現実的じゃない。雰囲気だけの、作り物のよう。まるで、よくできたアトラクションのように。


 最初の頃は、「これってやっぱり、この世界が本物じゃないってことなのか……」みたいに悩んだりもあったんだけど、最近は「この世界の魔物っていうのはこういうものだ」って判ってきた。

 生き物を切ったり叩いたりする感触じゃないし、倒せば消えるし、そういう点が不気味で嫌がられてるところもある。「この世のものじゃない」という訳だ。俺からすると安心要素だけど、考えようによっては俺の方がバグってる感じなのかもしれない。


「ジャレット! 奥の二体に届くか!」

「ギリ行けそうだ、任せろ!」

「レナ!」

「済んだわ、行って!」


【風使いが杖を振り下ろし、距離を取った小鬼を両断した。神女の護りがかすかな光となって自身を包むのを待つことなく、勇者は切り込んでいく。棘だらけの武器らしきものを持った小鬼たちは、それを振り下ろす間もないまま聖剣に倒れ、霧となって消えていった。そこに、キラリと何かが光る。】


 魔石か?


「レナ、魔石の回収を頼む! ジャレット! あと一体届くか!?」


 一体が逃げ出したのを見て、俺は叫んだ。


「無理だ!」


 悔しそうなジャレットの声を聞くと、俺は再び駆け出した。


「仲間を呼ばれちゃまずい」

「無茶はしないで!」


 レナの声が背中に届いた。俺はワーストエンドを上げて返事の代わりにする。

 深追いはしないつもりだが、ねぐらが近くにあるようなら、改めて掃討を考える必要がある。俺たちが請けるかはともかく、町の近くはなるべく安全に――。


 ガサガサと草をかき分けて小鬼を追いかけた俺は、そこでギクリとした。

 急に開けた場所がある。

 そこに……。


【アーサーは、その先に数十体もの小鬼がいて、彼を見ていることを知った。】


 ヤバい!


 血の気が引いた。さすがに多い。完全に見つかってる。

 逃げるか? 一体にでも捕まったら終わりだ。すぐにレナとジャレットが追いついてくれば、何とかジャレットの風術で数を減らして――。


「キシャアアアアアアアア」


【三体の小鬼が同時に飛びかかってきた。】


 くそっ、やるしかない!


【アーサーは聖剣を振るう。一閃、二閃、しかし三閃目を振るわんとしたとき、彼の左肩に何かが当たった。】


 痛え! 投石!? くっそ、生意気なことしやがる!

 右手じゃなければ剣は問題なく……。


【利き手側でなければ問題ないかと思いきや、そう簡単にもいかない。魔物は獣よりずっと賢く、道具を使って投石を行ったのだ。手で投げたものが当たったのであっても人は負傷する。ましてや、編んだ布のようなものを振り回して投げたものであれば。】


 くそ、まじだ、投石器みたいなもんまで使ってる! 一瞬は行けるかと錯覚したが、走った激痛は引かないどころか強まる。右手は動くはずなのに、動かなかった。

 レナの護りがあってこれってことは……折れたでも済まないかも……。


「キイイイイイイイイイイ!」


 走ってくる。五体ほど。棘だらけの、小鬼の剣みたいなのを持って。

 どうする。何とか、激痛を無視して、剣を。

 できる気がしない。


【勇者が絶体絶命となった、その瞬間だった。】


 ――あれは?


【アーサーの視線の先、小鬼たちの向こうに、人影が現れた。】


 誰だ? レナやジャレットは、俺の後ろだ。


【その影は、何かをかまえた。わずかに背を縮めて、それから伸びるようにした。次の瞬間。】


「うああっ!?」


 反射的に右手が顔の前に出た。とんでもない轟音のあと、熱風がやってきたからだ。

 痛え!! 意志の力で動かせなかったのに反射では動く!! でも痛え!!


 俺は気を失いそうな激痛に耐えながら、起きた出来事を見た。


【小鬼たちは、跡形もなく消え去った。辺りには、パチパチと木の爆ぜる音。いまの爆音と熱。――強烈な火術だ。】


 ジャレット、じゃない。

 火だから、と言うだけではなく、そのシルエットは見慣れはじめたジャレットのそれより明らかに小さかった。


 ゆっくりとこちらを見てくるのは、子供……いや、そこまでじゃない。十代の半ばは越えていそうだ……少年ってところか。


「……倒した」

「お、おう」


 助かった。この子の火術で。

 だが……何者だ?


【彼の名は、ユウオ。勇者の危機を救うことによってその懐に潜り込むという使命を帯びた――魔王シュヴァルツの手先である。】


 さすがにそのネタバレは酷すぎるが!?



[第6章「『地の文』の様子がおかしい」へつづく]


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